【編集後記】
二〇二三年七月下旬。蝉の声がうるさい。首に伝う汗が、気持ち悪い。外に出るのも億劫で、夕方、ようやく涼しくなったころに買い物に出かける。最近、行きつけのスーパーからお気に入りのお惣菜がなくなっていた。僕以外に購入している人を見たことがなく、いつも山のように積み上げられていたからもしかしたら人気がないのかもしれないと懸念はしていたが、とうとう消してしまった。そうして悄然と歩く帰り道。緩い坂道を登ったところに猫が二匹いる。去年この街に越してきたころは僕の顔を見るたびにどこかへひょいっと走り去っていたくせに、最近だと僕が無害だと知ったのか、欠伸する余裕もあるらしい。可愛いなぁこいつら、と見とれながら歩いていたら、路肩に足を滑らせ、転げそうなところを近くの手すりをつかんで、何とか体勢を整えたものの、買い物袋を地面に落とし卵が二つ割れた。青々とした桜の木の下を抜け、自分のアパートに戻り、パソコンを開く。開ききった窓から蚊が侵入してきていた。得も言われぬ気持ちになった。あけすけに言えば疲れた。ご飯炊くの面倒くさい。
さて、デスクトップに映る『澪標・春』の文字を見るたびに、最近は五秒ぐらい悩む。『澪標・夏』にしようかと。そもそも作品を募ったのは五月中旬。もうその時点で春じゃない。
蝉がうるさい。蚊もうるさい。汗が伝う。やっぱり夏だ。春じゃない。
でもこれは、春の澪標なのです。春なのです。
真面目に話します。
この度本冊子の編集業務に携わりました藤原です。
前回発行した冊子『暮夜』では、文字数が多くて大変という話をしましたが、今回に比べたらかわいいものでした。とまれ、僕が苦しむということはそれだけ意欲的に取り組んだ文芸部員がいるということなので、喜ばしいことです。作品を投稿してくれた方には感謝しかありません。決して恨んではいません。本当です。きっと。今後も意欲的な活動を期待します!
藤原涼多
二〇二三年七月二十四日