檜尾 友貴 (明治東洋医学院専門学校 )
顎関節症は日本人の約半数が経験する疾患であり、開口障害は咀嚼筋痛障害の主要症状である。本研究では、柔道整復術の徒手療法である 強擦法 を側頭筋に施し、開口距離への影響を検討した。
成人18名に対し、左右側頭筋へ各5分間の強擦法を行った結果、最大開口距離は平均6.7mm増加し、有意な改善が認められた(p=0.0001)。
強擦法は非侵襲で安全性が高く、顎関節症の開口障害に対する有効な後療法となる可能性が示唆された。
顎関節症は齲歯・歯周病に次ぐ「第三の歯科疾患」とされる。
咀嚼筋痛障害による開口障害には理学療法・物理療法・薬物療法が行われる。
近年、顎顔面部へのマッサージが有効とする報告が増えている。
柔道整復術の「強擦法」は筋硬結の除去に有効とされるが、顎関節症への応用研究は少ない。
本研究では、側頭筋への強擦法が開口距離に与える影響 を検証する。
成人18名(男性7名・女性11名)
平均年齢:21.2 ± 1.4歳
顎関節症状の有無にかかわらず同意を得た者
ギャグゲージ(GAU-09)を使用
端座位で最大開口距離(上下中切歯間距離)を測定
介入前後で比較(図1・図2)
側臥位で側頭筋がベッドと平行になるよう調整
母指で皮膚を滑らせず深部に押し付け、円を描くように刺激
左右側頭筋へ各5分間
臨床経験15年以上の柔道整復師が施術(図3)
介入後の感想を複数回答で収集
Wilcoxon符号付順位検定
有意水準5%
SPSS ver.25使用
介入前:32.5 ± 14.2 mm
介入後:39.2 ± 13.5 mm
平均6.7 ± 3.8 mm増加(p=0.0001)
18名中17名で開口距離が増加(図4・図5)
口が開きやすくなった(8名)
頭が軽くなった(5名)
顔が軽くなった(4名)
顎の違和感がなくなった(4名)
心地よかった(4名)
顔が小さくなった気がする(4名)
頭痛がなくなった(1名)
何も感じない(2名)
(図6)
強擦法は筋硬結を除去し、交感神経活動を抑制して筋緊張を低下させる可能性がある。
側頭筋は咀嚼筋の中でも最大で触察しやすく、開口時の活動量が多いため治療部位として適している。
開口距離増加の機序として、
①Aβ線維刺激による交感神経抑制
②Ib抑制による筋緊張低下
が考えられる。
聞き取り調査の結果は、血流改善・筋緊張改善と一致する。
鍼灸領域でも側頭筋は治療部位として用いられ、効果が高いが、強擦法は非侵襲で安全性が高い。
今後は開口制限の有無で層別解析し、顔の外観変化も評価する必要がある。
側頭筋への強擦法は、顎関節症による開口障害に対し 有効な柔道整復術の一手技となる可能性 が示唆された。
非侵襲で安全性が高く、患者の満足度も高い治療法である。