可換環入門を読んで

2006年4月

by M.Y.

Introduction to Commutative Algebra(M.F.Atiyah & I.G.MacDonald)は線形代数、代数入門(群・体)、ホモロジー代数入門、位相入門程度の知識があれば読める。事前に、高木貞治「代数学講義」、佐武一郎「行列と行列式」、藤崎源二郎「代数的整数論入門」、アルチン「ガロア理論入門」、永田雅宜「抽象代数への入門」「可換体論」、上野健爾「代数幾何入門」、菅原正博「位相への入門」などを読んでおいた。

2004年に入手した版は初版と思われる。Oxford大学の3年生向に開発された講義から起こされている。序に、「エレガントかつ魅力的な理論の数学的構造をより明らかにする誘惑に抗し、短い積み上げで、ルーチン的な確認を排除して主な定理を築き上げることを目的とした」と述べている。内容に比べページ数が少なく、原典的な性格を持続させている。全く飾り気がなく、命題の証明も圧縮されているが、読者を突き放すようなところがない。教科書なので、丁寧に読めば、理解できるようになっている。

章末の問題を解くことによって、読者が論理構築を行なうように計画されている。順序よく並べられており、本文中の命題のみならず、前に出ている問題の結果を利用するので、問題を解くのをおろそかにすると、あいまいさが増幅される。

1章は、環とイデアル。演習問題で、Zariski位相、代数多様体との関連。

2章は、加群、ホモロジー代数、テンソル積。演習問題は、環や加群の応用問題、帰納的極限、帰納的極限とテンソル積との可換性。

3章は、環と加群の局所化。演習問題で、ファイバー空間、層の概念。

4章は、準素分解。演習問題で、局所化と準素分解の関連、加群に関する準素分解。

5章は、整と付値。演習問題で、整拡大に伴う位相と写像など。

6章は、昇鎖列、降鎖列。演習問題で、ネーター位相空間。

7章は、ネーター環。演習問題で、それまでの章に関する内容でネーターの条件下で成り立つことを中心に総ざらえする。Grothendieck group。

8章は、アルチン環。

9章は、DVRとデデキント整域。

10章は、完備。p進位相。演習問題で、Henselの補題。

11章(終章)は、次元。3種類の次元の定義(Hilbert関数による定義・イデアル生成元の最小数・素イデアルの高さ)が一致することを証明する。正則局所環、超越次元。

章末の問題を解いたので添付する。間違いがあれば、指摘して欲しい(Email: mathlife1@yahoo.co.jp)。

【解答内の記号など】

・J(A)は環AのJacobson根基。

・⊇と⊃を区別している。

・≧と>を区別している。

・¬は否定を意味する:

「¬AB」は「ABを含むことはない」と読む。

「¬xp」は「xpのメンバーではない」と読む。

・∧はand記号、∨はor記号として使っている。

・∀、∃を次のように使うことがある:

「0≠∀aA」は「Aの0でない任意の元をaとする」と読む

「素イデアル∃qp」は「pを含む素イデアルがありqとする」と読む。

・「引き戻し」はContractのこと。

本文を番号で参照している。(3.5)はProposition 3.5を指す。