子 ど も の た め の 基 準 を 守 り 、
安 心 し て 生 活 で き る 学 童 保 育 を 増 や そ う!
子 ど も の た め の 基 準 を 守 り 、
安 心 し て 生 活 で き る 学 童 保 育 を 増 や そ う!
増 え 続 け る 留 守 家 庭 児 童 数 に 、川 崎 市 の 施 策 が 追 い 付 い て い ま せ ん 。
民間学童の活用を含めた新たな施策が求められています 。
概要と実行委員会について
共働き家庭等の小学校に通学している児童に、放課後等の適切な遊びや『生活の場』を提供する安全・安心な居場所が、放課後児童クラブ(学童)です。そこは主に小学校の余裕教室や児童館などで運営されています。
川崎市でも学童保育を必要とする家庭は年々増加しており、小学生が放課後に安全に安心して過ごせる『生活の場』である学童保育を求める保護者の声はますます高まっています。
学童保育の拡充は、市の施策のなかでも重要な課題です。
川崎市では2003年度から、それまで単独事業として行われていた学童保育は、全児童を対象とした「わくわくプラザ事業」に統合され、一体として実施されています。
しかしながら、「わくわくプラザ事業」は基準条例施行以前の制度設計であるため、現状を把握するための調査やそれに沿った制度の見直しが必要と考えています。
「わくわくプラザ事業」では本来の学童保育の役割を十分に果たせないことから、保護者と支援員により自主運営の民間学童保育(自主学童)が設立され、子ども達の健全な育成に大きく貢献してきました。
しかし、条例に基づいて運営されているものの、川崎市では補助金が交付されないため、保護者の金銭的負担は大きく、また自主学童を献身的に支える支援員の待遇改善も進みません。
これらの課題解決に必要な予算措置や制度改革などの対応を市に求めるため、川崎市の宮前区自主学童保育が中心となりこの実行委員会を立ち上げました。
共働き世帯の増加と、待機児童問題
女性就業率の上昇等により共働き世帯は増加しており、1990年代からは共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、2022年には1262万世帯になりました。(下グラフ:独立政策法人 労働政策研究・研修機構HP 統計情報 図12「専業主婦世帯と共働き世帯」より)
また、それに伴い共働き等の児童数が増えており、今後も更なる増加が見込まれています。
厚生労働省の発表によると、2022年(令和4年)の全国学童保育の登録児童数は145万人(前年より約6万人増)を超え、過去最高人数を更新しました。
この社会背景の裏側では、「保育園落ちた日本死ね!!!」と題した匿名のブログで話題になった、保育園の待機児童の問題があります。
また同様に、小学校世代においては「小1の壁」という問題が起こっています。
「小1の壁」とは、共働き家庭やひとり親家庭において、子どもが小学校に入学した際、親の退社時間まで子どもの居場所がなくなってしまうために起こる、親が直面する問題です。
保育園では18~19時まで預かってもらえていましたが、小学校では15時頃には下校になるので、その間は公営や民間の学童クラブに預かってもらいます。
しかし、上記した学童保育の児童数に対して施設数が足りず、待機状態になる家庭も存在します。家庭と仕事の両立が難しくなり、子育てをする家庭にとっては深刻な問題が起こっています。
下表は学童クラブの登録数と利用できなかった児童数(待機児童)の推移を示しています。
国の「放課後子ども総合プラン」と、市の「わくわくプラザ事業」について
本項では、前項の社会背景に対応するために施行されている、国や川崎市の施策を整理して説明します。
●国の施策
<放課後子ども総合プラン>
2007年、文部科学省及び厚生労働省(現在は子ども家庭庁に移管)は、「放課後子どもプラン」を発表しました。この「放課後子どもプラン」では国として明確な目標値を定めておらず、また、一体型の定義を示していませんでした。
そこで2014年、新たに「放課後子ども総合プラン」を発表し、2018年までの数値目標を示しました。
次いで、2018年に「新・放課後子ども総合プラン」として、2023年までを見据えた目標をたてて新たに発信されています。
これら「放課後子ども総合プラン」とは、共働き家庭等の「小1の壁」を打破するとともに、次代を担う人材を育成するため、全ての児童が放課後等を安全・安心に過ごし、多様な体験・活動を行うことができるよう、厚生労働省の「放課後児童健全育成事業(学童クラブ)」と文部科学省の「放課後子ども教室」を一体的あるいは連携して実施するという総合的な放課後対策事業のことです。
この中で、一体型の放課後児童クラブ及び放課後子ども教室の考え方として以下の様に示されています。
一体型の放課後児童クラブ及び放課後子ども教室とはすべての児童の安全・安心な居場所を確保するため、同一の小学校内等で両事業を実施し、共働き家庭等の児童を含めたすべての児童が放課後子ども教室の活動プログラムに参加できるものを言う。
~ (中略) ~
また、一体型として実施する場合でも、放課後児童クラブ(学童保育)の児童の生活の場としての機能を十分担保することが重要であり、児童福祉法第34条の8の2第1項の規定により、市町村が条例で定める基準を満たす必要がある。
― 「新・放課後子ども総合プラン」より抜粋 -
新・放課後子ども総合プランには、子ども家庭庁(2023年4月より厚生労働省から移管)管轄の放課後児童健全育成事業と、文部科学省管轄の放課後子ども教室推進事業の2つの主な事業があり、各省がそれぞれの事業を行っています。
<放課後児童健全育成事業(子ども家庭庁管轄)>
児童福祉法第6条の3第2項の規定に基づき、保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学している児童に対し、授業の終了後等に小学校の余裕教室や児童館等を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るものです。
<放課後子ども教室推進事業(文部科学省管轄)>
放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用し、子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所)を設け,地域の方々の参画を得て、学習活動やスポーツ・文化芸術活動,地域住民との交流活動等の取組を実施することにより、子どもたちの社会性・自主性・創造性等の豊かな人間性を涵養するとともに、地域の子どもたちと大人の積極的な参画・交流による地域コミュニティーの充実を図る事業です。
一見すると同じような事業にも映るかもしれませんが、それぞれの事業の目的は分かれており、その運営には明確な基準が設けられています。(こちらのプロジェクトに関わる「放課後児童健全育成事業」の運営基準については次項に掲載します。)
●川崎市の施策
川崎市は、2003年3月まで共働き等家庭に対して「留守家庭児事業」(※)を行っていましたが、2003年4月より全児童を対象とした「わくわくプラザ事業」を全小学校で開始しました。
2014年の厚生労働省令に基づき、「川崎市放課後児童健全育成事業の設備及び運営の基準に関する条例」が施行された2015年4月1日以降も、放課後健全育成事業を包含する事業として大きな制度改革をすることなく運営され、現在に至ります。
※留守家庭児事業
子ども文化センター内のクラブ室及び小学校敷地内等に設置された留守家庭児ホール等において、保護者が就労等により昼間家庭にいない児童に対して、適切な遊び及び生活の場を与えて、健全な育成を図る事業。
わくわくプラザ事業の開始に伴い廃止。(公営、委託を含め訳115カ所)
<わくわくプラザ事業>
わくわくプラザは市内114か所全ての小学校の敷地内に設置されており、放課後・土曜・長期休業日など、利用を希望する小学1年生から小学6年生までが、わくわくプラザ室を中心に、遊びを通じて仲間づくりを図ります。 児童の遊びや生活の場を確保し、様々な文化・スポーツ活動などを通して、異なった年齢層の仲間づくりを支援する事業です。
<子育て支援・わくわくプラザ事業>
わくわくプラザ事業に付随しており、保護者の就労等によって午後6時までにお迎えが難しい児童の、わくわくプラザが終わったあとの居場所と安全を確保する事業です。
学童保育の量と質について
川崎市は2003年より、それまで単独事業として行われていた「留守家庭児事業」を廃止し、全児童を対象とした「わくわくプラザ事業」を実施しました。
前項でも記載した通り、「わくわくプラザ事業」は「放課後子ども教室事業」と「放課後児童健全育成事業」を包含する事業としています。しかし、その制度設計は基準条例施行以前のままであるため、増え続けるニーズに対して川崎市の施策は追いつかない状況が生じています。
本会では、その現行制度の課題を「量」と「質」に分けて取り上げます。
また、その課題に入る前に<学童保育の基準><生活の場としての機能><専用区画の必要性>について説明します。
●基準等について
<学童保育の質を守るための基準>
「放課後児童健全育成事業」において、学童保育の設備及び運営の基準を下記の通り定めています。(一部抜粋)
<生活の場としての機能>
放課後児童クラブは子どもが放課後の時間を過ごす場であるため、休息やおやつ・食事等の基本的な生活を保障する機能を備えながら、安全に安心して疲労の回復や気分の転換ができるくつろぎの場であることが必要です。そのため、ゆったりと過ごせる空間を用意するなど、一般の住まいに備えることが求められる機能をある程度満たす必要があります。
したがって、放課後児童クラブの施設には、「生活の場」として、衛生及び安全が確保された手洗い場、台所施設、トイレ等のほかに、おやつや食事、自主的な学習活動が落ち着いてできるスペースや設備、子どもが団らんや休息等ゆったりとくつろげるスペース、体調が悪い時等に静養できるスペース等を確保することが求められます。また、生活の場として子ども一人ひとりの専用ロッカーや下駄箱を設置するなどの配慮や工夫も望まれます。
<専用区画の必要性>
放課後児童クラブが「遊び等の活動拠点」や「生活の場」としての機能を持つためには、その施設空間は、子どもの生活の連続性を保障するとともに、子どもにとって「他人が断りなく出入りすることのない、安全と安心が保障された空間」として成り立つようにしなければなりません。すなわち、仕切りや境界がある独立した空間で、生活に必要な営みができる機能が備わったつくりであることが求められます。
そのため、基準条例の第9条第1項では、「遊び及び生活の場としての機能並びに静養するための機能を備えた区画(以下この条において「専用区画」という。)を設ける。」とされています。その「専用区画」の面積は、子ども一人につきおおむね1.65㎡以上とされています。(厚生労働省編、放課後児童クラブ運営指針より)
●量の課題
共働き家庭の増加に伴い「わくわくプラザ」の定期利用登録人数は年々増加しています。例えば2021年度では、川崎市の利用登録者数計画9,136人に対して、定期利用登録人数が12,342人と大幅に超えていました。一方で「わくわくプラザ」の施設数は114か所と変わりません。
同施設数で利用者増加に対応するため、一部の地域で「わくわくプラザ」の大規模化が進んでいます。120人を超える大規模校が8校確認されました(下図:川崎市の大規模わくわくプラザ)。このような大規模校では、指導員の目の行き届く範囲で安心して生活できる専用区画を確保することが出来ているのかが疑問です。
当会にて、「わくわくプラザ」で各設置基準を満たした運営がされているか調査しました。114カ所のわくわくプラザの中で、定期利用登録人数に対し、1人当たりの面積基準1.65㎡を下回る施設が36か所、専用区画として小学校の図書室や多目的室等を加算している施設が39か所、指導員数2人/単位以下の施設が30か所でした。わくわくプラザだけでは量の増加に対応できていない状況が数値でも示されています。
●質の課題
前項で述べた通り、「放課後児童健全育成事業」は子ども達が安全に安心して過ごせる“生活の場”を提供することが目的です。
わくわくプラザの学年ごとの利用人数を見ると、高学年ほど利用が減っていくことがわかります(下図:わくわくプラザの「量の見込み」)。特に小学校3年生以上の学年で減少が顕著です。一方、2019年の利用ニーズの調査報告書によると、保護者としては高学年でも利用させたいニーズが3年生以上の学年も高いことがわかります。(下図:わくわくプラザを利用していたい学年)利用者数とニーズが相反してしまっている理由として、子どもが通いたがらないケースも少なくないようです。
様々な理由で通わなくなるのだと思いますが、その理由について利用しない子どもたちを対象とした実態調査は近年行われていません。当会では、川崎市の「放課後児童健全育成事業」が子ども達の“生活の場”を十分に提供できているのか、その質についても検証する必要性を感じています。(川崎市議会に対し2022年10月に陳情書を提出)
また、「わくわくプラザ事業」については2002年の制度設計となっており、それ以降この制度は見直しされないまま現在に至ります。制度構築から20年以上も経過している制度が現状ニーズに対応しているかについても検証が必要な時期だと考えています。
子どものために、より良い制度にするために
課題はあるものの、保護者の就労に関係なく全児童が無料で利用できる「わくわくプラザ」は、川崎市の子ども達が放課後を自由で安心・安全に過ごす為に必要な施策であることは間違いありません。
一方で、当会の母体である川崎市の自主学童保育(※1)も「放課後児童健全育成事業」が定める基準を満たして運営し、前項で述べました「わくわくプラザ」で対応しきれない大規模わくわくプラザ周辺地域において、増加する利用者に受け皿として”量”の不足を補い、子どもたちの「生活の場」を提供する役目を果たしています。しかし、補助金(※2)の対象とされてません。
※1 自主学童保育:父母自らが立上げ・運営している、民設民営の学童保育です。企業が運営する 民営学童との区別のために「自主」という言葉を用いています。
※2 補助金:放課後児童健全育成事業(学童保育)は「子ども子育て支援法」に定められた「地域子ども子育て支援事業」の13事業の1つに位置付けられ、その予算は内閣府から「子ども・子育て交付金」として川崎市にも交付されています。川崎市は「わくわくプラザ事業」において放課後児童健全育成事業を包括して実施しており、その質・量ともに十分に賄われているとして「わくわくプラザ」以外は補助金の対象としていません。自主学童保育のような営利を目的としない民間学童保育を補助対象としていない市町村は極めて異例です。
川崎市の自主学童保育の運営資金は全て保育料で賄われているため、運営状況は大変厳しい状況です。保育料について、隣接する横浜市と比較しました。各市が全小学校で実施している「わくわくプラザ」や「放課後キッズクラブ」は0~5,000円(月額)程度です。横浜市でNPO法人や企業が運営する「放課後学童クラブ」は月額平均約18,000円です。これに対して川崎市の自主学童保育(横浜市放課後学童クラブに相当)は、25,000~31,000円(月額)と高額です(下図表)。上記※2でも記載しました通り自主学童保育には補助金が交付されないために、高額にせざるを得ません。また、それは川崎市で民間の学童保育を新たに立ち上げにくい理由にもなっています。
「背景」項でも記載した通り、増え続けるニーズに対して川崎市の施策は追いついていません。これは2002年当初の施策から現在まで制度設計が変わっていない為だと考えています。子ども達がより充実した放課後の時間を過ごせるために、”量”と”質”の課題の双方を解決し、安心安全な『生活の場』を提供できるように、民間活用を含めた新たな制度構築を川崎市に求めます。
当会では、川崎市の「放課後児童健全育成事業」が子ども達の“生活の場”を十分に提供できているのか検証するため、また、自主学童への補助金交付の妥当性を検討するため、2022年10月に下記の陳情を川崎市議会に提出しました。
<陳情事項>
1,現状の「わくわくプラザ事業」が基準条例他、現在の制度に沿って運営されているか、また現在の保護者のニーズを満たしているか検証して欲しい。
2,「わくわくプラザ事業」の検証を進める中で、自主運営の民間学童保育を補助事業と認める事の妥当性について検証して欲しい。