[講演者] : 金子 和哉氏

[日時] 5月14日 15:30-

[場所] 未定

[タイトル]:弱い形の固有状態熱化仮説(ETH)の証明

[アブストラクト] :

「可逆なミクロの力学から、如何にして不可逆な熱力学が創発するのか」という基礎的な問題は、統計力学において古くから議論されてきた。近年、冷却原子などの実験系で理想的な孤立量子系が実現されるようになり、この問題が再び注目を集めている。そして理論と実験の両面から、量子純粋状態でさえも、可逆なユニタリ時間発展で熱平衡状態へ緩和することが明らかになった。

この孤立量子系の熱平衡化の機構として有力視されているのが、「量子多体系の全てのエネルギー固有状態が熱平衡を表す」という固有状態熱化仮説(ETH:Eigenstate Thermalization Hypothesis)である。この強い形のETHは多くの非可積分系で成立することが数値計算により確認されている。しかし強い形のETHを数学的に証明するというのは非常に困難だ。

我々は、ETHの主張を弱めた「量子多体系のほとんど全てのエネルギー固有状態が熱平衡を表す」という弱い形のETHを、一般の並進対称な量子多体系で証明した。強い形のETHとは異なり、弱い形のETHでは非熱的なエネルギー固有状態の存在は否定されない。しかし非熱的なエネルギー固有状態の数は熱的なエネルギー固有状態の数と比較すると圧倒的に少なく、非熱的なエネルギー固有状態の割合は熱力学極限でゼロになるというのが弱い形のETHである。セミナーでは熱平衡化についてのレビューの後に、我々の弱い形のETHの証明の詳細について説明を行う。

E. Iyoda, K. Kaneko, and T. Sagawa, Phys. Rev. Lett. 119, 100601 (2017).