長ーい炭素ー炭素結合については以前にも紹介したが,ついに1.8Åを超える結合が発見された.
北海道大学のプレスリリース (2018.3.9) の内容の一部(トップ)を以下に示す.
詳細(概要,背景,研究手法,研究成果,今後への期待等)はプレスリリースを見てほしい.
世界一長い炭素ー炭素単結合を有する化合物の構造を以下に示す.ナフタレンの1位と8位をエチレンでつないだ場合だけ1.8Åを超えたとのことである.
概要
北海道大学大学院理学研究院の石垣侑祐助教,大学院生の島尻拓哉氏,鈴木孝紀教授らの研究グル ープは,有機化合物の根幹をなす炭素-炭素 (C-C) 単結合に着目し,「分子内コア -シェル構造」に基づく分子設計によって,C-C単結合の標準結合長(1.54 Å)より 17%も長い, 1.806(2) ± 0.002 Å という世界一長い C-C 単結合を有する化合物の創出に成功した(図参照 ).
これまでの研究では 1.803 Å を超える炭素-炭素 結合は存在しないとの予測もあったが,今回,単結晶X線解析することで,1.803 Å を 超える結合が存在していることを実験的に証明した.
このように長い結合は結合エネルギーが小さく,一般には不安定と考えられているが,100℃以上 の高温下,あるいは溶液中(室温)で 100 日経っても分解しないほどの安定性を有することも確認さ れた.
本成果は,世界記録の更新に留まらず,化学結合の極限状態で生じる現象の解明につな がるものと位置付けられている.一例として,1.8 Å を超える「超結合」は,外部刺激に柔軟に応答する可能性を秘めてお り,新たな材料開発への応用が期待されるとしている.
コア-シェル構造: 中心の核(コア)を外殻(シェル)が覆うような集合体のこと.本研究にお いては,長く弱い結合(コア)を剛直な骨格(シェル)が保護していることを意味すると書かれている.
本研究は,Cell Pressが刊行する化学関連の学術雑誌である Chem (Cell Press)で米国東部時間 2018 年 3 月 8 日(木)に 公開された.
Chem (Cell Press) のオンライン版を見る.
オンライン版に紹介されている例
分子最下部の五員環の有無,構造(二重結合の有無)に注目.
ジオール化合物12をTfOH, HFLPで処理し,7員環 (dibenzocycloheptatriene) 部位がカチオンの塩(右図,BF4-がアニオン)に変換した後,亜鉛で還元し,化合物10を得ている.
参考資料
プレスリリース (PRESS RELEASE 2018/3/9)
Chem (Cell Press) のオンライン版
A Highly Strained Caged Hydrocarbon Exhibiting Reversible Electrochromic Behavior 参考になる関連論文
追加資料
半経験的分子軌道法では,1.806Åを入力データとして構造最適化すると,1.675 Å (AM1), 1.700 Å (MNDO). 1.710 Å (PM3), 1.673Å (PM6), 1.652Å (RM1) であった.
(2019.9.20)