[講演者] : 作道直幸(お茶大物理)

[日時]4月23日、16:30ー

[場所]:物理学科会議室

[タイトル]:「ゴムの亀裂進展速度ジャンプ: 可解模型による理解」

[アブストラクト]:

横長のゴムシートの上下(長い辺)を治具に固定し、上下方向にひずみεを与えてから、左端中央に初期亀裂を与えると亀裂が右に進展する。このとき、少し待った後の亀裂進展の定常速度Vを測定する。ひずみεと速度Vの関係を調べると、ひずみεがある臨界値を越えるときに、その近傍で数千倍の速度Vの急激な上昇が観測される。この「速度ジャンプ」は物理現象として面白いだけでは無く、その理解は工業的な応用面からも重要である。何故なら、速度ジャンプが起こるときの破壊エネルギーの値Γcを大きくすることは、ゴム材料のタフ化につながるためである。速度ジャンプは60年以上前から実験的に報告されている[1-4]にも関わらず、その生じるメカニズムは明らかにされておらず、Γcを大きくする方法は現状では経験則に頼らざるを得ない。

我々は、速度ジャンプが起こる物理的なメカニズムを明らかにするために、ゴムの亀裂進展の本質を抽出したミニマル模型を構成した [5]。この模型は解析的に解くことができる。ゴムには「ガラス化」と呼ばれる、早くひっぱると硬くなる性質がある。このガラス化の効果を含まない粘弾性模型の解析解は速度ジャンプは示さず、ガラス化の効果を含む、より一般的な粘弾性模型の解析解は速度ジャンプを起こすことを証明した。この解析解を元にして、速度ジャンプの起源が亀裂先端のガラス化であることを示した。また、Gc を求めることでタフなゴム材料開発への指針を与えた。

参考文献:

[1] H. W. Greensmith, J. Polym. Sci. 21, 175 (1956).

[2] A. Kadir and A. G. Thomas, Rubber Chem. Technol. 54, 15 (1981).

[3] K. Tsunoda, et al., J. Mater. Sci. 35, 5187 (2000).

[4] Y. Morishita, et al., Phys. Rev. E 93, 043001 (2016); Polymer 108, 230-241 (2017).

[5] N. Sakumichi and K. Okumura, Scientific Reports 7, 8065 (2017).