私の子供たちと
品川神社 例大祭 2025
北品川三丁目親和会
北品川三丁目青年会
今日は、北品川三北地区の未来について、
そしてここに暮らす私たちが、
これから何を守り、何を選ぶべきか、
その根源に触れる話をさせてください。
まず初めにお伝えしたいのは、
再開発は「賛成か反対か」の二択ではないということです。
これは私たちの街が、
どんな価値を持ち続ける未来を望むのか
その選択の問題です。
北品川は、ただの住宅街ではありません。
江戸の初期、徳川家康が関ケ原の戦いに勝ち、
品川神社に天下一嘗の面奉納をした頃から連なる、
生きた歴史が地層のように積み重なった場所です。
路地には名前のない記憶が残り、神社には先人の祈りが宿り、
店先で交わされる「今日は寒いね」の
一言がこの街の温度を作ってきました。
それは、地図では測れない街です。
面積でも容積率でも、
金銭でも評価できない価値があります。
しかし今、再開発が進むにつれ、
最も弱い立場の人たちが、声を上げない、
上げられない住民の思いが、
数字の中に飲み込まれようとしています。
出席しない人は賛成とみなされ、
資料を読めない人は議論に参加できず、
孤立を恐れて口を閉ざす人は、
「異議なし」と扱われてしまう。
でも、本当に異議はないのでしょうか。
私は違うと思います。
これは沈黙ではなく、
届かない声です。
これは無関心ではなく、
不安と喪失の影です。
法律の成り立ちを見れば明らかです。
都市再開発法昭和44年に制定され、
高度経済成長期の混乱の中で、老朽化・空洞化・人口減少によって
都市が「死に向かうのを止めるため」に立法化されました。
国会で議論された中心理念は——
🟥 弱者を切り捨てない
🟥 移転は強制ではなく救済である
🟥 街は住民と共に継承する
つまり制度は、
「都市を救うために人を犠牲にしてよい」
と決して言っていません。
ところが現代では、制度の意図とは逆転した現象が起きつつあります。
デベロッパーは制度の欠陥をついて、
都市計画の名のもと、「合法的な土地収用」が横行しています。
そもそも再開発の必要のない地域が、
再開発事業者の利益の餌食になっている
といっても大げさでない状況です。
街は生まれ変わっても、人が戻れない。
新しい建物が建っても、
祭りも路地も言葉も文化も失われる。
今の再開発は
住民だけが排除される構造
になっているのです。
ここで、一つ問いを置きます。
もし未来の子どもが
「ここに神社があった」と地図でしか知れない街になったら、
それは成功した再開発と言えるでしょうか?
祖父母の世代が語ってきた物語を
コンクリートと規格の中に埋めてしまっていいのでしょうか?
変わることは必要だとしても、
消える必要はないのではありませんか。
私たちは進歩を拒否していません。
ただ、人やコミュニティを残したまま街を前に進めたい
そのささやかな想いだけです。
みなさん、想像してみてください。
毎朝、同じ道を歩いて学校に通った子どもがいます。
帰り道、駄菓子屋のばあちゃんに飴をもらい、
夏祭りでは町会の半纏を羽織り、
太鼓の音に胸を鳴らした。
その子は今、大人になり、
自分の子どもを同じ道で歩かせたいと思っています。
同じ神社で手を合わせ、同じ商店街でコロッケを買い、
同じように盆踊りの輪に入らせてあげたいと願っています。
でも、もしこの街が再開発で姿を変えてしまったら?
高層ビルの谷間に同じ路地はありません。
顔の見える商店もありません。
太鼓の音も、提灯の明かりも、
あの夏の匂いも、日に焼けやた子供たちの笑顔も、
どこにもないのです。
街は建物ではありません。
一人ひとりの尊いつながりです。
思い出と、暮らしの積み重ねです。
声を上げない3分の1の人は、
反対ではなく、ただ失う怖さを言葉にできないだけです。
私たちは、自分の育った街を、
これからここで育つ、子どもたちの未来を守りたい。
この街を知らない子どもが大きくなるのではなく、
この街を覚えている子どもが大きくなる未来を選びたい。
だから、どうか、考えてほしいのです。
街を残すとは、
過去を保存することではない。
未来につなぎ渡すことなのです。
私たちは今、その分岐点に立っています。
私が大好きな司馬遼太郎が、亡くなる数年前に著した、
『対訳 21世紀に生きる君たちへ』(1999年、朝日出版社) の
メッセージの中に、
「人間は、鎖の一環ですね。はるかな過去から未来にのびてゆく鎖の。」
と、いうフレーズがあります。
私は、この街の鎖を決して切らしてはいけないと思います。
私たちには子供たちに対して、未来に対しての責任があると思います。
だからこそ、今日提案したいのは対立ではなく選択です。
🔹 利益分配制度の空白を埋める新ルール
🔹 声なき住民を意思に反映する仕組み
🔹 歴史・文化資源を価値として評価に組み入れる
🔹 再開発を「破壊ではなく承継」に変える設計
ビルを建て替えるだけなら簡単です。
でも、街の魂を継承しながら更新するには知恵がいる。
その知恵を、この北品川から生み出せる。
私はそう信じています。
なぜなら、ここにはまだ
路地があり、言葉があり、神社があり、
灯りがあり、笑い声があり、
帰ってくる人がいるからです。
街は、建物ではない。
街は、人です。
記憶です。
生きた文化です。
それを人は誇りと呼ぶのだと思います。
いま、私たちが直面しているのは、
その「誇り」を失うかどうかの問題です。
そして今、私たちはその未来を選ぶ権利も持っている。
そのことをもう一度住民の皆さんと考えていこうと思います。
ご覧いただきありがとうございました。
特定行政書士 犬塚 伸彦