この記事は旧KUWV-BLOGから移植したものです。

2016年09月29日

 宮之浦川。言わずと知れた屋久島最難の沢であり、日本有数の険谷とも言われる。地形図上のその異様な姿に心ひかれぬ沢メンはいない。我々にとって、好むと好まないとに関わらず一度は登らなければならない沢である。――――



 というわけで木戸です。S原・S木と0付3泊4日で宮之浦川に行ってきました。無事に遡行成功しすごい達成感です。厳しく、すばらしい沢でした。



写真はこちら




○コースタイム


9/23


19:00 神之川林道入口


19:17 宮之浦林道ゲート


21:35 潜水橋



9/24


05:30 起床


06:09 出発、入渓


07:58 マンベー淵入口


08:31 第三巨石 直登


09:28 登攀完了


09:35 F10 左岸巻き


11:08 竜王の滝


11:35 右岸ルンゼ登攀開始


13:44 撤退完了


14:00 CS1発見(竜王の滝から少し降りた左岸側)


18:40 就寝



9/25


04:45 起床


06:11 出発


08:00くらい? 右岸1ピッチ目完了


09:27 右岸2ピッチ目完了


09:40 尾根上


11:07 竜王の滝の巻き完了


12:30 F17(漏斗の滝) 右岸巻き


13:08 F19 右岸巻き


15:11 F22 右岸巻き


15:30 CS2(F23の下の右岸側)


18:30 就寝



9/26


05:00 起床


06:10 出発、すぐF23 左岸の岩と藪の際から


06:58 F25? 左岸の岩を登り、最後はショルダー


07:36 F28 左岸巻き


08:00くらい? F31 右岸巻き


10:05 F31~F37右岸巻き完了、1420m二俣


12:44 登山道(焼野三叉路の北東)


13:11 宮之浦岳


14:45くらい? 新高塚小屋


18:45 就寝



9/27


5:30 起床


6:38 出発


7:15 縄文杉


7:56 ウィルソン株


10:12 荒川口 下山




○行動記録(長いよ)


9/23 晴れ


 俺とS原は高速船、S木は飛行機でアプローチ。18時過ぎに宮之浦で待ち合わせてスーパーで夕食を買う。


 タクシーでアプローチする。運転手さんは最近沢に興味を持ち始めたらしく、去年瀬切川に行ったんですよという話をしたら、「いや~~良いところ知ってるね。あそこはすごいパワースポットらしいよ」などとよくわからん情報を教えてくれた。一方で宮之浦川への反応は薄かった。


 林道の入り口で下ろしてもらい歩き始めるが、数分後異変に気付く。どうやらタクシーに連れてこられたのは対岸の神之川林道だったらしい。さすが宮之浦川、早くも気が抜けない。気をとり直して宮之浦川林道を歩き始める。星がめちゃくちゃきれいだった。2時間強歩いて潜水橋に着き、適当に夕食を食べて寝た。雨に降られなかったのは結局この日だけであった。



9/24 晴れ→雨→曇り


 5時半起床。S原「撤退することになる夢を見ました」。明け待ちをして出発。最初は特に難所も無く、ゴーロ帯と右岸の藪を行ったり来たりしながら進んでいく。水の色がきれいだ。


 2時間弱でマンベー淵に入る。横のツルツルの岩壁がすさまじい。ここには巨岩三兄弟in宮之浦川がある。第一巨石(ケンシロウ)は右の穴から抜ける。第二巨石(トキ)はよくわからんまま通りすぎてた。第三巨石(ラオウ)はばかでかくて沢を完全に覆っており、右端は10mくらいの滝になっている。左のチムニー状を空荷で登攀(木戸トップ)。序盤は簡単。最後の抜け口を岩の隙間から抜けようとしばらく苦闘するが、結局ハングした岩の外に体を出す感じで登った。


 右岸にきれいな白糸の滝を見送り、次に出てくるF10(10m)は左岸から高巻き。下から見た通りに藪を繋いでいくが、最後にスラブが出てくる。これは斜め懸垂下降で対岸に渡った。若干やりづらい。F11とF12もまとめて巻き、11時くらいに歩いて沢に復帰。


 竜王の滝が見えてくる。全長110mらしく、下二段しか見えないがめちゃくちゃでかい。写真だとあんま大きく見えないが本物を見ればわかる。滝壺まで行ってしばらくのんびりするが、S原がなぜか泳ぎだし、しかもなぜか溺れかけていた。滝壺は色がすごかった。


 両岸とも登った記録があるが、我々が選択したのは右岸チムニー。滝壺近くのルンゼを登る。最初はノーザイルで急傾斜ゴーロを一段登ると、頭上に巨大チョックストーンが挟まったチムニーっぽくなり、木戸トップで登攀開始。難しくは無いがルートに確信が持てない。一度区切ってS木に交代。結構苦労してCS下に出る。この頃から雨が降り出し、暗すぎて上の様子が分からない。と、S木から「無理です!!」との声がありロワーダウンする。穴が実は上に続いておらず、しかも暗すぎて周りが見えなくなり、手探りで岩にスリングをかけて支点構築したらしい。どうにもならないので懸垂下降2ピッチで下まで戻る。ルートがよくわからない……。雨も激しくなってきたので、今日は諦めて泊まることにする。


 少し下ると左岸に良い感じのテン場があるのでテン張り、みんなで逃げ込む。今回は軽量化のため三人で2テンを一個しか持ってきていない。さっそくテントの中はどろどろぐちょぐちょになった。


 15時くらいから雨がやんだので偵察に行き、色々相談した結果、明日もう一度右岸を捜索してみることにした。晩飯はチンジャオロース(ラードまみれ)。この後の貧弱な食事を考えるとマシなほうであった。軽量化で酒も無く、やることも無いので18時半にはもう寝ることにする。沢メンなのに……。竜王の滝を越すことができず、色々な不安を抱えたまま寝た。



9/25 晴れ→雨


 5時起床。自分だけ撤退するという夢を見た。朝食は俺はココア、他二人はラーメン。昨日と同じくルンゼを登るが、ゴーロの岩の洞窟を通り抜けるところで落石がS木の足に直撃。登れなくなるようなことは無くて実害は無かったが、後で見たらでかい傷ができていた。一段登ったところから左を捜索すると、顕著なチムニーを発見!! 多分ここを行くべきなのだろう。


 木戸トップで登攀開始。かなり狭いチムニーなので空荷で行く。最初は快調だが、中盤で垂直に近くなり岩のでっぱりが出てくる。ナッツ+アブミで登ったのは良いが、そのあとしょぼいホールドをつかみハイステップするところがむずい。しかも支点をとろうとすると岩がぼろぼろ崩れる。なんじゃこれぇ。しばらく逡巡していたが、なんとか登る。その後もしばらく厳しい。上部は多少楽になり、ギアも枯渇してきたのでランナウト気味で登って小テラスで区切る。15mくらい? これは、むずい。


 しょぼい支点しか無い。荷揚げ(苦しかった)して二人に登ってもらい、S木トップで2ピッチ目。最初の4mくらいの岩壁を越えたあとバンドをトラバースするべきかルンゼを直上するべきか迷ったが、岩壁を越えたS木がルンゼが行けると言うのでそうする。このルートは泥斜面でぶよぶよ動く木をつかんで無理やり登るようなところもあり、結構悪かった。S木トップで良かった。この少し上から竜王の滝がよく見えたが、やはりめちゃくちゃでかい。三段110mどころではなく、四段130mくらいはありそうに見える。


 そこからはフリーで少し登り、岩の隙間(非常に都合が良かった)を通ると尾根に出た。作戦通りである。雨が降り出した。そこからは尾根をずっと辿り、ここら辺と思うところで降りるとちょうど竜王の滝の落ち口であった。時刻は11時過ぎで、5時間弱の高巻き。名実ともに最強の滝の感がある。


 F14~F16はまとめて巻く。結構高く巻いて時間がかかる。降りたところがF17。通称漏斗の滝だが、悪魔の滝とでも呼びたいような滅茶苦茶な形状をしていた。一度見てみたい滝だったので感動した。支流に入って尾根を越えて巻いた。


 F19からのいくつかの滝をまとめて巻く。さっさと巻くはずだったが、これはしんどかった。右岸から登りトラバースし、一段下って低く巻けそうなところが出てくるのでそっちに行くが、これは判断ミス。岩壁に阻まれ、藪と岩壁の際を登ろうと悪戦苦闘した挙句、結局戻って高巻きする羽目になる。一か所スラブのトラバースをする場所があり、距離は短いが落ちると死にそうなので一応ザイルを出す。F21あたりで懸垂下降して沢に戻る。F22はベローンとした岩が完全に沢をふさいでできた滝。右岸巻き。時刻はすでに15時を越えている。本来のCSである1300m付近まではまだまだ距離があり、雨は依然降り続けており夜まで行動するのも厳しいので、F23下の右岸側でCS2とした。ここは平坦で広くて極めて快適。泥がつくのの防止と防寒のためにテントの下に杉の枯葉をいっぱい敷く。どれだけの意味があるかはわからないが……。


 晩飯はCLの好きな料理であるマーボー春雨(軽いから)。S原が秘密兵器の鶏肉を持ってきていたので多少まともな食事となった。またもやることが無いので18時台に寝る。計量化でガスが少ないのでお湯も満足に沸かせない。ずぶぬれで泥々の男三人が2テンの中にひしめきあい、床には水たまりが形成され、服もシュラフもびしょびしょで、非常に不快な夜であった。



9/26 朝だけ曇り→雨


 朝食は昨日と同じくココアorラーメン。荷物の含水率が日に日に上がっていくので食料が減ったのにあまり軽くならない。少し明け待ちして出発。と、雨が降り出す。今日もかよぉ。


 F23は右の岩と藪の間を進む。F25(だっけ?)は右の岩を登るが最後が難しく、ショルダーを使った。F27は案外高く巻く必要があり、藪密度が高くきつかった。F28は大変でかい岩が沢をふさいで18m滝を形成している。偵察したところ人工登攀が必要そうでめんどかったので左岸から巻く。


 その上が本来のCS2付近で、右岸の傾斜が若干緩くなる。F31を右岸から巻き、そのままF37まで一気に高巻くことにする。昨日の反省から下手に高度を下げないようにしつつ、ひたすらトラバースをする。喉が渇くので笹についた露をなめるがあまり意味は無かった。たまにトゲのあるツルが出てきてうっとうしい。対岸のルンゼを見たりしながらRFし、こちらの斜面にも大きなルンゼが現れ現在地を確信する。急斜面を下ってルンゼに出る。しばらくルンゼを登ってからさらにトラバースを続けもうひとつルンゼを渡ってから下降すると、F38のある1460m二俣。ついに大ゴルジュ帯を抜けた。これは、嬉しい。


 そこからは美しい小滝やナメがいっぱい続き、楽しく進んでいく。小さいがゴルジュ地形が続き、楽勝かと思いきや案外大変なところもある。最後のF50(50m)はかなりきつかった。支流に入ってしばらく登ってから尾根を横断して本流に戻るが、とにかく笹藪の密度が高かった。全然進まない。しかも結構な急傾斜のトラバースなので気が抜けない。S木の根性に頼って突破。本流に戻ってから下を見るが簡単そうな巻きルートは発見できなかった。やはり直登か……?


 いくつか小滝をこなし、沢はついに詰め上がりに。すさまじい密度の藪を漕いで行くとスラブに出て、なんやこれ歩きやすいな~とか言いつつ再び藪に入り尾根まで登るとなぜか道が無い。しばらく藪を漕いでからさっきのスラブが道だったことに気付き、戻る。なんやかんやあったが、これで遡行完了!! 全身を喜びが巡った。


 詰めは焼野三叉路の近くで、一応宮之浦岳まで行くが、ガスだし強風だしでしょうも無かったのでさっさと出発して新高塚小屋に向けて走るように降りる。14時45分くらいに着いたはず。小屋の近くは木道が良く整備されていて平和だった。S木が小屋の前で靴を脱ぎながら「こんなん下界ですね~」と言って笑っていたので「傘さしてうろついてる人もいたしな」とヘラヘラしていたら傘をさしてる人がすぐそばにいてけっこう気まずかった。


 小屋に入ってS木の謎スープを飲む。味は普通だったがパスタを刻んでふやかしたみたいな変な麺が入っていた。夕食はパスタ。軽くてよい。またもやることが無いので19時前には寝た。小屋は2テンよりははるかに快適だったが、体が汚れすぎており、シュラフと衣服がびちゃびちゃなので根本的な解決には至っていない。



9/27 雨→曇り


 朝食はまたココアorラーメン。6時38分出発。縄文杉はでかかったが、宮之浦川遡行中にでかい杉をいっぱい見ていたせいかそれほどは……近寄れないし。ウィルソン株はなにがハートかよくわからなかったが実は奥まで行かないとだめらしい。雨の平日なのに下からいっぱい人が来る。


 トロッコ軌道の快適さに魅かれたCLの希望で荒川口に向かう。一度、初老のおじ様に沢登り?どこ登ったの?と聞かれたので、宮之浦川ですと答えると、すごいねとほめてもらった。嬉しかった。途中、次のバスは15時だよという絶望的な情報を聞いたりしつつ(帰りの情報をまったく調べて無かった……)、10時12分に荒川口に到着。貫徹!! みんなよくがんばった。



その後


 タクシーで安房に出て去年と同じくかもがわで昼食を食べる。山の食事が軽量化のためにしょぼすぎたので、すごくおいしく感じた。バスで宮之浦に出て、荷物を回収して民宿へ。そして念願のシャワー。全身があまりに汚く、異臭がすごいことになっていたのでとにかく気持ち良かった。もう泥々で変色した服を着なくても良いのが嬉しい。Aコープで買い出しして、打ち上げの前にさっそく飲み始める。みんな全身傷だらけで、傷を自慢して遊んだりする。宿には屋久島のキャラクター「もりっぱ」のポスターが貼ってあり、それを見たS原は某部員と口調が似ていると言ってゲラゲラしていた。夕方から近所の「さっちゃん」で打ち上げ。魚がおいしかった。疲れ切った体に久しぶりの飲酒だったせいかビール一杯で結構酔ってしまった。宿に戻ってからは衝撃映像連発みたいな手抜き番組を見てへらへらしながらまったりしたのであった。


 翌朝。S原ははいびすかすですぐ出発するはずだったが、メンテナンスで運航していなかった。朝からビールを飲んだりしてしばらくだらだらする。窓際でボーっとしてたら向かいの家の猫が寄ってきた。その後、高速船で帰る俺・S原と飛行機で帰るS木とに分かれ、partyは解散した。




○感想


 宮之浦川は果てしなくゴルジュと滝の続く、本当にすごいところだった。自分の遡行経験のなかで間違いなく一番すごい沢だった。出来る限りの準備をして全力で挑んで巨大な沢を成功させた達成感は大きい。瀬切川や黄蓮谷より明らかに難しいのでやはり5級はあると思う。


 遡行のポイントとしてはやはり竜王の滝を越えられるかどうか。我々は右岸ルンゼを直上してできる限り早く右岸尾根に登るという作戦で行ったが、これは出発点さえ発見できれば変なトラバースなどが無くルート自体はわかりやすい。ただ、チムニーはそれなりに登攀力が要求されるので、それなりに覚悟を持って登ったほうが良いと思う。ちなみに遡行全体を通して、第三巨石を除いて残置ハーケンや赤テープの類は一度も見なかった。自分でがんばろう。


 今回成功したのは、事前の準備や軽量化など色々あるが、やはり三人がそれぞれの力を合わせたことが一番の要因だと思う。藪やゴーロでのトップはほぼ三回生の二人(特にS原)に任せてしまい非常に助かった。S原とS木とはもう何度も一緒に沢に行っているが、すごい奴らだと思う。それぞれ色々やばいが、なにより一番すごいのは沢へのバイタリティの高さである。このまま突っ走ってどこまでもやばいとこまで行ってほしいものだ。


 今回の宮之浦川が終わって達成感と同時に喪失感がある。次は小楊子川? いや、もうさすがに……。




○装備


・8mm×50mザイル、6mm×30mスリング:メインザイルはもっと短くて良い。荷揚げのために二本あると便利。


・カム×6、ナッツ×3:軽量化のため減らしたが、もう少しあったほうが良かった。


・アブミはあるとなにかと便利。ハーケン&ハンマーは持っていかなかった。無くてもなんとかなる。


・ガスは110g新品と、あんまり入って無い250g缶。ぎりぎり足りたが、酒が無いとお湯を沸かすくらいしかやることが無いし、焚火ができないと寒い時にきついので、もう少し余裕を持った方がよい。


・今回はかなり軽量化に努めた。3泊4日だったが35Lザックでまだ余裕があった。酒を廃止したり食事を減らしたり。また、不快というのを除けば、2テンで3人でもなんとかなる。




○右岸チムニーの図


手書きで汚くて申し訳無いけど一応作りました。


http://photozou.jp/photo/show/2619556/241821345


この記事へのコメント

やるやん

Posted by M西 at 2016年10月09日 03:45

やりました。我ながら結構がんばりました

Posted by 木戸 at 2016年10月09日 14:09

今度京都戻ったときに祝勝会しようか

Posted by M西 at 2016年10月10日 01:35

ぜひやりましょう。ついでに色々お祝いしましょう

Posted by 木戸 at 2016年10月10日 19:53