カサネシリス
Amblyosyllis speciosa Izuka, 1912
レア度：よくわからない
形態：体長は1㎝程の、小型の多毛類。各体節はひし形で、そろばん玉が縦に連なっているように見え、前後端はやや細くなる。背面は褐色や黄色に色づくものや、透明な個体もいる。各体節の後端には、1本の黒い横線が走る。頭部には2対の小さな赤い眼があり、左右の後端から、"Nuchal lappet" という耳のような突起が伸びる（透明なのでわかりにくいが）。疣足の背触糸は、基本は白いが黄色いものも。背触糸はくるくるとよく丸まる。
生息域：北海道～本州の浅海に分布する。瀬戸内海のカキの養殖筏の付着生物（二枚貝やカイメンなど）に混じって見つかることがあり、餌や住処を求めて集まってきているものと考えられている（今島・林, 1969; Jimi et al., 2018）。
生態：体外受精によって、付着沈性卵を産むことが知られる。幼生は浮遊期を持たず、ふ化直後から底生性。基本的にはカイメンに着生して生活する。生殖型への変態を行うとする報告もあれば、そうでないという報告もあるためよくわからない（Pernet, 1998）。Amblyosyllis 属は世界中から19種が確認されている。体色や背触糸の形態などが分類に有効だが、形態が似通う種でも遺伝的にかなり異なると例もあり、正確な識別には遺伝的解析を含めることが推奨されている（Aguado et al., 2019）。
その他：本種は和名が「”カネサ”シリス」になっている図鑑もあるが、「”カサネ”」が普通だと思われる。国外だとシドニー港からも報告例がある（Hutchings et al 2010）。オーストラリア・インドネシア・日本のシリス相はよく似ているとのこと（Aguado et al., 2008）。不思議だ…。
この個体は体色だけ見ると、A. lineata Grube, 1863 という種に似ている
引用文献：
Aguado, T. M., San Martín, G. & Nishi, E., 2008. Contribution to the knowledge of Syllidae (Annelida, Phyllodocida) from Japan with descriptions of three new species. Systematics and Biodiversity 6 (4): 521-550.
Aguado, T. M., Capa, M., Lago-Barcia, D., Gil, J., Pleijel, F. & Nygren, A., 2019. Species delimitation in Amblyosyllis (Annelida, Syllidae). PLoS ONE 14(4), e0214211.
Hutchings, A. P., Ahyong, T. S., Ashcroft, B. M., McGrouther, A. M. & Reid, L. A., 2010. Sydney Harbour: its diverse biodiversity. Australian Zoologist 36 (3): 255-320.
今島実・林和子, 1969. 付着生物中にみられる多毛類の季節的消長. 動物分類学雑誌 5: 2-15.
Jimi, N., Yasuoka, N. & Kajihara, H., 2018. Polychaetes collected from floats of oyster-farming rafts in Kure, the Seto Inland Sea, Japan with notes on the pest species Polydora hoplura (Annelida: Spionidae). Bull. Kitakyushu Mus. Nat. Hist. Ser. A. 16: 1-4.
Pernet, B., 1998. Benthic egg masses and larval development of Amblyosyllis speciosa (Polychaeta: Syllidae). J. Mar. Biol. Ass. U.K. 78: 1369-1372.