『あまあま~スイートな恋物語~』
『あまあま~スイートな恋物語~』
『バームクーヘン~結婚披露宴には白ドレスで出席を~』より
「好きだ、結婚してくれ」
跪いて指環を差し出してくる彼にため息。こんな面倒なことになるなら、関係なんて持たなきゃよかった。後悔ばかりが思い浮かぶ。
彼とそういう関係になったのは、ただの弾みだったと言っていい。だってその日は、元彼と彼を寝取った、私の友人の結婚式だったんだから。
いけしゃあしゃあと彼女から招待され、嫌みで白のドレスで出席してやった。出席者の目は白いし、同じテーブルの人間は事情を知っているから私たちの席だけ完全に御通夜だし。ひたすら高い酒ばかり飲んでやる。
「あの……。申し訳ございませんが、よろしければこちらを……」
まだスープだって段階で、式場の人間からピンクの上着を差し出された。壇上から眦を限界以上につり上げた、角隠しでもきっと隠しきれない角を生やした花嫁がこっちを見ている。従う気はさらさらなかったし、さらに私には一番似合わないピンクで、鼻で笑ってやった。
「……!」
途端に同じテーブルの、友人たちに緊張が走る。
「……帰る」
立ち上がったら足下がふらついたが、かまわずに会場を出た。引き出物を押しつけられ嫌々受け取り、とりあえず会場のホテルのロビーで息をつく。
「どう、しよっかなー」
ハイピッチで飲んでいたせいで、かなり酔っている。こんなところで寝たらさらに笑いものにされるだけだってわかっているのに、瞼が重い。
「おい、ここは寝る場所じゃないぞ」
見かねた誰かが声をかけてくれた。
「そう、ですね……」
最後の気力で立ち上がる。が、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
「おい、おい!」
そこからしばらく、記憶がない。
気がついたらベッドの上だった。
「どこ、ここ……。いたっ」
ズキズキとあたまが痛む。最悪の結婚式で飲み過ぎて、途中で帰ってそれで……。ロビーのソファーに倒れ込んだあたりから記憶が途絶えている。そっと寝室を出たらリビングらしきところで、スーツの男がタブレットを睨んでいた。
「気がついたか?」
「えっと……ああ、はい。おかげさまで……」
立ち上がった彼は、コーヒーマシーンでコーヒーを淹れはじめた。男は背が高く、引き締まった身体にたぶんオーダーであろう仕立てのよさそうなスーツを身につけている。さらに七三分けにした長めの前髪を丁寧に後ろへ流しつけ、スクエアの銀縁眼鏡で顔面偏差値を爆上がりさせているが、こんな高級イケメンとはまったくもって面識がない。
「座ったらどうだ?」
「そ、そうですね」
勧められてソファーに座る。彼は淹れたコーヒーを私の前に置き、自分も座った。
「その……。面倒をおかけしました」
ロビーで酔い潰れていた私を介抱してくれたのはきっと、彼なのだろう。
「ああ、全くだ。あんなところで泥酔して寝るなど、正気の沙汰じゃない」
「はい……。すみません……」
いくら正気じゃなかったとしても、人に迷惑をかけるなど避けたい案件だ。
「しかし、そこまで酔うなど、なにか事情があったんじゃないのか」
彼の視線がちらっと、部屋の隅に置かれた引き出物の紙袋へ向かった。結婚式の招待客で常識外れの白ドレスなど着ていれば、なにかしらを感じるのだろう。
「その……えっと……」
こんなことを見ず知らずの誰かに話していいのか躊躇われる。けれど彼には、こんな状況になった原因を知る権利はあるわけで。
「よかったら僕が話を聞こう」
ゆったりと足を組み替え、彼が少し、前のめりになる。その真摯な姿勢に口が緩んだ。
「じゃあ……」
友人に彼氏を寝取られ、厚顔無恥にも結婚式に招待してきたので、白ドレスで出席した話を包み隠さず全部した。
「よくやったな。君を捨てた彼氏にも、君を裏切った友人にも、最大の反撃ができただろう」
思いもがけず褒められて、つい彼の顔を見ていた。けれど彼のどこにも、私を揶揄するところはない。
「そう、だったらいいなっ……」
唐突に、ぽろりと涙が落ちた。
「あれ……?」
……以下、続く。