Marvin Sketchによる

Fullereneの立体分子描画

フラーレン (fullerene) は,炭素原子のみで構成される、閉殻空洞状化合物の総称である.最初に発見されたフラーレンは,炭素原子60個で構成されるサッカーボール状の構造を持ったC60フラーレンである.

1985年,C60フラーレンの実在がハロルド・クロトーリチャード・スモーリーロバート・カールらによって証明され1996年度のノーベル化学賞を受賞した

C60フラーレンは一見,不活性な化合物に見えるが,医薬,化粧品,電子材料等の応用面での研究が進められている.詳細は参考資料を見てほしい.

C60フラーレンの構造を描く方法としては,結晶解析データがあればその三次元座標を使って,ORTEP等で描くことができる.そこまでしなくとも分子描画ソフトで描く方法はないかといろいろ探していたら,Marvin Sketchの3D化機能を使って描けることが分かった.以下にその詳細を紹介したい.

五員環の周囲をベンゼンが取り巻くようにベンゼンを配置してコランニュレン (corannulene) を描く. 炭素数は20個である. この構造を基本に,して, ベンゼン環を縮環させていく.

以前のブログで紹介したように, 本化合物はお椀型をしたペコペコ反転する分子である.

15個のリングを左図のように繋ぐと,3D化操作(Clean in 3D) で椀型へ変化する.38原子

炭素数 46

炭素数53

炭素数55

炭素数60

C60-fullereneの完成である.

回転モード(F7)にすると中心に長方形(斜線付)が現れる.マウスで長方形の向きを変えることによって球体が回転する.

F7は以下の操作と等価である.

Edit → Transform → Rotate in 3D → Free 3D Rotation

完成したらEdit→Template Library...→Template Library Managerと移動してテンプレートとして登録しておけば何時でも呼び出すことができる.

Marvin Sketchは分子の二次元描画アプリでありながら,三次元構造を構築することができる.完成したら三次元座標として種々のフォーマットで保存することができる.次図はC60をxyz形式で保存し,三次元構造表示アプリ,VESTAで表示させた結果である.

C60の三次元座標(折りたたみ)

60


C 3.24672 0.21554 1.16474

C 2.08191 0.35871 1.94027

C 2.07418 -0.65948 2.90853

C 3.23495 -1.43292 2.73098

C 3.88613 -0.37140 -1.12441

C 3.20999 0.47868 -0.23204

C 3.96030 -0.89235 1.65496

C 4.64333 -1.75229 0.75223

C 4.60626 -1.49291 -0.62908

C 0.86706 0.76579 1.32742

C 0.85037 -1.28363 3.27491

C -0.34345 0.14762 1.68899

C -0.35238 -0.88289 2.66753

C 4.59489 -3.14478 0.93568

C 3.18533 -2.84107 2.91540

C 3.86084 -3.69215 2.02282

C 2.00749 0.88012 -0.83919

C 0.82950 1.02387 -0.05513

C 0.80251 -2.67741 3.45732

C 1.97570 -3.45971 3.27656

C 1.90482 -4.69360 2.60524

C 4.53510 -2.72688 -1.29826

C 1.93936 0.27681 -2.10751

C 3.10055 -0.49683 -2.28351

C -1.12598 0.02142 0.52753

C -0.40335 0.56393 -0.54961

C -0.43058 -3.13796 2.96315

C -1.14343 -2.02917 2.47411

C 3.02735 -1.74405 -2.96000

C 3.73868 -2.85296 -2.46905

C 0.65800 -5.15794 2.10472

C -0.50247 -4.38468 2.28362

C -1.92808 -1.13645 0.33264

C -1.93696 -2.15555 1.30045

C 0.69265 -0.18866 -2.60729

C -0.47228 -0.04441 -1.83278

C 0.62026 -1.42239 -3.27766

C 1.79383 -2.20323 -3.45426

C -1.26342 -1.19176 -2.02525

C -1.99485 -1.73883 -0.93617

C -2.00692 -3.38904 0.62980

C -1.28687 -4.51058 1.12313

C 3.06903 -4.83763 1.82980

C -2.04401 -3.13190 -0.75223

C -0.58887 -2.04314 -2.91904

C 4.52885 -3.74794 -0.33260

C 3.00170 -5.44850 0.54812

C 3.72693 -4.90595 -0.52695

C 1.76805 -5.90867 0.05452

C 0.59052 -5.76147 0.83655

C 2.94551 -3.99732 -2.66069

C 2.94013 -5.03074 -1.68505

C 1.73061 -5.65143 -1.32753

C 1.74366 -3.59583 -3.26855

C -0.61245 -5.36162 0.22888

C -0.63956 -3.45130 -2.73327

C 0.52154 -4.22398 -2.90753

C -0.64959 -5.10183 -1.16821

C 0.51507 -5.24626 -1.94165

C -1.36212 -3.99251 -1.65614

追記

ベンゼン環を上部に付けた左の構造でも椀型を与える.38原子

前の化合物において,3D化した椀型構造からベンゼンを除去し,次いで2D(平面)化した構造を用いて,3D化したら椀型に変化した.椀型を得るには36原子程度は必要と思われる.