Speaker: 渡辺涼太(京大理物)

Date: 10月31日(火)16時から

Place: 5号館413号室

Title:量子力学におけるKrylov複雑性とカオス

Abstratct:

近年、量子系の複雑性とカオス性の指標としてKrylov(クリロフ)複雑性が提案され、注目を集めている。Krylov複雑性は量子系の演算子および状態に対して定義され、Lanczos係数と呼ばれる実数によって振る舞いが決定される。我々は古典カオス系を量子化して得られる量子力学系の典型例としてスタジアム型ビリヤードを考察し、演算子と状態に対するKrylov複雑性を数値的に評価した。スタジアムビリヤード系においてはビリヤードの形状を変えることでカオスと非カオスの間の転移を調べることができる。我々は特にLanczos係数に注目し、これを系の古典的なLyapunov指数と、量子的なエネルギー準位間隔の統計分布との間で比較した。その結果、これら3つの量の間に優位な相関が確認された。このことはLanczos係数の分散が量子カオスの指標となりうることを示している。同様の結果はSinaiビリヤード系においても確認され、より一般の量子力学系においても普遍的に成立することを示唆する。本講演は橋本幸士氏、村田佳樹氏、棚橋典大氏との共同研究 [arXiv:2305.16669] に基づく。