熊本地震調査報告書

1月17日は阪神・淡路大震災から25年目の日ということで,テレビの画像は地震報道で一色であった.25年前の大震災をウィキペディアで調べると以下のように記述されている.

阪神・淡路大震災は,1995年(平成7年)1月17日に発生した兵庫県南部地震による大災害である.地震による揺れとして、地震後の気象庁の地震機動観測班による現地調査で阪神間(神戸市、芦屋市、西宮市、宝塚市)および淡路島の一部(津名町・北淡町・一宮町)に震度7の激震が適用された.

神戸海洋気象台および洲本測候所では震度6を観測し,地震機動観測班による現地調査で兵庫県南部の広い範囲に加え,大阪府でも大阪市西淀川区佃,豊中市庄本町,池田市住吉において震度6と判定される地域があった.

戦後に発生した地震では,1946年(昭和21年)の昭和南海地震や1948年(昭和23年)の福井地震を大きく上回り,当時の地震災害としては戦後最大規模の被害を出した.被害の特徴としては,都市の直下で起こった地震による災害であるということが挙げられる.日本での都市型震災としては、大都市を直撃した1944年(昭和19年)の昭和東南海地震以来となる.

福井地震を契機として新設された「震度7」が適用された初めての事例であり,実地検分(気象庁の地震機動観測班による現地調査)によって震度7が適用された最初の事例であった.しかし,現地調査後に震度7を発表したのでは対応が遅れるとの意見を踏まえ,この震災の翌年から震度7も計測震度によって速報可能な体制に変更された,これ以降に発生した,2004年の新潟県中越地震や2011年の東北地方太平洋沖地震東日本大震災),2016年の熊本地震,2018年の北海道胆振東部地震における震度7の観測は,震度計によって実測されたものである.

最も気になったのは,その経験を教訓としてその後の地震対策に生かされたかという点である.

建築基準法については以下のような記載がある.

建築基準法

最も重要な問題,すなわち古い住宅の耐震性がなくても違法とならない(既存不適格)問題は変更されなかった.さしあたり,1995年建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)を制定し耐震改修を促進した,また.消防庁では公共施設の耐震改修を指導している.しかし,「阪神・淡路大震災」の起こった兵庫県でさえ,公共施設の耐震化率は48.3%にとどまっている.東京78.1%(消防庁 2003、各都道府県耐震改修状況)に比べて耐震化は遅れている.特に,民間の会社施設・マンションにおいての耐震化率はきわめて低い.さらに,ほとんど犠牲者が出なかった公共施設の耐震化は進んでいるが,犠牲者の80%以上を出した民間の耐震性のない木造住宅の耐震補強はほとんどなされていない.

上記の事実を改めて知った上で,21年後の熊本地震に生かされているのかを調べてみた.熊本地震調査報告のひとつ,国土交通省 国土技術政策総合研究所,国立研究開発法人 建築研究所による「平成 28 年熊本地震建築物被害調査報告(速報)」(全370ページ)に手がかりがあった.

図 5.2-12 に,益城町中心部に於ける木造建築物の年代ごとの被害状況を示した.建築時期については,新耐震基準が施行された 1981 年 6 月と木 造の構造関係の基準が改正された 2000 年 6 月を分岐点として,以下の 3 つの建築年代に分類し,集計されている.

①:1981 年 5 月以前 ーーーーーーーーーー 倒壊・崩壊 28.2%

②:1981 年 6 月~2000 年 5 月 ーーーーーー 倒壊・崩壊 8.7%

③:2000 年 6 月以降 ーーーーーーーーーーー 倒壊・崩壊 2.2%

新耐震基準以前の木造の倒壊・崩壊は 28.2%,新耐震基準以降 2000 年改正以前の木造の倒壊・崩壊は 8.7%,2000 年改正以降の木造の倒壊・崩壊は 2.2%であった.

ここでは木造についての解析結果のみを示したが,報告書の表 5.2-2 には構造別・建築時期別の被害状況の集計結果が示されている,耐震基準の強化策は以下の通りである.

「1981 年 6 月施行の新耐震基準では,木造は必要壁量が増加し,2000 年 6 月の基準改正では,つり合い良い壁配置の方法,筋かい及び柱脚柱頭接合部 の緊結方法が明確化され,地耐力に応じて採用できる基礎の種類が規定されている,」

最終的には,専門家の判断を待つ必要があるが,耐震基準の強化策が効果を示したと言えそうである.熊本地震で被害の少なかった住宅メーカーが「耐震等級」を宣伝に使用している

熊本市は,震度7を記録した地震中心地の益城町から直線距離で7km位離れていて震度6強であった.筆者は熊本市役所から直線距離で1.59Kmの益城寄りの地域(新屋敷)に住んでいるが,周囲隣家の壁ひび割れ,屋根損壊,ブロック塀の倒壊などが起こった(近所の地震被害).三階屋上から見えるほとんどのビル(一部の解体予定ビルを除き)は,次々に足場が組まれ,地震から3年が経った最近ようやく一巡したようである.すべてを近くで確認したわけではないが,地震による外壁の補修であることは間違いない.

平成 28 年熊本地震建築物被害調査報告書には,豊富な写真を含めた大量の資料が掲載されている.PDFファイルとしてダウンロードできるようになっているので,ぜひ原報を見てほしい.

(2020.2.16)

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