『俺がいないとアイツが泣くから』
「アイツの敵は全員、俺が倒してやる」
ヤクザの若頭が拾ったのは、壊れた女。泣きわめく女を抱き潰し、すべてを忘れさせる日々。こんなことは間違っているとわかっていながら。俺がいないとからアイツがいないとへと変わる、切ないラブストーリー。
文庫(A6)34P
「ああっ、やぁっ!」
俺の下で彼女が喘ぐ。少し力を入れるだけでポッキリと折れてしまいそうなほど細い身体に、ガツガツと乱暴に己を打ち付けた。
「狂え、狂ってしまえばいい……!」
「はぁっ、ああっ、あっ、ああああっ!」
ひときわ大きく声を上げた彼女の身体から力が抜けていく。汗で貼り付く髪を剥がした下には、目を閉じ、浅い呼吸を繰り返す彼女の顔が見えた。
「おやすみ」
瞼に口付けを落とし、眼鏡をかける。煙草を手に取って火をつけ、ふーっと深く煙を吐き出した。
「……ん……」
身動ぎした彼女の手が、俺の腕を掴む。くしゃくしゃと髪を掻き回してやったらはぁーっと息を吐き、今度は穏やかな寝息を立てだした。毎晩繰り返す、彼女との情事。彼女が気を失うまで抱き潰す。そうじゃないと彼女は全てを忘れ、眠れないから。
「こんなこと、いつまでも続けられないのはわかってるんだけどな」
人様に言えない稼業の、しかも幹部の女なんて、いつ何時、命を狙われるかわからない。――それに。コイツは俺の、女ではない。
「わかってる、はずなんだけどな」
脱ぎ捨ててあったシャツをぬいぐるみに着せ、彼女に抱かせる。身代わり、というやつだ。ただのぬいぐるみだとダメだが、一日着たシャツを着せればにおいがするからその役割を果たしてくれる。ゆっくりと上下するその胸に、布団を掛けてやった。
「ちょっと出てくるから、いい子にしてろよ」
「ん……」
涙が溜まりはじめた目尻に口付けし、音を立てないように部屋を出る。きっとまた、あの日の夢をみているのだろう。
「めー覚ます前に戻ってこねーとな……」
そうじゃないとまた、泣き叫んでしまうだろうから。
彼女を拾ったのは、素人の売春屋からだった。本職のシマで命知らずな、嘲笑いながら踏み込んだそこ、には地獄が広がっていた。あの日のことは思い出したくない。俺が思い出すだけでさらに、彼女を穢してしまう気がするから。とにかくそこは、いつも顔色ひとつ変えずにヤワな下っ端なら嘔吐すらするような拷問をやる俺でも、目を背けたくなる状態だったのだ。
「死ねや、変態」
部下に命じることなく、女を嬲っている男の眉間に弾丸を撃ち込む。間髪入れず、その後ろで高みの見物をしていた、リーダーの男へ銃を向けた。
「た、助けてくれ。金なら、ほら……!」
地べたに這いずり、金の詰まったずた袋を開けてみせる男を、醒めた目で見下ろしていた。
「お、女なら、あれやるから」
震える指で男が指した先には、さっきまでただ搾取され続けていた女が、ぴくりとも動かず横たわっている。
……続きは本編で。