血圧とは、「血」管の壁にかかる「圧」力です。
血管の中には、液体=血液が流れています。水道の蛇口にホースをつないで、ホースの中を水がぐいぐい流れている様子を想像しましょう。
血管という”ホース”の内壁にかかる圧力が高いと、ホースの傷みが早くなります。
血管の壁の内側に、高い圧力がかかる状態が続いていると…
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血管の壁の内側に、慢性的な炎症が起きるようになります。
いつまでもじくじく治らない傷のようなイメージです。
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すると、「かさぶた」のようなものが壁に張り付き始めます。
(これを、医学用語ではプラークと言います。)
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現代の医療の未熟なところですが、既にできてしまったカサブタをなくす薬は現在のところありません。そこがポイントです。
壁にかかる圧力が高い状態が続き、じくじくした炎症がずっと続いていくと、長い年月の間に、どんどんカサブタが増えていきます。血管の内側はどんどん狭くなっていきます。
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そして、ある日、血管が詰まります。
脳の血管が詰まると、脳梗塞になります。
心臓のそばの血管が詰まると、心筋梗塞になります。
タバコを吸う方の場合は足の血管も詰まることが知られていて、閉塞性動脈硬化症と言います。数メートル歩くと血流不足で足に激痛が走り、休むと治まるけれどもまた歩くとまた激痛、というとてもつらい病気です。
また、カサブタができるような血管は、もろくもなっています。破れます。
脳の血管が破けると脳出血になります。
胴体の中心を走る、大動脈という大きな血管が破けると、大動脈解離や大動脈瘤という命に関わる病気になります。
このようなお話をすると、「いいのいいの、先生、俺はいつぽっくりいってもいいんだよぉ」とおっしゃる患者さんが必ずいらっしゃいます。
「ピンピンコロリ」を理想とされる患者さんは多いです。脳梗塞、心筋梗塞と聞くと、「ピンピンコロリ」だとお思いになる方が多いですが、実際は違います。脳梗塞は麻痺や言語障害で、心筋梗塞は心不全で、長い間後遺症にお苦しみなる方が多く、つらい病気です。
できてしまったカサブタを取り除く薬はありません。
そのため、「そもそもカサブタが作られることのないように、血管の壁への水圧を下げる=血圧を下げる」という風に、カサブタを予防することが、重要になります。
長い間、血圧が「140/90mmHg」以上(上の血圧または下の血圧のどちらかが上回っていれば該当)、というのが高血圧の定義で、シンプルでした。
最近は、血圧が「130/80mmHg」以上だったら、もう高血圧の治療を初めてもいいのでは?という風に変わってきています。(ただし高血圧という用語の定義は140/90以上のままです)。
この話を聞くと、」えぇ?人間の体が進化したわけじゃあるまいし、基準値が変わるってどういうこと?」という疑問が当然生じるかと思います。
この疑問にお答えすることで、高血圧症の治療にどうやって向き合えばいいのかがわかるようになるので、詳しくお答えしていきます。
血圧の基準値というのはどうやって決まっているかというと…
数万人という大規模な統計調査を行うのです。沢山の方に協力をあおぎ、血圧を測った上で、何年も追跡調査をしていきます。
そして、「これくらいの血圧だった人達は何%の確率で脳梗塞になりました」「これくらいの血圧だった人たちは何%の確率で心筋梗塞になりました」...というのを割り出していきます。
するとやはり、血圧高ければ高いほどいろいろな病気になるリスクが上がっていくわけですが、統計処理をすると、「特にこの値を境にリスクが上がる」ということがわかってくるわけです。その境目が、140/90とされてきたわけですね。でも、データが蓄積されてきて、どうやら130/80より低くしておかないと結局結構リスクがあるよ、ということがわかってきたわけです。
「基準値よりもちょっとしか高くなかったから大丈夫、大丈夫」と思いがちですが、血圧の基準値というのはこういう風にして決まっているので、1mmHgでも2mmHgでも基準値より高ければ、「リスクが高い」ということになるのです。