Marvin Sketchの3D化機能

二次元平面構造を選択し,3D最適化(Clean in 3D, 上段メニューの右から3番目のマークをクリック)すると,分子全体の安定性を加味した三次元構造が生成する.分子の一部の配座を変えることもできる.以下に実例を示した.

アトロプ異性体注)

研究職に就いていた頃,論文作成の際に立体的に見せるのに苦労した化合物にアトロプ異性体がある.Marvin Sketchなら容易に実現できる.以下にその概要を示した.

注)単結合の回転が束縛されるために生じる単離可能な回転異性体(参考資料)

立体構造を無視して二次元で分子を描き,全体を選択する.2D画像が歪んでいる場合は 2D in Clean(上部メニュー)を実行してもよい.

以下のメニュー(ショートカットあり)にそって3D化する.

得られた3D画像を回転させて全体をチェックする.

部分構造(置換基)の回転

回転させたい置換基を選択し,メニューからGroup Rotationを選択する.

選択した部分構造に繋がる単結合を軸に回転可能

一対の回転異性体の構造,反応式に貼り付ければ遠近法を加味した二次元画像であるが,三次元座標情報を有している.

上図のようにナフチル基だけを自由に回転させることができる.それぞれをmrv様式で保存し,Avogadro(量子化学計算モデリングソフト)等で読み込み,水素を付けた後,力場計算でリラックスさせれば,MOPAC等の分子軌道計算用の入力データを簡単に作成することができる.

その他の例

中員環化合物

平面構造のシクロヘキサトリエンを選択し,2D最適化(Clean in 2D)すると二番目の構造が得られる.さらに,メニューのClean in 3Dをクリックすると,オワン型のシクロヘキサトリエンが生成する.F7をクリックすると回転モードになるので,回転させて3D構造をチェックすることができる.2D最適化は必ずしも必要ではない.

アゼピンの場合も類似の構造を与える.

トロポンは3D化しても平面構造のままで結合距離だけが変化した構造を与える.

シクロペンタジエノン類と環化付加体

フェンサイクロンの平面構造を選択し,メニューのClean in 3Dを選択すると,2個のフェニル基が回転した安定配座を得ることができる.平面構造に於けるフェナンスレン環の水素とフェニル基の水素の反発を最小にするように回転させた構造に変化しているようである.

フェンサイクロンとエチレンの環化付加体の3D構造

シクロペンタジエノン誘導体と無水マレイン酸との環化付加体

以下の場合は3D変換後,環化付加で生成する2個の結合をエンド側に固定するために手を加える必要があった(2D画像は省略).

2D画像にエンド,エキソ体(カルボニルと2個の水素の関係)であることを明示した場合のそれぞれの3D変換(1クリック)結果を以下に示した.

脂環式化合物

デカリン

立体を明示しない場合,トランス型を与える.

立体を明示した場合

シス体の場合

アダマンタン

キュバン

プリズマン

炭素骨格は問題ないが水素の位置はPM6法でのみ再現

MM

PM6

コレステロール

不飽和結合を含む脂環式化合物(環化付加体)

ノルボルナジエンの場合は,左側に示した平面構造を3D化すると右側の3D構造が得られる.

シクロペンタジエンとトロポンの[4+6]付加体を平面構造で描き3D化処理した際の立体構造

シクロファン類

次図はメチレン6個を有するシクロファンの例である.

[2,2]パラシクロファンの対面構造はうまく再現できなかった.2個のベンゼン環はFace-to-Face相互作用型ではなく,Edge-to-Face型である.力場法では対面構造を与える.

使用感

二次元画像から得られた三次元画像を最初から描くとなるとかなり苦労する.フリーのソフトを利用して,いい加減な二次元画像から1クリック(次図上段メニュー,右から3番目のボタン)で三次元画像を得ることができるのは驚きである.得られた3次元画像はF7キー&マウスで回転させて任意の方向から見ることができる.

分子の三次元座標として保存

分子計算するためには,3次元座標が必要であるが,Marvin Sketchで作った3次元分子を分子座標として保存すればテキストエディターで確認することができる.水素が欠落している場合はAvogadro等の分子計算ソフトを用いて水素を付加した後,分子力場で構造最適化すれば分子軌道計算用の入力座標を得ることができる.

参考論文

回転異性体との遭遇(解説)とその中に引用した 博士論文(伊藤文一 熊本大学).
Atropisomers of 1-(Acyl or Aroyl)-2-naphthylindolines. Isolation, X-Ray Crystal Structure and Conformational Analysis, Ito F., Moriguchi T., Yoshitake Y., Eto M., Yahara S., Harano K.,
Chem. Pharm. Bull., 5 1, 688-696 (2003).

(2021.7.4)