第1憲法総論
1 憲法とは
⑴ 憲法とは
国家権力の行使に歯止めをかけることで、国民を守るためのものです。
※決して、国民に義務を押し付けることを主目的とするものではありません。
⑵ 憲法と法律の違い、関係
憲法は国家権力側を制限して国民の自由を守るであるのに対して、法律は国民の自由を制限するものです。
法律は、私たち国民に対して、ああしろ、こうしろと命令したり、禁止したり、私たちにルール付けをしています。たとえば、この場所ではタバコを吸ってはいけないだとか、ここでは吸ってもよいだとか、20歳になるまで吸ってはいけない、赤信号のときは止まらなくちゃいけない、というように私たちにルール付けをしているわけです。
法律によって私たちの権利や自由が守られる面もありますが、ある意味では私たちの管理や自由を制限するという側面があります。
しかし、国家がさまざまな法律を作って、国民の権利や自由を制限していくときに、国家がまったく好き勝手な法律を作って国民の権利や自由を制限してもいいということになると、私たちの権利や自由が不当に制限される危険性が出てきます。
たとえば、「私たちは正当な選挙によって選ばれた国民の代表である。立法権を担っている。したがって、いかなる法律を制定しようと自由であり、国民はそれを遵守しなければならない。それが法治国家というものだ。」という発言はどうでしょうか。
そこで、国家が好き勝手をしないように、国家権力の行使に歯止めをかけるものが憲法なのです。
⑶ 憲法を尊重し擁護する義務を負うのは誰か
これは、憲法99条に記載されています。
「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負う。」
憲法は国家権力側を制限して国民の自由を守るためのものですから、憲法尊重用語義務の主体に「国民」は入っていません。
2 憲法の特質
憲法の特質は3つあります。
⑴ 自由の基礎法
日本国憲法は自由の基礎法です。国家権力を制限し個人の自由を保障するということです。その個人の自由の根底には、個人の尊重、個人の尊厳という価値観があります。あくまで個人を守るために国家があり、社会があるということです。
⑵ 制限規範性
日本国憲法は、国家権力を制限する基礎法だということです。国家権力に歯止めをかけるのが憲法の役割です。
⑶ 最高法規制
憲法は最高法規だといわれています。国家秩序において、もっとも強い効力をもつということです。もっとも強い効力とは、たとえば、憲法の内容に矛盾する寧頁の法律があったとすると、法律が無効になる、すなわち、憲法を優先するということです。
「第98条この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」と記載されています。
3 国民主権の原理
⑴ 日本国憲法の原理
日本国憲法の基本原理は、国民主権、基本的人権、平和主義です。
もっとも、一番重要なのは個人の尊重だといわれています。一人ひとりの個人が尊重されて初めて平和が守られ、人権が尊重され、国民主権が達成されるので、3つの基本原理の根底には個人の尊重があるのです。
⑵ 立憲主義と民主主義の関係
立憲主義とは、憲法によって政治を行うという考え方です。それは自由を目指した政治といってよく、立憲主義は自由主義と置き換えてもいいです。
民主主義は、国民主権と似た言葉ですが、国民主権よりも広い概念で、自分たちのことは、(国王や天皇ではなく)自分たちで決めようという考え方です。
この立憲主義は民主主義とも密接に結びついています。すなわち、①国民が権力の支配から自由である(立憲主義)ためには、国民自らが能動的に統治に参加するという制度(民主主義)を必要としますし、②民主主義は、個人の尊重の原理を基礎とするので、すべての国民の自由と平等が確保されて初めて開花するといえます。
⑶ 国民主権
このような自由と結びついた民主主義を実現するために、日本の憲法は国民主権という体制を採ることにしました。天皇主権、君主主権ではなく国民主権というわけです。
国政の最高決定権を主権といい、主権が国民にあることを国民主権といいます。すわわち、国の政治のあり方を最終的に決定する力または権威が国民に存することを国民主権といいます。国政の最終決定を国王、君主、天皇ではなく国民がするというのが国民主権です。要するに、国民が主人公ということです。
このように国民が政治を最終的に決定するというのは、人権尊重、ひいては個人の尊重を守るためです。すわわち、個人の尊重が目的、国民主権が手段という関係にあります。
第2 基本的人権
1 基本的人権の原理
日本国憲法は、人間が生まれながらに有すると考えられる基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」、つまり法律によっても、さらに憲法改正によっても侵してはならない権利として、絶対的に保障する考え方を採っています。
基本的人権には、思想・良心の自由、信教の自由、表現の自由、学問の自由、職業選択の自由(→営業の自由)、居住・移転の自由、財産権などがあります。
2 基本的人権の限界
⑴ 人権と公共の福祉
いくら人権、といっても、それは「他人に迷惑をかけないかぎり」という一定の歯止めというものが必要となります。この歯止めのことを憲法は「公共の福祉」という言葉を使って表現しています。
「公共の福祉」というと「社会一般の利益」だとか「社会の秩序」だとか、それらのために個人の人権が制限される、というイメージを持つのではないかと思われますが、そうではないと考えます。
すなわち、ある個人の人権、ある人(あるいは法人)の人権を制限するのは、他の個人の人権でしかありえない、と考えます。
たとえば、「報道の自由」という人権があり、マスコミは、テレビでいろんなニュース報道をすることができます。さまざまな報道をすることは憲法21条で、「報道の自由」として保障されると解釈されています。
しかし、やはりテレビの報道も「他人に迷惑をかけないかぎり」ということになりますから、芸能人とか、また一般の人たちのプライバシーだとか名誉だとかを侵害するような報道は許されません。
そうすると、その名誉権を侵害しないような範囲で、「報道の自由」が保証されていることになります。すなわち、「報道の自由」は一定の限度で制限を受けていることになります。
では、「報道の自由」を制限したものは何だったのでしょうか?
それは、「社会の公共の利益」ではなく、別の人の名誉権だとかプライバシーだとか、簡単に言えば、別の個人の人権が「報道の自由」を制限したと考えます。
なぜか?
個人の利益が最高だというのであれば、「社会」や「国家の利益」ではなく、個人の利益と対応な個人の利益でないといけないはずです。個人の利益を離れて、社会の利益だとか国家の利益だとか、そういう抽象的なもので個人の利益を制限するのはよくないということです。
第3 統治機構
1 権力分立
権力分立とは、国家作用を立法・行政・司法に区別し、それを異なる機関に担当させるように分離し、相互の「抑制と均衡」を保たせる制度です。
「抑制と均衡」はチェックアンドバランスともいいます。
これは、自由主義のあらわれであり、このねらいは、国民の権利・自由を守ることにあります。
権力というものが、どんどん大きくなっていってしまうのは好ましくないという発想です。
たとえば、国会が大きくなりそうになったときに、裁判所と行政がそれに歯止めをかける。
行政つまり内閣が大きくなろうとしたときに国会や裁判所が抑制均衡、チェックアンドバランスで歯止めをかける。
裁判所が何か変なことをやりそうになったら、国会と内閣が歯止めをかける。
そうすることによって、国家権力がお互いに抑制しあって小さくする方向にいくというのが、権力分立の目的です。
2 国会
国会は国民の代表機関です。
全国民の代表機関であるがゆえに、国権の最高機関であり、唯一の立法機関とされています。
全国民の代表機関というのは、全国民に最も近いところに位置するということです。全国民とは主権者である国民のことです。主権者である国民に一番近いところに位置する代表機関であるがゆえに、最高機関であり、唯一の立法機関であると考えられています。
例えば、国民が直接選挙をして、衆議院議員、参議院議員を決めますが、内閣総理大臣や裁判官を直接選ぶことはできません。内閣総理大臣は国会議員の中から国会で選ばれます。裁判官は、内閣が任命することになっています。
つまり、国民が、国会議員を選び、国会議員が内閣を選び、内閣が裁判官を選ぶというように、裁判所は国民から一番遠いところにいるのです。
なぜ裁判所が一番遠いところにいるのか。皆さん、それぞれ考えてみてください。わざと遠いところに置いているのです。
3 内閣
内閣は行政権を行使しますが、その行政作用というのは、すべての国家作用の中から、立法作用と司法作用を除いた残りの作用であると解されています。消極的な定義になってしまいますが、それほど権限が広い範囲に及ぶということです。
4 裁判所
裁判所は司法権を行使します。
日本国憲法においては、司法権の独立が著しく強化されています。
なぜか。①司法権は非政治的権力であり、政治性の強い立法権・行政権から侵害される危険性が大きいこと、②司法権は、裁判を通じて国民の権利を保護することを職責としているので、政治権力の干渉を排除し、特に少数者の保護を図ることが必要であること、などがあげられます。
第4 平和主義の原理
平和主義は、国民主権、基本的人権、平和主義という日本国憲法の三原則のひとつです。
日本国憲法は、侵略戦争を含めた一切の戦争を放棄するとしています。これは自衛戦争も含めて一切の戦争と武力の行使及び武力による威嚇を放棄したということです。つまり、日本の憲法は武力によって自分の国の意思を通そうということは一切放棄しています。
以 上