食卓に置かれているバナナに見慣れない表示があった.さっそくネットで調べると,「高めの血圧を下げるGABAを含有するバナナ」を ドールが発売するという話題がニュースになっていた.バナナでは初の機能性表示食品とのことである.
株式会社ドールは11日,フィリピンや南米諸国で生産するバナナのうち9品目においてバナナとして初めて,血圧が高めの人の血圧を下げる機能があるGABA(gamma-aminobutyric acid, γ-アミノ酪酸)を含んだ機能性表示食品として届出が完了したので,“血圧が高めの方に”と訴求表示した商品を5月から順次店頭販売を開始するとのことである.
GABAは体内に吸収されると,血管を収縮させる作用を有するノルアドレナリンの分泌を抑え,血圧が上昇するのを抑制することが知られている,ドールが新規発売するバナナに含まれるGABAは,バナナに多く含まれるグルタミン酸(旨味成分)の一部がバナナの成長に伴い,脱炭酸してできる自然由来の成分である.
グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase; GAD)による酵素反応
血圧高めの人が,GABAを1日12.3mg程度摂取すると,血圧が下がることが知られている.ドールのバナナの可食部120g(1~3本)を食べると,1日当たりのGABAの摂取目安量の50%,およそ6.2mgを摂取できることになるとのことである.
血圧は加齢とともに高くなるが,若い世代でもストレスや食事の偏りなどで血圧が高くなる.血圧が高めの状態が続くと,血管の内側が傷つきやすくなり,動脈硬化を発症する恐れがある. また,昨年日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」が改訂され,成人の降圧目標は130/80mmHg未満に引下げられた.血圧高めの人は食事内容や生活習慣を見直すなど,早めの対策が必要であるとのことである.
ドールのバナナは通年で全国各地で販売されているため,食事や間食の際に手軽に取り入れやすく,おいしく続けることができるとしている.最近,ゲノム編集技術を駆使することによって,GABAの蓄積量を大幅にアップさせた「高GABAトマト」が開発されたというニュースを見たことがあるが,今回のバナナに関してはそのような類の商品ではないようである.
生鮮葉物野菜として,2018年に初めて機能性表示食品に認められたケールは100gあたりのGABA含有量は12.3mgであり,1日摂取量にあたる.比較のために,各種食品のGABA含有量(資料によって異なる場合がある)を以下に示した.
GABA含有量(㎎/100g)
キムチ 38~84 ,たくあん 39~95 ,奈良漬 58,しば漬 8~63,メロン 63.0~96.3,ワイン 6 ,ビール 5 ,野菜ジュース 56,茶葉 24~39,発芽玄米ご飯 5.2,白米 約1.5
野菜類 ミニトマト約35,ナス約32,ジャガイモ約28
きのこ類 乾燥ブナピー 580、ブナシメジ 340, マイタケ 230, エリンギ 300
漬物については,報文 野菜によるγ−アミノ酪酸の蓄積 - 愛媛県を見てほしい.
なお,「機能性表示食品」は,有効性,安全性などの科学的根拠を示して,国の審査のもとに消費者庁の許可を受けた「特定保健用食品(トクホ)」とは異なるものであることを付記しておきたい.
血圧が上がる原因は、心拍数が増加して心臓から送り出される血液の量が増えることや、血管の動脈硬化などで硬くなったり過度に収縮したりして、血液が流れにくくなることにあります。 GABAが体内で吸収されると、血管を収縮させるノルアドレナリンの分泌を抑え、血圧が高くなるのを抑制することが報告されています。
追記
■機能性表示食品について
事業者の責任において特定の保健の目的が期待できる旨を表示するものとして,消費者庁長官に届出されたものである.ただし,特定保健用食品と異なり,消費者庁長官による個別審査を受けたものではない.