2024年にLithuania Mathematical Journal から出版された論文「Notes on Universality in Short Intervals and Exponential Shifts」の著者は9人おり, その中に私, 中井啓太もいる. この論文がarXivに投稿された時期周辺に 「なぜあの論文はそんな数の共著なのだ.」という趣旨の質問を度々受けることがあった. なので, ここにその経緯, 私が共著者の1人になった経緯などの顛末を記載しておく. といっても, この論文のintroductionを見ると, この論文の発端ぐらいは分かる.
ただ, まだ書こうと思い立っただけなので, 現時点では全て一気に書くつもりはないし, ゆるゆると書いていくつもりである.
事の発端は2023年の8月にフランスのCIRMで開催された研究集会「Universality, Zeta-Functions, and Chaotic Operators」にまで遡る. この研究集会はタイトルの通り, UniversalityやChaos理論に関する集会である. この集会の組織委員に松本先生がおり, その伝手で私にも声がかかり, この研究集会に参加することが出来た. この研究集会の開会式において, ビデオメッセージにてLaurincikas先生が挨拶をしており, 2つの問題を提唱したのである. その問題というのが, Short intervalでのuniversalityについてと, shiftを変えたuniversalityについてである. 余談であるが, 日本から向かうメンバーは予定を合わせて同じ飛行機で集会に向かった. CIRMに到着したのはフランス時間で8月6日の昼過ぎであり, 集会自体は8月7日からなので少し余裕があった. そこで, 何人かでCIRMの近くの山に行こうという話になり, そこに同行したのだが, 予想以上の暑さや体力不足も祟り, 私自身かなり疲労困憊となり, 集会開始日である8月7日まで尾を引いていた. なので, 実はこの開会式はだいぶ上の空で聞いており, Laurincikas先生が提唱した問題も, shiftについての問題しか記憶に残っていないし, 何なら数式だけ覚えているので, Laurincikas先生が何と言ってその数式を書いたか一切覚えていない.
ともかく, Laurincikas先生の問題は2つあり, その内1つはuniversalityのshiftに関するものであった. この問題を見たとき, 漠然とRiemannゼータ関数の2乗平均値で困難さが生じるのではないかと考えていた. その考えは正しく, 実際, 他の参加者たちがcoffee breakの時に, この問題に関するRiemannゼータ関数の2乗平均値について議論していた. 普遍性定理の証明では, ある種のゼータ関数の2乗平均値を用いることが主流である. しかしながら, 修論において2乗平均値を用いずに普遍性定理を証明していたので, この手法を用いればLaurincikas先生のshiftに関する問題は解決できるだろうなと集会中に漠然と考えていた.
前々から考えていた問題に行き詰っていたため, 集会が終わり日本に帰ってきたとき後に, 早速この問題に取り掛かってみた. 考えてみると存外簡単であり, 1ヶ月ぐらいでこの問題についての解を与え, さらにもう少し一般的な結果も得ることができた. 存外簡単と書いたが, だいぶ強い仮定をしていたことには注意したい. とにかく, Laurincikasの問題の1つを解決したため, 早速, この集会の組織委員でもあったSteuding先生やGarunkstis先生にこの結果を送ってみた. Steuding先生からの返信は早く, 意訳すると「実は私たちもLaurincikasの問題に取り組んでいるから, メンバーに入りませんか?」ということであった. つづく.