1980年代,携帯電話やノートパソコンなどの携帯機器の開発により,高容量で小型軽量な二次電池(充電可能な電池)のニーズが高まったが,従来のNi-Cd電池やNi-H電池などでは限界があり,新型の電池の登場が切望されていた.
リチウムイオン電池 (LiB) は,ソニーが世界で初めて商品化したことはよく知られている.LiBは,電解液にそれまでのアルカリ水溶液でなはく,非水系電解液である有機溶媒をつかう従来にはないタイプの二次電池であった.ソニーにはニカド電池やニッケル水素電池で先行していた他社のような二次電池製造のノウハウが無かったため,先入観にとらわれない自由な発想が幸いしたと言われている.
当初,LiBはソニーの自社パソコンや携帯電話などに使うためであったらしいが,ノートパソコンの電池として瞬く間にマーケットを拡大し,一時は世界シェアの9割近くを占めたこともあったとのことである.
1999年,ソニー・エナジー・テックと松下電池工業は電解質にゲル状のポリマーを使うリチウムイオンポリマー電池を商品化した.電解質が液体から準固体のポリマーに変更できたことで薄型化・軽量化が可能になった.主にモバイル電子機器用として2000年代に急速に普及し,現在ではスマートフォンや携帯電話に使われる電池はほぼすべてリチウムイオンポリマー電池である.2010年代にはウェアラブル機器やドローンなどの新興産業にも利用が広がっている (Wikipedia).
そのようなわけだから,当然,電気自動車 (EV) 分野にも力をいれていると思っていた.ところが,意外にも,飛ぶ鳥を落とす勢いだったソニーのLiBは,しだいにアジア勢の台頭に押されて販売が落ち,同社のリチウムイオン二次電池部門は2017年9月に村田製作所に売却されてしまった.
以下,リチウムイオン電池 (LiB) とそれまで使用されていた電池とは何が違うのかを改めて調べてみた.
鉛蓄電池.Ni-Cd電池,Ni-H電池等の電池は,電解液と電極の間での化学反応(酸化還元反応)を伴うため,電解液が必須である.酸化還元反応は電極と電解液の間で起こり,電極間を行き来するのは電解液由来のイオンである.
Liイオン電池の場合は,電極間でLiプラスイオンを直接やりとりするので,電解液はLiイオンの単なる通り道に過ぎない.Liイオンが正極と負極間をシャトル便ののように行き来する.電解液と電極の間での化学反応(酸化還元反応)を伴わないため,原理上は電解液は不要である.Liイオン電池の充放電におけるLiイオンの電極間受け渡しの詳細については参考資料4を見てほしい.
Liイオン2次電池に代表される電池は「ロッキングチェアー型あるいはシャトルコック型電池」と呼ばれている..
左図は日経XTECKの記事から引用
化学的に考察すると,リチウムイオン電池は,正極にリチウム・コバルト酸化物,負極に炭素(グラファイト)を使い,その間にイオンを通す膜(セパレーター)を挟み,電解液に浸した構造である.
充電時には正極中のリチウムがイオンとなって負極に移動し,炭素(グラファイト)層の間に蓄えられる.機器を接続して使用する放電時は負極から正極にリチウムイオンが戻ることによって電流が流れる仕組みである.
従来の電池に比べ,軽量で大容量の電気を蓄えられるため,充電ができる2次電池の主流になっている.
リチウムイオン電池の特徴についてはWikipediaにまとめられているので,その記事を参考にまとめてみた.具体的な数値等はWikipediaを見てほしい.
高いエネルギー密度
二次電池の中で最もエネルギー密度が高い.
重量エネルギー密度は,ニッケル水素電池の2倍,鉛蓄電池の5倍であり,より軽量化できる.
体積エネルギー密度は,ニッケル水素電池の1.5倍,鉛蓄電池の4-5倍であり,より小型化できる.
3.6〜4 V 級の高い電圧
メモリー効果がない(充電量の減少がない)
保存特性の良さ(自己放電が少ない)
充電/放電効率が良い
優れたサイクル特性(寿命が長い)
500回以上の充放電サイクルに耐え,長期間使用することができる.
高速充電が可能(分単位など)
大電流放電が可能
使用温度範囲が広い
用途が広い
携帯電話から自動車まで様々な用途に利用できる.
有機化学は専門であるが,無機化学はそれなりのレベルで知識注入が停止しているので,リチウムイオン電池のメカニズムはこれまでの電池とは異なることを改めて知ることとなった.最近,ウエブ上で固体電池という言葉にお目にかかる,なかでも,電気自動車 (EV) がらみで,リチウムイオン電池を固体電池化する研究が盛んのようである.固体電池に関しては稿を改めて述べたい.
復習 一次電池と二次電池(Wikipedia)
一次電池(いちじでんち)とは、直流電力の放電のみができる電池(化学電池)であり、二次電池に対するそれ以外の電池のことである。二次電池が登場した際にレトロニムとして区分された呼称である。
二次電池(にじでんち)は蓄電池(ちくでんち)、充電式電池ともいい、一回限りではなく充電を行うことにより電気を蓄えて電池として使用できる様になり、繰り返し使用することが出来る電池(化学電池)のことである。
二次電池 Wikipediaの図を引用
問題点
充電時にリチウムが大量に抜けると,コバルト酸化物結晶が崩壊する,電池内部が150度C以上になると熱暴走して爆発に至るなどの危険も内在している.これを制御や保護回路によって回避している.
(2019年6月1日)