生ぬるい風があたりを吹き抜けた。
眠ることはないと言われている都会の喧騒が嘘のように静かな裏通り。
風に乗って聞こえるガヤガヤとした喧騒も、耳を澄ませなければ聞こえてこない。余りの静かさに世界から切り離されたようだった。
近くの飲み屋の扉が開いたのだろう。店内の賑やかさがワッと広がり、閉じる扉と共にかき消される。
ポケットの中に入っていたクシャクシャの煙草の箱から一本取り出し、ライターで火をつけた。
紫煙が立ち上り、煙と共に独特の匂いが広がった。まるでため息を吐くかのように煙を吐き出す。
生暖かい風が煙草の煙を押し出した。
季節外れの笛の音が微かに耳に届き、首をかしげる。
この近辺に神社も無ければ寺もなし。夏祭りというには時期が違い過ぎる。
賑やかな笛太鼓に鐘の音と、かぶせるように響く無秩序で不気味な音の群れ。
ガチャガチャと響く金物じみた音に足音に、動物の鳴き声らしきものまで聞こえてくる。
震える煙草を咥え、煙を吐き出した。
やがて現れた一行は、立ちふさがるものを認め、立ち止まる。
「これはこれは南蛮にかぶれし御同輩」とニヤリと哂う妖の者。
不快気に眉をひそめて送る眼差しに「誤解なきよう」と嘲笑う。
「端から我ら人外に和も洋もありはせぬ」
したり顔で嘯く妖の者。隣で頷く付喪神も口開く。
「区別差別は人の世のみの理(ことわり)よ」
可笑しや可笑しと闊達に笑いさんざめく妖怪たちに、寄せた眉根が和らいだ。
「変化するは人の世のみにあらざれば、我ら妖(あやかし)とて変化は厭うことで無し」
邪鬼が謳い、魑魅魍魎たちが踊りだす。
「何より人の在りようが変わるのならば、此方も変わり行くのが道理なり」
好き勝手に言い放ち、あの世とこの世の境目で惑う霊をも誘(いざな)って、今宵も楽し気に行脚する。
古きも新しきも西も東もすべて受け入れるが百鬼夜行。
今宵加わりしは、心残りや無念さを残した逝ったと死者の気持ちを慮る生者の念が生み出し幽霊。
人の思いの数だけ生まれ出ずる妖(あやかし)は、今日も何処かに現れる。
明日もまた新たな妖が、百鬼夜行のしんがりに加わるのだろう。