邪気の気配を追って下界に降り立つ未神将。
何かに導かれるように訪れたのは不可思議な館……館に一歩踏み入れば、ぐにゃりと空間が歪みだし、気付けば様々な世界が結び付く。
彼方(アチラ)と此方(コチラ)、其方(ソチラ)と何方(ドチラ)、様々な世界が集約し、歪なる美を内包する空間と化している。
人外魔境もかくやあらむ。
楽しい宴が始まりを告げる鐘の音が響き渡る。
波魚(@pasha_lx)様
「いらっしゃいませ、御客人」
出迎える執事は優しい微笑みを湛える。
手を取り導かれるように招かれれば、美しいメイドたちが上品に一礼して歓迎の意を表した。
『何かを忘れている』
そう思いつつも、このなんとも心地よい空間に包まれていると、些細なことは気にならなくなっていた。
波魚(@pasha_lx)様
見目麗しい執事に見つめられ、まるで魂まで吸い込まれそうな気分に陥る。
「わが主が戻るまで、しばしお待ちください」
微笑む執事の瞳の奥には、底知れぬ暗闇が広がり、彼の者の心情を推し量ることなど出来なかった。
「貴女も誘われた旅人か?」
古今東西、様々な世界から招かれた男たちが彼女を取り囲む。
右も左も揃いも揃って魅力的な殿方ばかり。
屋敷に招かれる基準の高さに、密やかに彼女は慄いた。
「この屋敷は何かがおかしい」
「不在の主は一体いつ戻るのか」
それぞれに疑問を呟くも答えは出ない。
「なぁ……お前は何かを知らないか?」
尋ねられるも、彼女に答えを示す術(スベ)はなく、そっと首を振るしかなかった。
屋敷を調べると伝えた私に異界の騎士が護衛をと買って出てくれた。
元の世界では、護ることはあっても護られるなどという機会は無かったものだから、そのお姫様に対するかのような扱いに、年甲斐もなく胸をときめかせる。
なんて罪作りな男たちなのだろうと、彼女はため息を一つ吐いた。
撮影:顎門(@dookiegreenday3)様
屋敷を探索していると出会ったのは天使のような少女。
不安げな表情を隠しきれない儚げな少女は、それでも笑顔を浮かべていた。
その健気な姿に彼女は、胸を撃たれ、手を差し出す。
差し出された手を取った少女の安堵の微笑みと、その手のぬくもりに、彼女は自分も不安だったのだと思い知る。
助けられたのは、どちらだったのだろう?
彷徨う中、出会ったレディ・シャンデリア。
貴婦人の中の貴婦人のような気高き人外は、力強く指し示す。
その向こうに続くのは、一つの扉。
信じるも信じないも己次第だと告げた尊き御方に導かれ、彼女は扉を開ける。
ふとこの不可思議な館で出会った者たちを思い返す。
それでも館に留まるという選択肢は彼女になかった。
此処に邪気はない。
あったのは主を思う使用人たちの温かな心と意思を持つ椅子の茶目っ気だけだった。
心残りがあるとすれば、館の主人にお会いできなかったことだけ……
そして、異世界への扉は閉じられる。
こうして一つの冒険が幕を下ろしたのだった。
撮影:顎門(@dookiegreenday3)様