Aさん
私の場合、精子提供で生まれたと知った時は既に結婚していました。家族が増えていたので、自分だけの問題ではありませんでした。AIDがどのように行われてきたのか、他の生まれた当事者はどのように感じているのか、などを参考に心の整理をしたくて調べたり考えたりしましたが、一人で考えているだけでは行き詰ってしまいました。そんな時に出会ったのがライフストーリーワークです。
月に1回2時間と決めて始めました。時には気持ちが沈んで話せない日もありました。ライフストーリーワークに取り組んで何になるのだろうと思った日もありました。しかし続けるうちに、いつのまにか随分穏やかな気持ちになっていました。心の中にもう一つ部屋ができたかのように、解決しない悩みを置いておけるようになりました。いつもは悩みや気持ちをコントロールできるようになって、考えようと思う時に思い出してみることができるようになったのです。あまりにも手におえない悩みでしたが、サポーターと一緒に言葉にしたり、図にしたりしているうちに、問題は解決しなくても心の中が整理されてきたように感じるまでになりました。
Bさん
私は31歳の時に精子提供で生まれたことを知りました。とても混乱しましたが、幼い子どもの子育てや親の介護があり、一旦気持ちを封じ込めました。それから約20年経って、同じ立場の人たちの自助グループと出会い、押し込めていた気持ちを分け合うことができるようになりました。2011年、東日本大震災の津波の映像を観た時に、生まれについての事実を知った際の、それまでの自分がすべてなくなってしまったような衝撃がよみがえり、生きづらさを感じるようになり、ライフストーリーワークを始めました。
親との関係、告知を受けた時の気持ち、提供者への気持ち、無くしてしまったように感じた31年間の自分についてなど、自分だけでは振り返ることも整理することもできないほど大きく重く感じていたさまざまなことを、信頼できるサポーターと、毎月1回約2時間かけて、事実とその時の感情を話し、絵や図や文章にして記録していきました。2年半続けて、少しずつ客観的に捉え直すことができるようになり、消えてしまったように感じた過去の自分も見えてきて、生きづらさが和らいできました。
ライフストーリーワークは、必要になった時にはいつでも再開できるので、今後も状況に応じて続けていきたいと考えています。