この記事は旧KUWV-BLOGから移植したものです。

2017年12月06日

―屋久島三大険谷最終章―


鈴木です。

今年もNFという名の秋休みを利用して0付3泊4日で小楊子川に行ってきました。


一昨年の瀬切川,昨年の宮之浦川と併せて,これでいわゆる屋久島三大険谷の全てを遡行することができました。

無事突破できて安心感と達成感と疲労感に包まれています。


詳細は追記にて。このテンションのまま調子乗って長々と本文書きそうです。分割して少しづつ書きますがご了承下さい。


12/8 ようやく書き終わりました。遅くなってすんません。


写真はこちら




※滝番号やその高さは『屋久島の山岳』の遡行図に従います※


まえがき

 一昨年に瀬切川を遡行したときからこの山行は決まっていたと言って良いかもしれない。


 杉原が木戸さんに突然「NF期間に九州の沢に連れて行ってほしい」と言ったのが全ての始まりだった気がする。

僕と杉原にとっては初めての4級の沢であったが,この山行は問題だらけの予備合宿とは対照的にうまくいった。

確かに巻きが多めだったり,三種のトゲトゲ植物を代表に藪漕ぎが苦しかったり,縦走がアホほど長かったりしたが,沢から海が見えたり,めちゃくちゃでかいゴーロがあったりと,屋久島なかなかいいところだな,来年も来れたらいいなと思った記憶がある。


 そして翌年の宮之浦川。

 グレード5級(6級とする本もある),言わずと知れた屋久島最難の沢である。

なぜより簡単な小楊子より先に宮之浦に行ったかというと,多分木戸さんの就職が決まっており,今年が最後のチャンスだったからだと思う。

 直前には僕も杉原も,ひょっとしたらCLの木戸さんでさえビビっていたが,全力を出し切って成功を収めることができた。


 そんなわけで,三大険谷は小楊子川を残すのみとなったわけである。

 杉原と僕が当然行く気だったのは言うまでもない。今回は山行までに退職できなかった無念の(?)木戸さんが不参加の代わりに,大柳が参加することになった。


 より難しい宮之浦川で成功していたので,当時の我々はかなり小楊子をなめていた感がある。確かに経験実力ともに最強の木戸さんが抜けたのは大きな不安だったが,まあなんとかなるだろうと思っていた。

 誰もCLをやりたがらなかったので,なんと適当なことにサイコロでCLを選んだところ,大柳になった。しかし,残念ながら予備合宿が忙しく,計画を作れる状況ではなかったので僕が代わりにCLをやることになった。ちなみにこれは僕と杉原で計画と食当表のどちらが作りたいかを話し合った結果である。現部長と前部長という二大権力者を差し置いてなぜか僕がCLをしているのはこういう経緯があった。

 それ以外にも一回生を誘ってみたり(当然断られた)とかなりめちゃくちゃなことをやっていたが,あと一人メンバーが増えていたら計画の完遂がかなり難しくなっていたであろうことなどは知る由もない。

そんな楽観的な観測の元,一年ぶりの屋久島に向かうのだった…。


 なんか始まる前から調子乗って書きすぎました。ようやく本文です。



11/22(0日目) 天気:雨のちくもり

 この日は移動と0付の日である。杉原と大柳は関空に前夜泊してpeachとトッピーで、僕は直行便で屋久島へ。

 屋久島は関西よりは流石に暖かかったが、外に出ると大雨である。天候判断した当初は天気も気温も良く、なんとか下山まで雨は降らなさそうという感じだったが、いつの間にか予報は悪化し、この日は寒冷前線が通過していた。まあ明日には高気圧のへりに入りそうな感じだったので入山することにする。雨が強かったのは少しの間だけで、その後は小雨になった。


 まさかここまでで問題が発生するはずもなく、と思わせておいていきなり問題が発生した。

 僕が伊丹空港の搭乗口にウエストポーチを忘れてきたのである。ちなみに中身で重要なものは主に地図とコンパス、その次に重要なのはカメラとメモ帳、後は軍手とかその他細々。これは痛い。杉原も大柳もメモ帳を持っていなかったので今回の山行の記録は全て二人のカメラ写真の撮影時刻頼りである。ちなみに地図とコンパスも現地調達に失敗したのでRFも二人に任せることになった。申し訳ない…。


 仕方ないのでとりあえず宮之浦港に向かって合流する。なんでもトッピー船内で流れていた屋久島のPR動画が面白かったらしい(これは馬鹿にしている)。トッピーの待合所で靴を沢靴に履き替えた杉原が歩くたびに足跡が残って申し訳なさそうにしていたのが印象的。港の入り口に”超自然 スーパーネイチャー屋久島”などと書いてある碑があり、みんなでひとしきり笑ったのち、今回の山行のキーワードとして積極的に用いていくことが決定された。終バスまでまだ時間があったが、食料とエピ缶(プリムスだけど)を買って不要な荷物をコインロッカーに預けて早めのバスに乗った。途中安房の辺りで大雨が降っており、千尋の滝はガスで見えなかった。

 バスに揺られること1時間半くらい、終点の栗生橋でバスを降りる。小楊子川は海から1キロくらいしかない栗生川の支流のひとつ(もう一つは黒味川)である。バスを降りた時には雨はもう止んでいたが、怪しげな生ぬるい風が吹いていた。


 集落の神社で軽くお祈りをして歩き始める。僕は特に何も考えなかった。二人が何か願ったのかは知らない。

 歩き始めて30分くらい経ったころ

杉原「レジュメと遡行図ある?」

鈴木「渡さなかったっけ?」

大柳「貰ってないですよ。まあ俺は自分で持ってきてますけど(ドヤ顔)」

 ああやってしまった……。本日2個目の大チョンボである。もうめちゃくちゃだ。すっかり渡したと思いこんでいた。ちなみに渡されなかったレジュメはこの時宮之浦のコインロッカーの中である。予備合宿なら問答無用で撤退(そもそもウエストポーチの時点で撤退だが)だ。しかし今回は個人山行、幸い大柳がレジュメも遡行図も持っている。これが無くなったら終わりなので杉原と大柳のカメラで撮影してバックアップとして進むことにした。


 だらだら歩くこと2時間程度でようやく林道終点に到着した。やってられないという感じだが、去年の宮之浦は2時間半、打込谷ではそれ以上歩いているのでまあ慣れたもんである。テントを張って、夕食の鍋を作って食べる。しばらくまともなものが食えないので今回は野菜大量である。一番安い鶏肉を買ったらだし用の鳥だったらしく、骨付きな上に異常に硬かった。まあ出汁は美味くなったが…。ちなみに林道終点の少し手前のルンゼで水は得られる。大柳のレジュメを見ていた杉原がいきなり斜面にレジュメを落としだしたが、気合で回収した。危ない危ない。

 食べ終わってしばらくしてから寝た。屋久島は世界遺産であり,焚き火は禁止である。まるで焚き火をしていたかのような不自然な描写があったとしてもそれはフィクションである。この日晩は周りの木が折れるんじゃないかというくらい風が強く、なかなか眠れなかった。こんな調子で大丈夫かと不安になりながらぼーっとしているといつの間にか眠っていた。



11/23(1日目) 天気:曇り時々晴れのち雨


 5時に起床。11月下旬の屋久島ともなると,日が昇るのも随分と遅い。各自朝食を食べてテントを撤収してもまだ時間があるのでなんやかんやしてから6時40分頃に斜面を下降開始,特に懸垂下降が必要な場所もなく20分ほどで小楊子川に降り立った。一年ぶりの屋久島の沢は瀬切川や宮之浦川と同じく,濃い緑色の水にこの先のことを考えればまだまだ小さい河原という懐かしさすら覚える光景であった。


 少し休んで遡行開始。最初の方は時々大きな岩もあるものの,概ねゴーロというよりは河原という感じで,特に何事もなく進む。一時間ほど進んだあたりから地形図に出ている右岸のスラブが見え始めたが,特に問題にはならない。もう少し進むとF4のゴルジュが始まる。これは左岸から巻いたが特に記憶が無いので何も問題はなかったのだろう。写真がないので時間もわからない。

 10時ごろにF5(15m)に到着。ただの斜瀑だが,大水量なので迫力がある。こいつは右岸巻き。このあたりからゴーロがでかくなってきた。正面突破は疲れるので,右岸を巻き気味に進んで時々川に降りるという感じで進んだ。


 12時過ぎからこの山行の核心(この時はそう思っていた)であるコケシスラブが見えてきた。コケシスラブとは写真で見て頂ければわかるが名前の通りこけしのような形をしたスラブで…ってどこがこけしなんだ?こけしってこんなに寸胴じゃなくて頭のほうがむしろでかくないか?見方が違うのだろうか。僕には見た感じ分銅か銅鐸に見えた。まあいいや。とりあえず集合写真を撮る。なんか微妙な顔をして写っているが,これはこけしをイメージしたものである。今見返してみると微妙に意思疎通がうまく行っていない感がある。そういえばいつの間にか桃太郎岩はスルーしていたようだ。

 さて,この核心と思われていたコケシスラブの突破であるが,レジュメには「水量が少なければ右岸トラバース→岩の割れ目を登る,無理なら大高巻き」と書いてあった。見てみると,なにやら右岸にバンドのような何かがあるが,不明瞭な上泳がないと取り付けなさそうという感じであった。水はきれいだったが,実は昨日の雨で増水していたのかもしれない。一方で巻きについて地形図を見てみると,右岸は緩やかになっておりいかにも簡単そうに見えたので,右岸から巻いてしまうことにした。適当に斜面から取り付き,尾根のコケシスラブより手前側に出ることを意識して巻いていくと,大して苦労することもなくコケシスラブのすぐ内側の尾根に上がることができた。そこから斜面をトラバースしながら降りていくとルンゼにぶつかり,あとはそのまま下降すれば,無事巻き切ることができた。かなり理想的なルートで小さく巻けたようで,所要時間は話し合っていた時間を含めても1時間もかからなかった。核心部だと思っていた場所があっけなく巻けて,全員拍子抜けという感じだった。


 少し休憩して出発。レスト中に杉原と大柳はゴルジュの中を戻って見に行っていた。あとはとにかく進めるところまで進むだけである。この先も同じようにゴーロの中を進んだり巻いたりしながら,16時にCS1予定地の右俣出合に到着。テントを張る場所を探すが,意外といい場所がない。右俣に入って探してみたりもしたが,結局これと言った場所がなかったので,右岸の岩屋の近くある2テンひと張り分のスーパーネイチャーな場所(写真参照)にテントを張った。夕食は屋久島パーティーセット。中身はゆず胡椒スパゲティ(大量)と真空パックの鶏肉である。鶏肉がうまい。パーティーセットのくせにデザートがなかったので,僕が秘密兵器で持ってきたゼリーを作った。冷やし方が足りなかったのかぶよぶよで微妙な食感だったが,下界の味という感じ。その後は三岳を飲んだりマシュマロを焼いたりして寝た。夜中は雨が降っていた。


11/24(2日目) 天気:雪以外


 昨日は5時起床で早すぎたので五時半に起床。朝食は小楊子モーニングセット。中身はロールパン3個と粉末スープである。杉原がスープに対して何か文句を言っていた気がするがよく覚えていない。


 7時前に出発した頃には外はだいぶ明るくなっており,雨も降っていなかった。この日はF3に淵があり泳がないといけないという情報だったので,できれば巻いてしまおうと巻き気味に右岸を進む。いくつか滝をを巻いたところで右岸も壁が発達してきた。この感じではもうF3は巻けていることだろうと思い,懸垂下降で沢に戻ることにする。

 8時半に懸垂下降を終えて少し歩き出すと,どう見ても泳がないといけなさそうな淵が現れた。やってしまった…。レジュメを確認してみると,泳ぎ必須なのはF3の””上の””淵であった。全く何をやっているんだという感じだが,懸垂下降してしまった手前もう一度巻き直したくはない。さらにタイミングの悪いことに大粒の雨まで降ってきた。距離は5メートルほどだが,沢は泳ぐには寒すぎると言っていいほどで,僕は気持ちの準備ができていなかったので一旦木陰で作戦会議しようと提案し,大柳もまだ気持ちの準備ができていないという感じだったが,杉原はだけはさっさと行こうぜという感じだった。適当なことを言って一分ほどゴネたところで心の準備が整ったので,しゃーねえなあ行くかという感じで泳ぐことにした。杉原が服を脱ぎ始める。泳いでいる間は良いかもしれないが,服を濡らすと後で悲惨な目に合うのは分かっているからである。まだ若干後ろ向きな気持ちがあった自分と大柳をよそに,さっさと服をザックにしまって全裸で対岸まで泳いでいった。そうなるともう行くしかない。服を脱ぎ,防水を確認してから覚悟を決めて水に浸かる。歩いていけるところまで歩いてから,思い切って飛び込む。冷たすぎて死ぬかと思ったが死ななかった。水から上がって急いで体の水を拭い,服を着る。少し遅れて大柳も泳いできた。なんとか突破。行動食をバカ食いするが,体の震えが止まらないのでレストはせずに動くことにした。今山行の核心その1。


そこからすぐに倒木の寄りかかった滝が出てきた。ちょうど遡行図のF4にあたると思われる。落差は8メートルくらいありそうだが。この滝は他の記録に出ており,側壁と流木を使って突破したようだ。ところが実際に倒木を見てみると,長い間水で洗われてしまったためか,単純に我々に登攀力がないのかは分からないが,つるつるであまり登りたくないなあという感じだった。巻くことにする。少し戻って岸壁ごと巻いてしまおうという作戦だったが,割と苦労して登ったところで最後の最後に登れない壁が出てきた。周りを見ても登りやすそうな場所はなかった。仕方ないので懸垂下降で一旦沢まで戻り,改めて倒木からの突破を考える。周りをよく見ると,さっき見た時は登れなさそうだと判断した側壁に植物が生えており,登ってみるとバンドに上がることができた。そのまま進んでみると,倒木を伝って突破するよりは簡単そうだったので,二人を呼ぶ。最後のワンポイントのトラバースが微妙な感じで,ザイルを出すことにする。若干怪しげなザイルの使い方をしたが,詳しくは割愛する。誰もtopをやりたがらなかったが、ここまでやらかしてばかりなのでせめてこれくらいはと僕がtopで行く。一箇所微妙に被り気味の場所だけは少し緊張するが概ね簡単であった。その後大柳、杉原の順でどちらもプルージックで通過し、最後にザイルを支点の木から引き抜いて終了。ここでだいぶ時間をロスしてしまった。

 その後は特にイベントもなく、12時過ぎに中俣出合に到着。中俣の滝はなかなかかっこいい。少しレスト。

 ここまで来ると水量もだいぶ減ってきて、普通の沢登りという感じになる。時間的にcs2予定地のCo1340m二俣まで進むのはどう考えても無理なので、cs2を目指すのは諦めて、時間で進めるところまで進むということにする。途中スーパーネイチャーで遊んだりしながら、16時過ぎに適当な場所を見つけてcs2とした。標高は忘れてしまったが、1050mから1150mの間。この辺りは探せばテン場はある。ただし良い場所はあまりない。

夕食は小楊子地獄鍋。中身は豆腐無し麻婆豆腐(中辛)である。味についてはあまり記憶にない。杉原の秘密兵器のソーセージと0日目のちゃんぽんの素の余りと増えるわかめで謎のスープを作ったが、大柳が人生初増えるわかめの人でも入れないだろうと言うほど大量のわかめを投入したために、出来上がったものはもはやスープというよりわかめであった。この日は地面も木も全く乾いておらず、残念な感じであった。


11/25(3日目) 天気:くもり

 5時半に起床。朝食は小楊子ラーメン。中身は棒ラーメン(わかめ入り)である。 


 出発してからは特にイベントもなく、大した滝も出てこないので淡々と進む。

 9時15分に沢が突然広くなり、大崩壊地が現れた。地形図にも出ているCo1400mの右岸大崩壊地であろう。この辺りまで来るとだいぶ稜線が近いことを感じさせるが、本当の核心はこの先であった。とはいえこの辺はただの河原でのんきな感じ。


 30分ほどすると段々と側壁が険しくなってきて、10時10分に細長い淵を持ったF20が登場。いよいよ上部ゴルジュの始まりという感じである。この滝は直進するルンゼから左岸巻き。このあたりからヤクザサが増えてきて藪漕ぎっぽくなってくる。意外と傾斜がきつく、思っていた以上に大きな巻きになった。その後もなかなか壁が切れず、長々と藪斜面をトラバースしてようやく河原に降り立つともはやゴルジュのど真ん中という感じだった。壁の高さだけならコケシスラブ周辺の方が高いだろうが、川幅が圧倒的に狭いので、圧迫感はそれ以上、というか今まで見たことあるゴルジュの中で一番地の底感があった。正直、地形図では左岸は緩かったので、まさか左岸がこんなに岩壁が発達していて厳しいとは思っていなかったし、地形図を見て上部ゴルジュの巻きなんて大したことがないだろうと高をくくっていたのである。逆に言えば、まさかこんなに激しいゴルジュがあると思っていなかっただけに、実際に目の当たりにした時の衝撃はかなり大きかったと言って良いだろう。

 この先少しは河原を進めるが、途中で登れない箇所が出てきた。左岸から巻こうとするが、トラバースが急傾斜で意外と厳しい。遡行図ではこのあたりからゴルジュを全て左岸巻きしてしまっているようだった。ゴルジュは奥で左に大きく折れ曲がっており、僕にはそこまで行けば間違いなく小楊子大滝があるという根拠レスな確信があったので、この部分はどうしてもトラバースしたかった。少し粘ってみるとなんとかトラバースできそうな場所を見つけたので、杉原が大きく巻こうとし始めているのを呼び止めて、「行ける!!」とか言ってトラバースする。冷静に考えると確保無しでトラバースするには微妙な場所だったので、後続にはスリングを出した。そこからは河原を進み、屈曲点で左を向くと、


 ついに小楊子大滝が見えた。2段70mとされるこの滝はゴルジュの突き当りにあり、圧倒的な存在感を放っていた。が、見た感じでは60mくらいかなあという感じ。ちなみに竜王の滝は3段110mとされているが、あれは3段130mくらいあるように感じた。写真では水量が少なくしょぼい感じだが、実際は結構迫力がある。さて突破だが、遡行図には「少し戻って左岸巻き」と書かれている。後ろを振り返って見てみると、少なくとも屈曲点まではまず不可能というかんじで、先述のトラバースのところまで戻れば行けそうだ。ただ戻る距離がまあまああるのと、あのトラバースをもう一度やるのもなあという感じではあった。一方で右岸に目をやってみると、最初こそ傾斜がきついが藪が豊富にあり、そこさえ乗り切れば後はそれほど難しくなさそうである。話してみると、杉原は賛成、大柳はどちらかといえば反対という感じだった。そこからどのような話し合いがあったかは忘れたが、右岸から行くことになった。まずは右岸にバックして伸びるバンドを端まで進み、そこからランビレすることにした。

 1p目(杉原、15m)

とりあえず杉原は空身で行って荷揚げ、他は杉原が登ってから判断することにする。急傾斜だが、ヤクザサというホールドが無限にあるのでまあ難しくはない。ただし結構腕力を消耗する。ザイルはまだまだ残っていたが、藪で流れが悪いのと丈夫な立ち木があったので一旦ピッチを切った。杉原が大丈夫というので残りはザックを背負ったまま登る。藪に杉原のザックが引っかかって上がっていなかったので、大柳に登りながら荷揚げを補助してもらった。最後に僕がsecで登った。支点はヤクザサを束ねてスリングで取った。その後のピッチも同様。

 2p目(杉原、15m)

ピッチを切った場所が狭く、位置を入れ替えるのも大変なので、そのまま杉原に行ってもらう。左右のルートがあり、左は狭いクラック状になった場所、右は先程と同じ感じで、杉原は左を選択。狭い箇所が通れるか分からないのでここも空身で行ってもらう。結果的には問題なく通れた。難易度的にはさっきより楽。やはりここでもザックが引っかかったので大柳に登りながら上げてもらう。

 3p目(鈴木、30m)

傾斜もだいぶ緩んできたのでフリーで行ける気もしたが、念のためザイルを出す。つるべで僕がtop。一か所だけ傾斜がきつい場所があったが概ね簡単だったので不要だったか。ここは全員ザックを背負ったまま登った。


 傾斜のきつい区間はこれで終了。ここからは滝を巻くためにひたすら壁の上の傾斜が緩い場所を藪漕ぎする。藪自体の困難さというよりも、単純に体が濡れるので寒かったのと、テンプレート的なとげとげしいイバラがやたら絡まっていて意外と苦労した。どうでもいい比較をしておくと、屋久島の藪は背が低いので藪漕ぎ自体は困難ではないが、密生度が高く地面が見えない状態に屋久島の源流域特有のやたら凹凸の多い地形が相まってやたら歩きにくい点に嫌な所があると思う。

 大滝を巻き終わったところで下が見えるところまで行ってみるが、微妙に登りにくそうな滝が見えたのでこれもついでに巻いてしまった。ようやく河原に戻ったころには時間はもう15時過ぎ。これはもう源流か登山道泊かなあとか思いながら横を見ると雪が残っているのが見えたので、リヒト山行になろうが小屋まで行くことをここで決意した。もうここまで来れば源流なので楽勝、と見せかけて実際は細いくせにやたら深い谷と藪のせいで難しくはなくても案外大変なのは宮之浦で分かっていたので警戒していたが、小楊子も同じだった。最後の方は谷沿いの藪が凸凹で歩きにくいので尾根に乗って、16時50分に登山道に出てようやく遡行終了。めでたい!!

 少しくらいだらだらしたいところだが、時間がないのとそれ以前に寒すぎて止まる気にもなれないのでさっさと歩き始める。三度目の屋久島にして初めて宮之浦岳がガスっていなかったのだが、時間がないのでピストンはカット。残念。当然日が暮れてリヒト山行になったが、大柳のリヒトが水没して点かなくなっていた。一回だけレストを挟んで18時30分に新高塚小屋に到着。もう下山したかのような気分である。こんな遅い時間に申し訳ないなあと思っていたが、宿泊者は3組だけでわーわー言っていたので大丈夫だった。夕食はファイナルカレー。中味は杉原セレクトのレトルトカレーである。杉原と大柳で見た目が同じ10倍と20倍のカレーをランダムで選んでいた。辛いのが苦手な僕は謎の野菜カレーだった。余った行動食を食べて就寝。


11/26(4日目) 天気:くもりのち雨


 5時半に起床。朝食は屋久杉ラーメン。中身は棒ラーメン(わかめ入り)である。名前が違うだけで昨日と一緒。


 白谷雲水峡のバスが正午なので、それに間に合うように7時に出発した。見るところ見て11時前に白谷雲水峡のバス停に下山。簡潔に個人的な感想を書いておくと,縄文杉はでかいけど近寄れないから微妙。ウィルソン株は落ち着いた感じなので結構好き(人がいなければの話)。白谷雲水峡は写真加工技術って凄いねって感じ。まあそんなわけで貫徹!!みんなよくがんばった。



その後


 12時のバスに乗って宮之浦に降りる。コインロッカーの荷物を出す際に店の人に追加料金を払おうとしたら何故かいらないと言われたので300円得した。去年と同じ民宿に泊まろうとしたら,ほぼ新築の別の建物に通された。4日ぶりのシャワーを浴びる。お湯の温かさが気持ち良い。Aコープで昼食やらを買い出しに行って,宿で食べる。余談だが僕は下山の喜びから人生初アメリカンドックを食べた。打ち上げは去年のさっちゃんが空いていなかったので,向かいの四季亭(ときてい)で食べる。ボリュームも多くおいしかった。特にサバがうまい。その後は宿に戻ってだらだらだらだらだらだらだらだら飲んだ。


 翌日。大柳と杉原は朝のはいびすかすで鹿児島に向かう。僕も港まで着いて行き,「超自然 スーパーネイチャー」の碑の前で大柳にポーズを取らせて写真を撮った.パーティーはここで解散し,僕はその後1日乗車券でバスを乗り回したのち,かもがわで昼を食べてから帰った。今年も良いNFだった。



あとがき,総括,感想


 そんなわけで無事屋久島三大険谷完全制覇です。いやーめでたい。二年前に木戸さんに瀬切川に連れて行ってもらった時にはまさか二年後には残りの二本も遡行できるとは思っていませんでした。開幕から僕がCLの癖に問題だらけで微妙な感じでしたが,なんとかうまくいきました。杉原と大柳に感謝。杉原は西表縦断の時を思い出すような精神的な突破力があり,左俣F3上の淵で心が折れかかっていた時など本当に頼りになりました。大柳は初めての屋久島の沢,初めての5級でいろいろ戸惑うことも多かったと思いますが,RFなど積極的に動いてくれました。何より今回の山行は大柳がいなかったらレジュメ忘れ撤退してるところでした。今後は後輩を連れて瀬切川や宮之浦川にも挑戦してほしいと思います。とにかく今回は,上回というか木戸さんに頼らずに自分たちで遡行することができたことに大きな達成感を感じています。4年間の学部生のうちにここまでできて本当に良かったと思います。

 杉原と大柳も感想などあればここにどうぞ。


 沢としての総括ですが,小楊子川は,宮之浦川と比較するとゴルジュの割合も低く威圧感は薄いですが,左俣上部ゴルジュに関して言えば,川幅が広すぎてゴルジュ感が微妙に少ない宮之浦のゴルジュとは一線を画すもので,そこで差別化できると思います。宮之浦の影に隠れてあまり遡行されない沢ですが,充分行く価値はあると思います。全部行ってみた結果,難易度的に言えばちょうど瀬切川,小楊子川,宮之浦川の順にだいたい等間隔というのが個人的な位置づけです。屋久島の沢は本当にきれいなので,宮之浦や小楊子とは言わないでも,是非とも屋久島の沢に登ってスーパーネイチャーを感じてほしいなあと思います。

 遡行に関してのポイントですが,下流部のゴーロ帯と上部のゴルジュに分けて考えられると思います。 

 まず下流のゴーロですが,今回我々は巻き多めの方針で行ったのでそれほど苦労はしませんでしたが,全て正面から挑もうとすると時間的にも体力的にもかなり損耗すると思います。夏に行けば積極的に泳げるのでもう少し楽に行けるかもしれません。まあ11月下旬に行くのはある程度の寒さを覚悟しておいたほうが良いです(当たり前か)。コケシスラブは正面から突破するルートは見ていないのでなんとも言えませんが,巻きは意外と簡単だったので,右岸巻きも考慮に入れておくと良いかと思います。こけしの頭のすぐ手前あたりを意識して巻いていくとうまくいくと思います。F3上の淵はおとなしく泳いだほうが良いです。巻くならだいぶ手前からになると思います。その上の倒木8mは直登するべき。倒木が登れるのかは結局分からないが,少なくとも左岸バンドトラバースは倒木が流出したとしても可能です。

 左俣上部ゴルジュですが,地形図では大したことがなさそうな左岸も実際は普通にゴルジュの側壁みたいな感じです。大滝直下に行くか行かないかで方針が変わるとは思いますが,一旦降りたりしないで全部左岸巻きしてしまうのが一番楽です。しかし,このゴルジュを全部上から巻いてしまうのはもったいないと思うので,個人的には一度河原に降りて大滝まで見に行くのが良いと思います。その際大滝を左右どちらから巻くのが良いかは何とも言えない感じです。左岸は屈曲点までは取り付く島もない感じですが,もう少し戻れば登りやすい場所があるかもしれません。右岸は本文に書いたとおりですが,ザイルは2ピッチで充分だと思います。結局尾根に乗ってからの藪の濃さ次第でしょうか。頭のおかしい方々なら,直登ラインも見えるかもしれません。ネットで雑に調べた感じ直登の記録は無いようですが果たして…?

 装備について,今回カム,ナッツ,アブミはいずれも使用せず,全て支点は植物からスリングで取りました。しかし,特に下部のゴーロを正面突破する場合など使える箇所は多いのではないかと思います。ハーケン,ハンマーは軽量化のため持参せず。ザイルは50mのメインザイルと荷揚げ懸垂補助用の30m補助ザイルを持参。テントは去年同様2テンに3人で泊まったがまあなんとかなる。むしろ暖かくて良いかも。4人用以上の大きさのテントは張れる箇所が少ないように感じました。


<追記>


以下、コースタイム


0日目 (11/22)


17:00 栗生橋に到着


19:10 林道終点に到着


1日目(11/23)


5:15 起床


6:41 出発


7:00 川に降り立つ


7:25 (写真にて最強のテン場に相当する)CS可


8:30 下流部のゴルジュに入る


10:10-20 レスト


12:20 コケシスラブ


12:45 コケシスラブ巻き始め


13:55 コケシスラブの巻き終わり


13:55-14:15 コケシスラブのゴルジュを見に行く


16:00 二俣に到着(CS1)


2日目(11/24)



7:00 出発


8:30 懸垂下降でF3の上に降り立つ


9:00 F3上の淵で泳ぐ


11:20 巻きに失敗した後、倒木の滝でトラバースのランビレ終了


12:10 中俣に到着


14:30-40 レスト


15:50 CS2に到着


3日目(11/25)


7:00 出発


9:10 大崩壊地


9:25-35 レスト


10:10 上流部のゴルジュ(V字狭)始まる


11:00 上流部ゴルジュの中に降りる


11:45-55 小楊子大滝


13:45 小楊子大滝右岸の2ピッチ目終了


15:30 再び川に降りる


17:00 詰め上がり終了


18:30 新高塚小屋


4日目(11/26)


7:20 縄文杉


8:05 ウィルソン株


10:40 白谷雲水峡


11:00 下山



(感想 by 杉原)

 今回は巻きに巻いたのもあって、下流部で特に難しい場所はなかった。左俣に入ってから最初に困難に直面したのが倒木の滝で、泳いだ後の寒さも相まってかなりキツかった。そこでのトラバースについて、記録を書いている鈴木はあまり言及していないが、直径1センチほどの、岩の間から出ている一本の細い潅木にかなり体重を預ける形になるので注意。鈴木も言っている通り、今度は安房ですかね。


(感想 大柳)

 お疲れさまでした。身構えていたコケシスラブこそ予想外にあっさり終わってしまったが、左俣上部ゴルジュの発達ぶりは逆方向に予想外だった。個人的にきつかったのは悪天候の中屋久島特有の藪から水線を巻き、懸垂下降で降りたところ泳ぎを余儀なくされ、その後倒木の滝の突破に時間が掛かったところと、左俣上部ゴルジュのトラバースと脱出のところだった。どちらも気を失っていたら上回二人が突破してくれたので生きて帰れた。ありがとうございました。左俣上部ゴルジュ及び小楊子大滝は一見の価値があると思う。あと、山行後の仕事を長いことさぼっていてすいませんでした。屋久島には来年も行きたいですね。




この記事へのコメント

S原の謎のリクエストが元凶なんだよな……。

三大険谷を全部行くやつもそういないと思う。特に小楊子川はな。


屋久島の沢って微妙にマイナーな気もするけど、良いよな。沢の形状が異質でめちゃくちゃな感じがする。

あと下山後に民宿でだらだらするのが幸せ。


さらっと書いてるけど上部ゴルジュトラバースも大滝のクライミングもきつかったんだろうと思います。お疲れさまでした。

Posted by 木戸 at 2017年12月09日 04:13

ありがとうございます。


屋久島の沢、やっぱりいいですね。規模といい地形といい水量といい特別な感じがあります。


まだ濡れずに行ける沢しか行っていないので、次は夏に安房川とか泳ぎ系の所に行きたいですね。

Posted by S木 at 2017年12月11日 19:36