倫理感の欠如

追記(2023年2月10日):九州4県で43件に及ぶ(外部調査の結果)

追記(2022年9月30日);被害は県内の5医療機関に及ぶことが判明

アサリの産地偽装問題がローカルニュースから消えたと思っていたら,8月末の熊本のローカルニュースでは「島津タイマー」が話題になっている.「%&#*タイマー」というと「ソニータイマー」みたいなものと思う方が多いのではないだろうか.しかし,「島津タイマー」は「ソニータイマー」のような抽象的なものではなく,具体的で悪質極まりない.ソニータイマーは製品の中に故障タイマーが組み込まれているのが発見されたわけではなく,保証期間が過ぎると故障が頻発するという噂から何となく「ここらあたりが限界,新製品が出たこともあり買い換える」というユーザー行動を,都市伝説的に表現したものである(私見).ところが,今回の「島津タイマー」は装置が故障したように見せるため,タイマーを組み込みX線源を止めたというからあきれてものが言えない.

熊本日日新聞の記事を以下に示す.

 島津製作所(京都市)は、医療機器の販売や保守業務を手がける子会社の島津メディカルシステムズ(大阪市)が、熊本県内の公立病院に納入したエックス線撮影装置に回路を遮断するタイマーを仕掛けていたとする一部報道を受けて25日、「不適切な行為があったという疑義が生じている」と発表した。外部の専門家を交えた調査を進めている。

 疑義は、中日新聞が25日に報道。子会社が県内の公立病院に対し、納入した装置に回路を遮断するタイマーを仕掛け、故障を装い部品を交換した疑いがあることを報じた。この部品交換で、病院側は約228万円を支払ったという。

 病院を設置する自治体によると、島津側は25日、病院と自治体を訪れて謝罪。自治体は「健康被害や医療体制への影響については病院から報告を受けていない。(島津側に)しっかりと調査してもらい、再発を防止してほしい」とした。熊本県は子会社などから聞き取りをする考え。

 島津製作所は報道が事実かどうかは明らかにせず「本件によって誤診や医療事故を生む可能性はなく、疑義は一部地域に限られる。外部専門家も含めて調査を進めており、事実関係が明らかになり次第、しかるべき対応を行う」とコメントした。後略

ローカルな話題と思っていたが,8月末日には全国的な話題になっていて,内部告発の全文までが報道されている有様である.

問題の装置は,エックス線で体内を撮影しながら映像を見ることができる「エックス線テレビシステム」である.2009年に約1400万円の経費を使って県内の公立病院に設置された.報道を総合すると,島津メディカルシステムズ熊本営業所の年1回の定期点検(2017930日)では「異常なし」であった. その1ヶ月余りでX線が出なくなった.11月10日に装置を確認した熊本営業所は, 主要部品である「エックス線管球」が壊れ交換が必要と病院に報告した.20日に交換され病院は交換修理費として約228万円を支払った担当者は,2017年9月の定期点検の際に回路遮断タイマーを仕掛け,11月に回収したらしい.実際は故障していなかったとみられている.

医療従事者は,高い「倫理観」が求められる職業である.その医療を支える立場の企業,商社にも同等の倫理観が求められるのは当然であるが,それが分かっていない人間がいることに驚かされる.我が国では「小・中学校の「道徳教育」科目で,生命の大切さや善悪の判断を学ぶことを目的とする学習を行っている.義務教育後の受験競争が道徳観の欠如した大人を生み出しているのだろうか.コロナ禍や超高齢化で問題になった持続化給付金の不正受給や成年後見人弁護士の着服問題はその典型的な事例である.

本件のような事案は氷山の一角であり,産地偽装問題,エンジン不正問題(排出ガスや燃費のデータ改ざん),ジェネリック医薬品問題等も内部告発が無かったら,永久に表面に出ることはなかったかもしれない.日医工の後発薬不正に関しては,内部告発を受ける窓口である公益通報窓口が富山県に設置されたという.島津ターマ−事件の発覚の発端も内部告発であることから,島津製作所にはそれなりの修復力が残っているようなので,今後の対応を期待したい.


島津製作所とは

一般の人には馴染みのない会社かもしれないが,化学系研究室では微量融点測定器や真空ポンプ等の機器から分光器に至るまで幅の広い化学,薬学,医学系計測器メーカーとして知られている.1875年創業1909年に日本初の医療用エックス線装置を完成させた.医療機器事業は主力の一つ2022年3月期の同事業の売上高は668億円島津メディカルシステムズは島津製作所が製造輸入する医療機器や関連機器の販売や修理保守点検などを行っており全国各地に販売・サービス拠点がある(出所 熊日新聞)

過去のブログ  Sony Timer(2011)