『痕跡~His secret』【BL】【B18】
『痕跡~His secret』【BL】【B18】
堅物年下上司がネクタイを緩めた下に見えたのは、似つかわしくないキスマーク。それを軽くからかったら、思いもよらぬ告白をされ……。モブおじさんリーマン×堅物年下上司 寝取られ注意
A6(文庫)20P
「……あっ。……んんっ」
あの、完璧な課長が俺の下で喘ぐ。そんな非現実的な風景は、まるで夢でも見ているようだ。……なんでこんなことになっているんだっけ? そうだ、課長のあれを見てしまい、それがあまりにも意外で揶揄ったりしたのがいけなかったのだ――。
「嶋(しま)さん」
「はい」
羽間(はざま)課長に呼ばれ、彼の前に立つ。大企業と呼ばれる会社で、二十九歳という若さで課長、それだけでもエリートなのに、さらに。
「『エーエス社』さんの資料、先程そちらに送りました。都合のいいときに確認してください。それから……」
七三に分けにし、丁寧にセットされた黒髪、それに銀縁のスクエア眼鏡をかけている彼はいかにもお堅いサラリーマンといった風貌だ。しかし目もと涼やかなイケメンなのには違いなく、俺が密かに思いを寄せている女子社員が羽間課長狙いだと知って落ち込んだのはついこのあいだの話だ。まあ、無難なビジネスショートの髪をそれなりにセットした、どこにでもいる三十二歳のおっさんを若い子は普通、相手にしないだろう。
「それと悪いんですが、倉庫に付き合ってもらえますか。サンプルが届いたそうなんですが、一人で運べる量ではなくて……」
申し訳なさそうに彼が俺を見上げる。
「え、そんなの言ってくれれば俺らでやっておきますよ」
「いえ。頼んだのは私ですし、悪いです」
この人は年下とはいえ上司なんだし、雑用なんか俺らに命じておけばいいのに万事控えめで気を遣う。そういうところはクソがつくほど真面目だ。
「わかりました。じゃあ、行きましょうか」
「はい」
課長が椅子から立ち上がり、連れだって倉庫へと移動した。
「えっとサンプルは……ありました」
積まれたそれは確かに、台車を使っても一人で運べる量ではなかった。二台の台車にそれらをふたりで積む。まだ軽い運動でも汗ばむ季節。暑くてネクタイを緩めていた。いつも身なりを崩さない課長は平気なのかと思っていたが。
「……暑いですね」
さすがの彼も、ネクタイに手がかかっている。俺と同じくネクタイを緩め、課長がボタンを外す。露わになった鎖骨にそれを見つけ――つい、まじまじと見ていた。
「どうかしたんですか」
少し怪訝そうに課長が聞いてくる。
「えっ、あっ……なんでもない、です」
なぜかいけないものでも見た気がして、目を逸らす。課長のそこにはくっきりとキスマークがついていた。
……え? あの羽間課長だぞ?
戸惑いつつ残りの箱を乗せてしまう。課長と男だけ数人で飲みに行くことがあり、ときどき下ネタで盛り上がるときもある。けれど彼はそんなときでも興味がなさそうに真顔で酒を飲んでいたのだ。その課長の鎖骨にキスマークがついている。どうも、むっつりスケベだったらしい。しかし、見えるところよりも、肌を出すのは許さんとばかりに鎖骨につけられるのはエロいな。
「じゃあ、戻りましょうか」
シャツのボタンを外したまま、羽間課長は部署へ戻ろうとしている。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!」
それを慌てて止めた。こんなものを晒して歩いては、彼のイメージダウンに繋がる。いや、そのほうが憧れの女子社員が俺に振り向いてくれる確率が上がって万々歳だが。それでも課長のイメージが崩れるのはこう、アイドルの熱愛が発覚したときのようながっかり感が半端ないので避けたかった。しかし、女っ気のなさそうな課長にキスマークとか、これはもうアイドルの熱愛発覚と同じなのでは?
「なんですか?」
若干、不服そうに課長は踏み出しかけた足を止めた。
「見えてるんですよ、ここ。キスマークが」
彼の前に立ち、ボタンを留めてネクタイも締め直して隠してやる。俺の指摘で課長はみるみる赤くなっていった。
「えっ、あっ、その」
「はい、これで大丈夫です。戻りましょうか」
「……はい」
半ば慰めるように軽く背中を叩いたら、課長は俯き小さな声で返事をした。
……以下、続く