空の全てを覆っていた夜の闇が西の空に追いたてられ、東の空が薄紫に光を帯びる。
其れは、夜から朝へと空気が変わるのを強く感じていた。身の内に巣食う力の流れが変わり、自分からもう一人の自分へと作り替えられていく。
(今宵もここまでかしらぁ)
毎夜毎夜、夢から夢へと渡り、様々な者たちの記憶・願望・恐怖を覗き見て、言葉を探していた。
尊き御方と再びまみえるため、そのために必要な言葉を探していたが、今宵は空振りで終わりそうだと、ため息を吐く。
(でも、ちょこっとだけならいいよねぇ……)
次で最後だと自分に言い聞かせながら、次の夢へ渡ろうとしたとき、グラリと意識が揺れた。
反射的に目を瞑る。酩酊したかのような眩暈が襲って消える。
たった一瞬だけとはいえ、意識を逸らしたことがアダとなり、まるで崖から落下するかの如く、夢と夢の狭間に落ちていった。
初めての事態に、ただただ驚愕に目を見開く。
そんな其れの目の前に一つの景色が飛び込んだ。
柔らかな陽の光。揺れる木漏れ日が影と光で地面に模様を描き、涼し気な風がさわりと駆け抜ける。
飴色の広縁の向こうの障子は全て開かれており、真新しい青々とした畳がイグサの香りを振りまいていた。
(これは、夢……)
畳の上に横になる人影。
眠っているのだろう。規則的に胸が動いていた。
広縁に小さな影が現れると、音を立てず部屋に入り込む。
その小さな影は、横たわる人影に近寄ると、じゃれる様に頭を擦り付けた。
身体に当たる小さな振動に揺り起こされたのか、ゆっくりと目を開けたその人は、柔らかく微笑み、小さな影の頭を撫でる。
とても幸せそうな微笑みは見たことがなくて、思わず嫉妬しそうだった。
夢とわかっていても、その微笑みを自分に向けて欲しいと希(こいねが)いそうになる。
(これは、誰の夢?)
幸せそうに頭を擦り付ける小さな獣。
起き上がった尊き御方は、その小さき獣を両手に抱いて、膝の上に乗せる。
おろされた両足の上、満足げに膝の上に丸くなる獣。
愛おしそうに身体を撫でる尊き御方。
(これは、誰の願望?)
遠くで猫の鳴き声が聞こえたと認識すると同時に夢から弾き飛ばされた。
この夢の中で感じた、泣きたくなるような、胸を締め付けられる感情の理由が知りたくて、また訪れようと夢を渡るも、その後、二度と訪れることは叶わなかった。