久が原の氷
久が原の氷
現在の久が原は閑静な住宅街ですが、明治から大正の中ごろまでは、丘陵と森林がありました。丘のふもとにかけては質の良い湧水が生活用水の源をなしていたそうです。そして、これらの水を利用して天然の氷を作っていたといわれています。氷は、地域の人達が交代で水を引き込み、前夜に張った氷の上に水を流し、これを繰り返して暑さ30センチメートルになると切断し、倉に貯蔵していたそうです。
ちょうど今の久が原保育園付近から、久が原二丁目27番地先、及び本光寺前付近で行われたと伝えられています。こうして作った天然氷はレンガ囲いの貯蔵庫に保存され、その年の夏場を迎えて出荷されました。炎天下に荷車で、大森、立会川から品川に抜け、田町の札の辻より芝の増上寺前の氷問屋まで運んで売ったといわれています。
久が原の氷は、管理がよく、食用としての評判もよかったそうです(※一つがおよそ135キログラムだった)。
冬の農閑期を利用した氷の製造は、地域の収入増となったのはもちろんですが、若い人達による運搬作業などを通して、扶け合い(たすけあい)の生活文化を形成したのではないか、と考えられています。
【参考:地域情報紙「くがはら」第30号(平成9年10月発行)より】