『神産み』【SFホラー】
『神産み』【SFホラー】
1.
その神社は祟ると有名だった。そんな非科学的なと高を括り、結界のように張られた縄を超えていった者たちは誰も戻ってきていない。
都市伝説的に、その神社へ踏み入ったある動画配信者の実況配信動画がヤバいという話がある。あれは本当にヤバい、絶対に観てはいけない。観たものにも祟りがおよぶ。しかし、実際にその動画を観たという者も、動画を観て死んだという者もいない。けれどそれは、まことしやかに囁かれていた。
鳥居の向こうに簡素な社があり、その奥に紙垂の下がった縄が張られている。その向こうが禁域となっていた。中心には塚があり、そこに神が祀られているという話だ。――〝話〟というのも、実際に見たものはいないから本当はどうなっているのか誰にもわからない。
社では年に一回、祭りがおこなわれる。〝祀り〟が正しいのかもしれない。出店が並んだり、神輿が担がれたりするわけでもない。地元の名士どころか国の偉い人までが参列し、粛々と神主によって神事がおこなわれる。それ以外でここに人が寄りつくなどなかった。七五三も初詣も、ない。神事がおこなわれるとき以外は基本、無人だった。時折、防護服のようなものを着た人間が縄を超えて禁域に入っていくという話もあるが、本当に見たという人もいないし、ただの噂だろう。
神社は周囲に高い木など日を遮るようなものはなにもないのに、日中でも薄暗く感じた。どことなく、不気味に感じるのは祟るという噂があるからだろうか。
本当にその神社が――というよりも正確には祀られている神、か? とにかく祟ると私が知ったのは、友人が行方不明になったからだ。友人は無謀にもひとり、禁域に入っていった。いや、入っていったと思われる。彼との共有クラウドのファイルに入っていた動画が、どうもそのときのものらしいのだ。けれど禁域の中がどうなっているかなど誰も知らず、別の場所だといわれればそうかもしれない。その動画には夜なのか真っ暗な中、廃墟の町のようなところを興奮して進んでいく友人が映っていた。そしてなにかに怯えたような表情を見せたあと、唐突に画像が途切れる。わざわざクラウドに送っているくらいだし、最初は友人が私を怖がらせたいだけなのだと思った。けれど会社の無断欠勤が続き、アパートにもいない。とうとう両親が捜索願いを出したが、いまだに見つかっていなかった。
それに。あの動画を観てからというもの、私はある行為に走りたくて走りたくて仕方なくなった。特にそうしたいという理由などない。もっといえば、したくなどない。しかしそれは強迫観念のように私を支配し、今にも実行させようとする。きっと私はこれを書き終われば恐怖に顔を歪めつつ、この気持ちから逃れられるのだと安堵の表情を浮かべ、それを実行するのだろう。
警告しておく。あの神社は確かに祟る。禁域には絶対に入ってはいけない。禁域内を映した動画も絶対に観てはいけない。できるなら、近づいてすらいけない。それしか、祟りから身を守る方法はないのだ。
2.
「嫌だ! 産みたくない、産みたくない……!」
手術台の上で男が吠える。激しく暴れるせいで頑丈な台はガタガタと音を立て、男を固定する革ベルトは今にも引き千切られそうだった。
「やめてくれ! 産みたくないんだ、こんな……バケモノ!」
男の声を無視し、そのぽってりと膨らんだ腹へとメスが突きつけられる。
「嫌だ、嫌だ、嫌だー!」
騒ぐ男とは反対に、術着姿の男女は淡々と帝王切開の手順を踏んでいった。まもなくして、赤子が姿を現す。執刀をしている男が赤子を腹から取り上げた次の瞬間。
「おぎゃーっ! おぎゃーっ! おぎゃーっ!」
勢いよく赤子がこの世への誕生を告げた。手術台に力なく横たわる男の目から涙が流れ落ちていく。それは歓喜なのか安堵なのか、それとも諦めなのか。
――史上最悪と名高い、〝神テロ〟がおこる六年と二百八十八日前のことだった。
……以下、続く。