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発表① 世界の「いま」が本当に見えているのか ―事前情報に基づく知覚の安定化―

発表者:村井祐基 (カリフォルニア大学バークレー校)

発表要旨

我々の視覚系に入力される一瞬一瞬の情報には種々のノイズが含まれるため、時として情報の信頼性が低い。知覚の中長期的な安定性を図るひとつのメカニズムとして、現在の知覚が過去に知覚した内容と同じ方向に偏っていく系列依存性(serial dependence)がある。外界にある物体は基本的に位置や形や色といった属性がいきなり変化することはまれであることから、過去の情報をもとに不安定な知覚情報を補正していると考えられている。本研究では、単純な方位検出課題と心理物理学的逆相関法を用いて、「知覚的テンプレート」と呼ばれる知覚課題を行う際の視覚情報の重み付けが、過去に観察した方位情報の側に体系的に偏っていることを示した。さらに方位弁別課題によって、系列依存性による知覚的な見えの変化が、課題遂行時の知覚的テンプレートの歪みを生み出していることが示唆された。これらの結果は、方位情報のような極めて基本的な視覚特徴においても、事前情報に基づく情報の符号化が行われていることを示している。本発表では、方位知覚における系列依存性の個人差や、知覚的意思決定や記憶表象の段階における系列依存的処理との関連性を調べた発展研究に関しても紹介する。