柏餅の葉っぱしらべ

調査は終了しました。ご協力ありがとうございました。(2020年5月13日)

端午の節句の供え物として作られる、餡入りの丸いしんこ餅を葉で包んだ「柏餅」は、地域によって使われる葉が違います。民俗学では古くから調べられており、大正・昭和以降は概ね関東でカシワ、西日本ではサルトリイバラが使われ、全国では10数種の利用が記録されているようです(服部・他, 2007)。

そこで、現時点ではどうなっているのか、ツイッターで呼びかけて調べてみることにしました。

調査方法

期間:2020年5月5日〜5月10日 (調査は終了しました。ご協力ありがとうございました。)

方法:柏餅を食べた後、葉を軽く洗って表・裏の写真を撮り、購入場所の市町村名(○○県××市まで)を書いてつぶやいてもらいます。ハッシュタグは「#柏餅調査」です。

呼びかけたツイートhttps://twitter.com/soishida/status/1257536856763187203

結果

寄せられた写真から、以下のように分類しました。

  • カシワ系:カシワか、あるいは形態的に類似した種。

  • サルトリイバラ系:サルトリイバラか、あるいは形態的に類似した種。

  • 型抜き:カシワのような形に型抜きされた葉。

※この同定は調査主宰者(石田)の責任によります。

分布図は以下の通りです。マップの左の凡例メニューを開き、種類のチェックボックスを操作することで各マーカーの表示・非表示ができます。プロットのマーカーをクリックすると、報告者名(@で始まるスクリーンネーム)などのデータが表示されます。プロットは各市町村の代表地点(基本的には市役所・町村役場)に打たれています。都道府県名しか報告されなかったものは、都道府県の代表地点でプロットしています。製造地で報告されたものはその場所でプロットしています。また、数件ですが数年前のデータを登録させて頂いたものがあります。いずれもデータの備考に注記しています。

同じ市町村から複数報告があった場合、マーカーが積み重なってしまい下になったデータはそのままでは見えません。マップの右上の「拡大地図を表示」をクリックし、地図の凡例の虫眼鏡アイコンをクリックするとキーワード検索ができますので、市町村名などで検索してみてください。

(データ更新:2020年5月13日21:00 報告件数:274件)

カシワ系

(購入場所:大阪府大阪市)

サルトリイバラ系

(購入場所:兵庫県洲本市・@sawagani550ccさん提供)

型抜き(葉脈と鋸歯の先端が一致しない)

(購入場所:奈良県奈良市、@harunokusaharaさん提供)

この調査における課題・考察

葉の同定:写真からある程度同定できるのでは、と軽く思って始めてみましたが、やってみると難しいのだと思い知りました(植物担当の学芸員に事前相談せずに始めたのですが、そりゃそうだという反応でした。ちなみに私は無脊椎動物担当です)。特に柏餅の葉(カシワ系)は葉柄部分を切り落としてあり、例えばカシワとナラガシワの区別が困難になります。また、輸入物も多いと思われます。とりあえず「カシワ系」「サルトリイバラ系」に分けるにとどまっていますが、外観写真から得られる情報がないか、引き続き考えてみます。

何の分布か:この調査では「購入した場所」を報告してもらい、分布図としています。自宅で作ったものを報告してくださった方もいましたが、商品の場合、売られている場所は必ずしも作られた場所と同じであったり、近い場所とは限りません。メーカーの製品だと、その工場は地理的に離れていることが多いでしょう。表示されている製造地の情報を集めるという方法でも構わないのですが、それでもなお、その地域の葉を使っているとは限りません。老舗の和菓子店であっても葉は問屋を通じて取り寄せているかもしれません。今回の分布図の解釈は、その土地でどのような形態様式が柏餅として認識(ひいては受容)されているか、ということになるかと思います。この点において、今回の結果を過去の民俗学研究(地産地消的な生活様式の記録)と比較する場合は注意が必要です。民俗学的な分布図としては服部・他(2007)の論文の図などが参考になります。

わかったこと:かつてサルトリイバラが一般的であった西日本でも、カシワ系の柏餅がちょくちょく売られているようです(上のマップで、サルトリイバラ系を非表示にしてみてください。カシワ系が島根・岡山・香川・徳島でも売られているのがわかります)。また、カシワのような形に型抜きされた葉は塚腰(2014)ですでに報告されていますが、今回もいくつか見られました。関東のカシワ系柏餅が"柏餅"として定型化し、西へ波及しているのかもしれません。ただ、今回は「柏餅」という単語で情報提供の呼びかけをしたので、例えばサルトリイバラで包む柏餅を別の名前で呼び慣わしている方はこれらを対象外だと思い、十分に拾えていない可能性もあり得ます。

ご報告頂いた方へのお願い

ハッシュタグ「#柏餅調査」付きでご報告頂いたツイートに添付の柏餅の葉の写真は、調査主宰者のローカルに保存させて頂いています。写真はこのウェブサイトで使ったり、本調査の成果物に転載する可能性があることをご了承ください。その際、ツイッターのアカウント名(@で始まるスクリーンネーム)を写真の著作者名として表示させて頂きます(ダイレクトメッセージで頂いたご報告の場合は表示しません)。この条件による写真使用をご承諾頂けない場合は、下記の主宰者までダイレクトメッセージでお知らせください。

引用文献

服部 保・南山典子・澤田佳宏・黒田有寿茂. 2007. かしわもちとちまきを包む植物に関する植生学的研究. 人と自然, 17:1–11. https://doi.org/10.24713/hitotoshizen.17.0_1

塚腰 実. 2014. 柏餅を包んでいる葉の観察. Nature Study, 60(8):10. http://www.omnh.net/ns_online/html/v60/60-08_007.html(オンライン公開は大阪市立自然史博物館友の会会員に限定されています)

調査主宰・問い合わせ

石田 惣

〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-23 大阪市立自然史博物館 動物研究室

tel: 06-6697-6221 / fax: 06-6697-6225

Twitter: @soishida(ダイレクトメッセージ受信可)