第9回

メソ気象セミナー

目的

メソ気象セミナーでは、「メソ気象研究のこれまで・今・これから」をコンセプトとしてセミナー形式で議論することを目的としています。議論の内容は、数多くの観測的・数値的・理論的な研究により明らかにされてきた『メソスケール気象学』について、これまでにどこまで理解されているのか・現在はどのような研究が行われているのか・さらには今後どのような研究を行っていくべきかについて取り上げます。

今年のテーマ:「ナウキャスト」

今年のメソ気象セミナーのテーマは「ナウキャスト」です。特に、急激に発達する積乱雲に伴う極端気象の1時間程度先までの予測に焦点を当てます。

趣旨説明

急激に発達する積乱雲に伴い、「ゲリラ豪雨」・竜巻・雷・雹などの極端気象が引き起こされ、しばしば人的・経済的被害がもたらされます。このような被害を軽減するためには、急激に発達する積乱雲に伴う極端気象を、1時間以内の短時間予測(ナウキャスト)において、高精度に予測する必要があります。現業の予測手法としては、レーダーで捉えた降水分布の時間補外を基にした「補外ベースナウキャスト」が主流です。一方、研究ベースでは「深層学習を用いたナウキャスト」や、積乱雲スケールの観測データを同化した「数値予測」が単純な補外ベースのナウキャストの精度を上回りうることが近年示されてきました。

今回のメソ気象セミナーでは、4名の講師をお招きしナウキャストに関するご講演いただきます。気象庁の蟻坂隼史氏からは「気象庁高解像度降水ナウキャストの現状と課題」について、理研の大塚成徳氏からは「深層学習を用いた降水ナウキャスト」について、理研の雨宮新氏からは「30秒更新の超高頻度レーダデータ同化による数値予測」について、防災科研の清水慎吾氏からは「積乱雲群の観測・予測技術の発展と社会的期待」についてご講演いただきます。


これらの講演を受けて、急激に発達する積乱雲に伴う極端気象の1時間程度先までの予測に対して、今後どのような予測技術が有効か、予測精度向上に必要な観測やメカニズム解明、社会のニーズに答えるためにどういった予測情報が必要かなどについて議論します。

開催日

 2023 年 9 月 23 日 (土) 〜 24 日 (日)

開催場所

高知県高知市文化プラザかるぽーと (第三学習室)

https://www.bunkaplaza.or.jp/

参加費用

 無料

定員 :  40 名

※ポスター発表は16件まで募集

申込締切

 2023 年 9 月 1 日 (金) 

※ポスター発表は定員になり次第締め切り

懇親会

日時:9 月23 日 (土) 18:30〜20:30

会場:大黒堂 https://katsuotataki.net : カツオのたたきが美味しいそうです!)

会費: :7000 円程度(学割あり)

申込み方法・問合せ先


参加フォームはこちら


お問い合わせは,メソ気象セミナー事務局 meso.discuss [at] gmail.com まで.

 (お手数ですが,[at] を @ に変えて送ってください.)

セミナーの日程・タイムスケジュール

*スケジュールは変更になる場合があります。

1日目 9月23日 (土)

  9:30〜10:00:受付

  10:00〜10:15:概要説明

  10:15〜11:45:第1部「気象庁高解像度降水ナウキャストの現状と課題(蟻坂氏)」

  13:00〜14:30:第2部「深層学習を用いた降水ナウキャスト(大塚氏)」

  14:50〜16:20:第3部「30秒更新の超高頻度レーダデータ同化による数値予測(雨宮氏)」

  16:30〜18:00:参加者ポスターセッション

18:3020:30:懇親会@大黒堂

2日目 9月24日 (日)

  09:30〜11:00:第4部「積乱雲群の観測・予測技術の発展と社会的期待(清水氏)」

  11:15〜12:00:総合討論

特別講演 要旨


第1部 気象庁高解像度降水ナウキャストの現状と課題(蟻坂氏)


気象庁では、目先1時間先までの降水分布を水平解像度250mで予測する高解像度降水ナウキャストを運用している。高解像度降水ナウキャストは、気象庁や国土交通省のレーダー観測のほか、地上気象観測、高層観測などの観測データを利用して降水分布を解析し、補外予測手法によって将来予測している。本講演では、高解像度降水ナウキャストの処理概要のほか、抱えている課題や将来展望について解説する。


第2部 深層学習を用いた降水ナウキャスト(大塚氏)


数十分~数時間先までの降水予測には、レーダ観測や衛星観測に基づく実況を時空間補外したナウキャストが主に用いられてきた。従来は降水セル追跡や相互相関法による移動ベクトルの算出と、それによる移流計算が用いられてきたが、近年は機械学習手法の一種である深層学習を用いた手法が次々に提案されている。主な技法としては、画像分析に使われる畳み込みニューラルネットワーク(CNN)とその発展系のUNet、時系列解析に用いられる長・短期記憶(LSTM)、より本物に近い画像を生成する学習手法の敵対的生成ネットワーク(GAN)などが挙げられる。本講演ではその中からいくつかの手法を紹介し、今後の課題について議論する。 



第3部 30秒更新の超高頻度レーダデータ同化による数値予測 (雨宮氏)


気象レーダの観測データを用いた高解像度の数値予報モデルによるデータ同化と数値予報は、降水現象の予報において有力な手法である。これまで長年にわたり様々な研究がなされており、現業機関でも活用されている。しかし、積乱雲の時空間スケールにおけるデータ同化と数値予報には特有の様々な問題、例えば非線形性、非ガウス性、観測とモデルのバイアス、スケール間相互作用、現象自体の予測可能性の限界などがあり、降水予報への応用には困難が多い。こうした問題は簡単には解決できないが、観測やモデルの時空間解像度を増やしたビッグデータによる実験により問題を理解し解決するための示唆を得ることができる。理化学研究所を中心とした研究グループでは、30秒毎に更新されるフェーズドアレイ気象レーダ(PAWR)の観測データおよびスーパーコンピュータ「富岳」の強力な計算能力を活用して、他では実現し得ないような高頻度・高解像度・大アンサンブルのデータ同化というアプローチでこの問題に取り組んできた。

本講演では、まず気象レーダのデータ同化の概要と、現在の各国の現業システムにおける位置付け、および現状の諸問題を概観する。その後、主に2021年夏季のリアルタイム降水予報実験を中心に、理化学研究所で行ってきた30秒更新のデータ同化に関する研究内容を紹介する。 



第4部 積乱雲群の観測・予測技術の発展と社会的期待清水 氏

局地的大雨や降ひょう、竜巻、落雷、さらには線状降水帯などの極端気象は発達した積乱雲から発生する。ひとつの積乱雲の寿命は1時間程度と短いため、その予測のリードタイムも短く、このような予測情報は十分に社会に活用されていない。 しかし、地球温暖化に伴う大雨の頻度の増加が懸念されている中、将来の気候に適応するためにはこのような予測情報を積極的に活用していくユースケースが増えると思われる。ただし、そのためには、現在の積乱雲(や積乱雲群)の観測・予測技術の課題を整理した上で、社会的期待に応える、もしくは社会が積極的に活用するために、観測・予測情報の不確実性について、更なる定量化をめざし、また同時に社会に向けてその意味するところを翻訳・解釈していく活動が必要になってくると考えられる。第2期SIPで行った、線状降水帯の観測・予測技術の開発とその予測情報の自治体における利活用の実例を通して、極端気象の予測情報の自治体における利活用を紹介する。同時に、現状の観測技術の整理として、日本が世界に類を見ない高密度レーダ観測を利用した複数台ドップラーレーダ解析や自動積乱雲追跡技術を紹介し、様々な積乱雲のハザード情報の利活用に結び付いたユースケースを紹介する。

予測技術の向上については様々な水蒸気観測データを同化することで積乱雲群の予測精度向上が図られてきた。一方、こうした予測はまだまだ見逃しや空振りがあり、完ぺきではない。予測精度については果てのないゴールを目指すことが正しいのか?社会はどの程度の不確実を許容できるのか?を十分に気象学会で共有しておくことは今後の研究の目標や方針を立てる上で、非常に重要だと考え、こうした話題を提供します。

講師の紹介

蟻坂 隼 (ありさか じゅんじ)氏

気象庁 大気海洋部 業務課 気象技術開発室

略歴

2007 気象大学校 卒業

 気象庁予報部数値予報課、予報部予報課、観測部観測課観測システム運用室などを経て、

2020年〜現在 気象庁 大気海洋部 業務課 気象技術開発室

大塚 成徳 (おおつか しげのり)氏

博士(理学)(京都大学)

理化学研究所 計算科学研究センター データ同化研究チーム

略歴

2009年     京都大学大学院 理学研究科 地球惑星科学専攻 博士後期課程 修了

2009~2009年 京都大学大学院 理学研究科 研究員

2009~2012年 京都大学大学院 理学研究科 特定研究員

2012~2012年 京都大学 学際融合教育研究推進センター 特定助教

2013~2016年 理化学研究所 計算科学研究機構 特別研究員

2016~現在   理化学研究所 計算科学研究センター 研究員

2018~現在   理化学研究所 数理創造プログラム 研究員(兼務)

2018~現在   京都大学大学院 理学研究科 連携准教授

2019~現在   理化学研究所 開拓研究本部 三好予測科学研究室 研究員(兼務)

受賞歴

2020年 理化学研究所 桜舞賞

雨宮 新 (あめみや あらた)氏

博士(理学)(理化学研究所)

理化学研究所 計算科学研究センター データ同化研究チーム

略歴

・2018年 東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻 博士後期課程 修了

・2018年~現在 理化学研究所 特別研究員

清水  慎吾 (しみず しんご)氏

博士(理学)(名古屋大学)

防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門

略歴

・2007年12月 名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻 博士課程修了

・2006年4月 (独)防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部 契約研究員(研究員型)

・2008年4月 同 任期付研究員

・2010年8月 同 研究員

・2012年4月 (独)防災科学技術研究所 観測予測研究領域 水・土砂防災研究ユニット 主任研究員

・2018年12月 (国研)防災科学技術研究所 国家レジリエンス研究推進センター 研究統括

・2023年4月-現在 (国研)防災科学技術研究所 水・土砂防災研究部門 主任研究員

・2020年12月-現在 (兼業)気象庁 線状降水帯予測精度向上・ワーキング・グループ 構成員

・2022年4月-現在 (兼業)横浜国立大学 先端科学高等研究院台風科学技術センター 客員教授

受賞歴

2022年4月 国立研究開発法人防災科学技術研究所 理事長表彰 線状降水帯の発生・発達の早期予測に関する社会実装への貢献

・2022年4月 2021年度日本気象協会岡田賞 業務功労表彰 線状降水帯の観測・予測技術を向上させ、大雨災害軽減への取り組みに貢献した功績

世話人 (五十音順)

鵜沼昂 (気象研),春日悟 (三重大),加藤亮平 (防災科研),下瀬健一 (防災科研),末木健太 (気象研),津口裕茂 (気象大),栃本英伍 (気象研),西井章 (名大)横田祥 (気象庁) ,吉住蓉子 (日本気象協会),渡邉俊一 (気象研)

謝辞

本セミナーの開催は,JSPS 科研費 「局地的大雨予測のための雲レーダー同化手法の高度化」(22K04345) の助成を受けたものです

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