『耳と尻尾は2度目の初恋をする~けも耳オメガバース短編集~』R18
『耳と尻尾は2度目の初恋をする~けも耳オメガバース短編集~』R18
池森は突然やってきた発情期で動けなくなっていたところを、嫌っている獣人の舟橋に助けられる。舟橋は常に紳士的で、彼ならと思い身を任せる。しかしそのすぐあと、舟橋が自分の父親ではないかと気づき……。年下社長×訳あり社員、エリート副社長×一般社員、イケオジ社長×生意気リーマンの、3本収録。
眼鏡のさきっぽ名義、BL R18
A5 2段組 46P
『耳と尻尾は2度目の初恋をする』より
『きっと、あの人がすぐに迎えに来てくれる』
俺のあたまを撫で、父が微笑む。幼いながらにそんな父が哀れだった。真実を告げてやった方が優しさなんじゃないか。そんなことがあたまの隅を掠めていく。
『お父さん、……』
──ピッコン、ピッコン、ピッコン……。
「……うるさい」
惰性で携帯のアラームを止め、二度寝に入った。──が。
「早朝会議!」
慌てて起きて歯を磨き、髭を剃って顔を洗う。鏡を見ながら、これでもか!ってくらいに短髪をツンツンに逆立てた。
「よっしゃ。今日もいい感じ!」
思いっきり眉間に力を入れ、鏡を睨む。少しでも他の人間から舐められる要素は排除せねば。
「やべっ、もうこんな時間!」
予定時間がもう迫っている。カロリーバーを囓りながらアパートと飛び出した。
適度に混んだ電車に揺られて、今朝みた夢のことを思いだす。なんで今頃、あんな夢をみたのだろう。父が死んでもう、二十年がたとうとしているのに。
「──、──」
ぼーっと考えているうちに、アナウンスが会社の最寄り駅を告げる。
「柄にもなく思い出に浸ってる場合じゃねーよな」
苦笑いをして、気持ちを切り替えるように電車を降りた。
「っはよーございまーす」
会社にはまだ、誰も来ていなかった。この隙に資料を読み返し、会議の予習をする。何事においても、ぼろを出すわけにはいかないのだ。
他の社員たちも出勤してきて、予定通りに会議がはじまる。各自、今月の予定を発表していった。
「……なお、今月の目標といたしましては、先月比110%を予定しております。以上です」
俺の番が終わり、素直に座らせないかのように手が上がる。
「本当に10%増なんて可能なんですかねぇ。先月だって前月比15%増だったんでしょう? さらに、なんてねぇ」
ねちっこく、俺より三つばかり年上の男、西田(にしだ)が訊いてきた。
「お手元の資料が示す通り、可能ですが。それともこんな好条件で西田さんは不可能なんですか?」
極めて冷静に、それでいて慇懃に見下してやる。怒りに震える西田のあたまからはすぐにぴこん、と豚の耳が生えた。ここからは見えないがスラックスの尻は短い尻尾できつそうに、もっこりと膨らんでいることだろう。感情を抑えきれずにすぐに正体を晒す奴は、俺にとってはあしらいやすい相手だ。
「……ああ。池森(いけもり)は俺たちと違って、身体で契約取ってるんだから簡単か」
カッ、と腹の中が熱くなったがおくびにもそれは出さずに、さらに冷ややかな目で西田を見下ろした。
「西田さんもすればいいんじゃないですか。もっとも、相手にも選ぶ権利はあると思いますけど」
「この非獣人が! フェロモン振りまいて誰彼かまわず尻(ケツ)振るお前と一緒にするな!」
激昂した西田が叩いた机が、ダン!と大きな音を立てる。けれど俺は、それを醒めた目で見ていた。
「はい、いただきました。これ、人事に提出してもいいんですけどね」
見せつけるように携帯を操作し、再生ボタンを押す。
『この非獣人が! ……』
自分の声が聞こえてきて、西田はみるみるうちに青くなっていった。
「非獣人差別は問題ですよねー」
もちろん、人事に提出する気などさらさらない。西田の反応が面白いからやっているだけだ。
「あー、そろそろやめないか」
その場にふさわしくない、課長のおっとりとした声が響いてきて、西田がほっと息をついた。
「別に誰がどんな手段を使って契約を取ってこようと関係ない。結果がすべてだ。以上、解散」
課長の一声で三々五々に散っていく。俺はこの、課長の成果主義が嫌いじゃない。だから非獣人の俺でも、やっていけているのもある。
西田は豚耳を隠さずに、最後まで俺を睨みながら出ていった。西田だけじゃない、多かれ少なかれほとんどの人間が俺を差別している。あの課長だって、腹の中ではなにを考えているのかわからない。
「耳と尻尾が生えてりゃ、そんなに偉いんですかね」
非獣人である俺と、西田や課長たち半獣人とは耳と尻尾が生えているか生えていないか、──発情期があるかどうかしか差がない。もっとも、その発情期が大きな差別を生む要因なんだが。
非獣人の俺たちには発情期がある。その期間は誰彼かまわず誘うフェロモンをまき散らし、自身を抑えることすら難しくなる。しかも非獣人は男でも孕めるとなれば、穢らわしく思われても仕方ないかもしれない。そのおかげで昔は、そういう職にしか就けなかった。
しかし発情期を抑える薬が発明され、非獣人の差別撤廃運動も起こり、さらに世界的に差別撤廃条約が結ばれた現在では、差別はなくなっている。まあ、表面上は、って話で、実際はあのようにまだ根強く残っているが。でもそのおかげで、俺は普通にサラリーマンなんてやっていられるんだけどな。
……以下、続く。