平成熊本地震はどの程度

予測されていたか

平成28(2016)年4月に発生した平成熊本地震から6年を迎えようとしている.気象庁震度階級では最も大きい震度7を観測する地震が4月14日夜および4月16日未明に発生したほか,最大震度が6強の地震が2回,6弱の地震が3回発生した.近所のマンション外壁の修復も一巡し,最近は低層アパートや民家の修復が目につくようになった.

熊本地震以後も全国あちこちで地震が発生していて,令和4年3月の福島沖地震は最大震度6+を記録した.地震が起きると地震予知が話題になる.そこで平成熊本地震はどの程度予測されていたのか振り返って調べてみた.

平成熊本地震の3年前の予測「地震本部ニュース(2013年)」

政府の特別機関で,我が国の地震調査研究を一元的に推進している地震調査委員会の「地震調査研究推進本部(本部長:文部科学大臣)」(地震本部)が発行している地震本部ニュース(2013年)では,

布田川断層に起因する地震に関して,

M7.0 程度の地震が今後30 年以内に発生する確率をほぼ0%~ 0.9%と評価し、我が国の主な活断層における相対的評価として、「やや高い」としている.

「0.9%」と言われても実感が湧かない.そこで、地震調査委員会は,活断層を個別に評 価するだけでなく,地域の危険度を総合的に評価する方法を導入した.「活断層の地域評価」と呼ばれるもので,九州地域について最初の地域評価がおこなわれた.続いて関東地域と中国地域の評価が 公表された.

九州中部で M6.8以上の地震が30年以内に起きる確率は「18~27%」,九州全体では 「30~42%」とされている.この確率は,日本の他地域と比較しても高い値である.

熊本地方では地 震が発生する確率も強い揺れに見舞われる可能 性も高かったのであるしかし,この情報が必ず しも正しく理解されず防災に活かされなかった面があることは今後に課題を残したと指摘する意見がある(特 集 - 熊本地震 ~内陸の浅い地震の脅威

地震発生後の地震本部ニュース[平成28 年10 月17 日発行(年4 回発行)第9 巻第2 号]には次のように書かれている.


1.表記見直しの背景

 地震調査研究推進本部(以下、「地震本部」という。)の地震調査委員会では、主要活断層で発生する地震の長期評価、活断層の地域評価の結果を公表しています。平成28 年(2016 年)熊本地震においては、4 月16 日に発生したM7.3の最大規模の地震は主に布田川断層帯の布田川区間の活動によると考えられます。

この布田川断層帯(布田川区間)について、地震調査委員会では、M7.0 程度の地震が今後30 年以内に発生する確率をほぼ0%~ 0.9%と評価し、我が国の主な活断層における相対的評価として、「やや高い」と分類していました。しかし、熊本地震の発生後、この評価結果について以下のような指摘を受けました。

・防災を担う自治体担当者や一般国民に、正しく危険性を伝えられていない

・あたかも降水確率を見るかのように、「起こらない確率」が高く見えてしまい、かえって安心情報になっている

地震本部では、こうした指摘や熊本地震の教訓を踏まえ、一般国民のみなさまに活断層のリスクを正しく理解していただき、最終的には適切な防災・減災行動につながるように、より分かりやすい表記に見直すための検討を行いました。


2.表記見直しの内容

 地震発生確率と地震後経過率(※)とを組み合わせたランク分けを導入し、ランクと色で表記することとしました(図1、図2)。また、見直し前は「表記なし」という分類があり、3タイプの活断層の情報(30 年以内の地震発生確率が0.1%未満又は確率が不明、活断層でないと評価)を一律に表記していましたが、活断層のリスクを伝える情報としてはこれら複数タイプを同列に扱わないことが適切であることから、細分化することとしました。このうち、「活断層でないと評価」については、以前に主要活断層と評価されていましたがその後の調査で活断層ではないと評価されたものであり、活断層のリスクを伝える情報としては不要であることから、削除することとしました。

今後30年以内に数%」という値が日常生活において無視出来るほど小さな値ではないことを理解するための参考情報が以下の資料等に説明されている. 他のリスクと同列に比較することは問題があるかも知れないが, 台風や大雨で被災する確率は0.5%程度である.

確率の数値を受け止める上での参考情報地震発生確率・地震動超過確率の例と日本の自然災害・事故等の発生確率の例

出典 内閣府 防災情報のページ みんなで減災

近年,世界各地で地震や火山の噴火が頻発している.トンガの海底火山噴火や,インドネシアやハイチでのマグニチュード7を超える大地震.国内でも2022年1月の東京・埼玉で震度5強を観測する地震や、大分県・宮崎県で最大震度5強を記録する地震が起き,さらに4月になって毎日どこかで震度4の地震が起こり, 緊張感が高まっている

平成熊本地震の規模は想定されていた規模ではあったが,われわれ熊本県民はまさか3年後に発生するとは思っていなかった.30年間に起きる確率となるとかなり先のことと思いがちであるが,平成熊本地震は「明日」も「30年先」も同じであることを教えてくれた.

そのようなことを思いながら,自分の人生を振り返ってみると,昭和20年に終戦(5歳),それから昭和26年まで占領政策下の生活,昭和28年西日本大水害,昭和35安保闘争ー昭和43年九大紛争,平成27年第15号台風(熊本県北部上陸),平成28年平成熊本地震,令和元年~コロナ禍,その間,女性の名前(英名)の付いた台風を初めとして幾度か台風襲来を経験した.実感として30年は短いものである.

地震発生確率・地震動超過確率の例と日本の自然災害・事故等の発生確率の例

https://www.j-shis.bosai.go.jp/guide-to-accept-probability

「今後30年以内に数%」という値が日常生活において無視出来るほど小さな値ではないことを理解するための参考情報です。

特 集 - 熊本地震 ~内陸の浅い地震の脅威

内容の一部

しかし、「0.9%」と言われて も実感が湧かないかもしれない。 そこで、地震調査委員会は、活断層を個別に評 価するだけでなく、地域の危険度を総合的に評価 する方法を導入した。「活断層の地域評価」と呼 ばれるもので、九州地域で最初の地域評価がおこ なわれた。続いて関東地域と中国地域の評価が 公表された。九州中部で M6.8以上の地震が30年以内に起きる確率は「18~27%」、九州全体では 「0~42%」とされている⑶(図3)。この確率は,日本の他地域と比較しても高い値である。 しかし、防災上本当に重要なことは地震の発生 する確率の大小ではなく、各地点で強い揺れに見舞われる可能性の大小である。2016年版の全国地 震動予測地図によれば、益城町で0年以内に震度 6弱以上に見舞われる確率は10~28%程度であ る⑷。 この値も大変高い。つまり、熊本地方では、地 震が発生する確率も、強い揺れに見舞われる可能 性も高かったのである。ただし、この情報が必ず しも正しく理解されず、防災に活かされなかった 面があることは、今後に課題を残した。

(2022.4.11)