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※このページは分野の大まかなイメージを掴んで頂くことを目標にしています。このページはまだ作成途中ですが、公開している部分において説明がmisleadingであったり、不正確である箇所についてはご教示頂けると幸いです。正確・詳細な情報は論文リストリンク先で確認できます。説明なく専門用語が出てくる箇所が多々ありますが、読み飛ばして頂いてもおおよそこの目標を達成できるよう努めております。
原始宇宙磁場と原始重力波についての研究
【共同研究者: 論文リスト [7, 10, 11] の共著者の皆さん(大変お世話になりました)。】
(注:ここでは、過度に正確さに拘らず、研究テーマの概要をご紹介します。)
大まかな説明:
地上や星の周囲、そして銀河間など、宇宙には様々なスケールの磁場が存在することが観測から示唆されています(観測のレビュー論文としてはTanmayが有名)。中でも、銀河間に存在する巨大なコヒーレンス長(磁場が一定と見做せる代表的なスケール)の磁場の存在が観測から示唆されており、その生成機構が頻繁によくされています。磁場のコヒーレンス長は磁場を発する物質のスケールにおおよそ比例するため、コヒーレンス長が銀河スケール以上の磁場はインフレーション由来ではないかという説があります。現在の背景磁場がインフレーション期から存在していたと仮定すると、原始重力波を考える上で磁場は大変重要な意味を持つことになり得ます。例えば、もしインフレーション期に強い背景磁場があったとすると、Gertsenstein効果(磁場を介した相互作用によって重力派が電磁波になったり、電磁波が重力波になる現象)を通して背景磁場が原始重力波のスペクトラムを変化させて、背景重力派に乗る情報として現在まで残されているかもしれません。このような状況を想定すると、重力波のスペクトラムや量子状態がどのように変化するかを検討しています。
少し詳細な説明:
論文リスト[7,10,11]に掲載している論文では、インフレーション期のベクトル場と重力波(テンソル成分)の自由度を同時に解くことで、どのように原始重力波のスペクトラムや量子性(スクイーズ変数など)に背景磁場の影響が現れるかを調べました。特に博論では、ゲージ場のkinetic関数を変化させた2つの場合において、インフレーション期に生成されるgravitonの状態がどのように変化するかを比較を行いました(後半のモデルのkinetic関数として一部否定されているRatraモデルを用いましたが(強結合を回避するシナリオがあれば)、量子状態に焦点を当てた一つのケーススタディとしては有益だと考えています)。結果としては、kinetic関数による、インフレーション期の急激な宇宙膨張に伴う粒子生成に対応する重力波(graviton)のスクイーズ変数の変化は殆ど見られない(漸近的には同じ)ものの、gravitonとphotonの間の量子相関には大きな違いが見られました。これは、インフレーション期に生成されるphotonとgravitonの量が対称になっているかどうかが関わっているのではないかと考えています。例えば、gravitonのみが生成され、gravitonとphotonが背景磁場を介して相互作用する系で、gravitonとphotonの量子相関を表す量(Entanglement Entropyなど)を計算してみると、gravitonもphotonも同じように生成される系の場合と比べて非常に小さい値しか得られませんでした。これは、異なる要素のペアを作るときに、要素の数の非対称性が少ないほうがより多くのペアを作れることに似ています。
このように、宇宙膨張により生成された粒子がどのような量子相関を持つかを考える上では、ゲージ場のkinetic関数の時間依存性を調べてみるのは大変面白いですが、現実的な観測量との関連にのみ焦点を当てて議論するならば、量子性よりも重力波のスペクトラムを評価する方が建設的だという見方もあります。今後は宇宙磁場だけでなく、より広く磁場の関わる現象に対象を広げて、磁場と重力波との関連を研究したいと思います。
回転BH周りの安定性の解析
【共同研究者: 論文リスト [3,6,8] の共著者の皆さん(大変お世話になりました)。】
大まかな説明:編集中です。しばらくお待ちください。
この段落のタイトルで量子的安定性という言葉で表現しているのは、真空崩壊現象に付随する真空状態の寿命のことです。真空崩壊は、場の理論バージョンのトンネル効果のようなものです。トンネル効果は、古典力学的には乗り越えられないポテンシャル障壁を、量子力学で記述される波動関数としての粒子は透過する現象です。同じように量子場のポテンシャルを考えた時に、真空状態(ある種のエネルギー基底状態)が局所的(local)であるか、大域的(global)であるかが重要となります。真空状態はポテンシャル障壁に囲まれたような状態なので、ポテンシャル障壁の外側にもっとエネルギーの低い安定な状態があれば、トンネル効果でそちらの状態に遷移する可能性があります。この過程を真空崩壊と呼んでいます。この過程の最初の真空を偽真空(false vacuum)、遷移後の真空を真真空(true vacuum)と呼んだりします。また、遷移が起きている領域と起きていない領域の境界は泡(bubble)などと呼ばれます。ブラックホールがある時空では、この泡の発生確率が変わるので、近年その関係がよく議論されています。
一方でブラックホールが回転している場合で、回転が極端に強い場合などを考えると、ブラックホール周りの摂動が成長していく場合があります。このような成長を放置していくと、際限なく成長してしまうので、このような場合も不安定だと表現します。この研究では、共同研究者と共にどちらの不安定性の方がより重要なのかを調査しました。
少し詳細な説明:編集中です。しばらくお待ちください。
この共同研究では、負の曲率をもつ5次元時空(1+4)の特に回転している時空( 5次元Kerr-AdS 時空)上のスカラー場について、上記の二つの場合の不安定性を調べました。敢えて4次元ではなく5次元のシナリオで考えると面白いのは、上の転移が起きている場所とそうでない場所の境界(バブル)を厚みの無視できるものと考えると(薄殻近似)、その殻の様子が4次元時空になるという点です。4次元時空は時間1次元+空間3次元なので、私たちが普段認識しているような時空です。そうすると、パラメータによっては初期宇宙の膨張の様子に似ている殻が現れる条件なども求めることができます(必ずそのような結果が得られるかは分かりませんが)。その条件の中に回転パラメータがどのように関わっているか、と言うのがこの共同研究のモチベーションの一つでした。すぐにこれが我々の宇宙創世のシナリオと直結するわけではありませんが、より高次元の時空から宇宙が創発するようなシナリオが描ければ、非常に興味深いと考えています。
古典的な安定性については、5 次元 Kerr-AdS 時空中のスカラー場の方程式の解をブラックホールのホライズン(outer horizon)と AdS境界上の境界条件の下で数値的に解いて議論を行いました。この条件は、ホライズンの周りではブラックホールに向かって落ちていく解のみ、AdS時空の端では解が収束している、と言うイメージです。寺の鐘の音がいつも決まっているように、ブラックホール周りの場の方程式の解も、境界条件やブラックホールのパラメータによって決まったもの(固有振動)が出てきます。同じような状況は地面振動でも見られるため、ブラックホールの固有振動を解析する研究全体はブラックホール地震学(Black hole seismology)などと表現されます。
Unruh効果に関連する理論の解析
【共同研究者: 論文リスト[1,2,4,5] の共著者の皆さん(大変お世話になりました)。】
(注:ここでは、正確さに拘らず研究テーマについてのイメージを紹介しています。)
大まかな説明:編集中です。しばらくお待ちください。
Unruh効果とは、加速運動する観測者は静止系の「真空状態」を熱的な「励起状態」として捉える、という理論予言です。曲がった時空上の場の量子論という分野で予言されている現象で、一般相対論の等価原理の発想で観測者の加速度を重力に置き換えて考えるとHawking放射に相当する現象です。場の量子論では、「場」のラグランジアンから変分原理を用いて得られる基礎方程式(Dirac方程式やKlein Gordon方程式など)により時間発展を記述しますが、場の方程式には時間微分や空間微分が含まれています。重力や加速度で時間や空間が伸び縮みしていると、方程式の形が変わるので、当然得られる解も変わります。直感的には、三角定規に力を加えて形を歪めると、三平方の定理は成り立たない(修正される)ようなイメージで、重力があると時間・空間座標上の距離が変わるので、時間や空間の微分を含む形の方程式は修正されます。Unruh効果は、一つの状態に対して、静止系(時空が伸び縮みしていない観測者)から観測した場合と、加速度系(加速度により時空が伸び縮みしている観測者)からみた場合とで異なる、ということに由来しています。(Unruh効果のレビュー論文として、A. Higuchi et al.(2008), が有名です。arXivでのプレプリントも勉強になります。)
少し詳細な説明:編集中です。しばらくお待ちください。
学部と修士に在学中に参加した研究では、加速運動する粒子からの放射について解析的なアプローチをしました(少しややこしいですが、「Unruh放射」は加速運動する粒子からの熱的放射を意味するので、真空状態そのものに関する「Unruh効果」と若干言葉の意味するところが違う点にご注意ください)。加速する観測者が「熱的状態」として静止系の場の基底状態(静止系の真空状態)を観測するのならば、加速する粒子は熱浴に浸された状態にあり、熱浴に浸された粒子は当然熱的放射を発するだろう、というのがUnruh放射のイメージですが、この放射が本当に起こるのかどうか、という点が議論されていました。というのも、2次元(時間1次元+空間1次元)の場合に放射(flux)を計算すると、どうも局所的な放射を示す項はキャンセルされるらしいという論文(B. L. Hu et al)があったからです。これは直感的には、観測者によって温度(とその帰結としての物理現象)が異なるのは許されるのか?という素朴な疑問に相当します。しかし後に4次元の計算ではどうやら放射が残っている、ということが示されました(S.-Y. Lin, B. L. Hu, Phys. Rev. D 73, 124018 (2006)、S.-Y. Lin, B. L. Hu, Found. Phys. 37 480 (2007))。さらに時間をおいて、この放射には場の量子相関が関わっているらしい、ということが示され、ますます不思議な現象になりました。そこで論文リスト1,2の研究では、加速粒子として調和振動子を用いた模型(Unruh-Dewitt detectorと言われる)を用いて、場の相関や局所的・熱的「以外」の放射を調べました。5の研究ではdetectorをおいていないものの、Rindler領域とKasner領域(時空図の上下左右)におけるDirac方程式の解の対応関係を解析的に調べました(Dirac場にすると、スピン演算子の修正も必要になるので、スカラー場の時よりも解析計算がややこしいところがあります)。Dirac場の解析の応用はまだまだありそうなので、アイデアをお持ちの方はぜひ議論してみて下さい。
※ここではRindler時空やKasner時空の説明を省いていますが、とても大雑把な説明をすると、空間座標と加速度に付随して時空間の距離が膨らむのがRindler時空で、その時・空を反転させたものがKasner時空だと思って下さい。Minkowski時空図の上でRindler・Kasner時空は左右・上下を覆います。