2010年6月30日に私、青木裕子は定年退職になりました。退職後は東京の自宅に電話ボックスぐらいの小さな録音室を作って、大好きな宮澤賢治や樋口一葉や林芙美子や、もう沢山のすばらしい作家の作品をコツコツ録音して音声のライブラリーを作っていきたいという夢を持っていました。
そしてその夢を周りの人達にどんどんおしゃべりもしていました。2007年の夏のある日、軽井沢の以前取材でお世話になった方から突然電話がかかってきました。
「青木さん、軽井沢に来ませんか」
「でも私、定年後は録音室を自宅に作ってそこで文芸作品の音声ライブラリーを作っていこうと思っているので、ちょっと・・・」
「では、軽井沢に録音室をつくればいいのではないですか」という会話から、あれよあれよという間に録音室だけではなく小さいホールも出来る、という話になって行ったのです。
資金不足なので立派なものは出来ないだろうし、総て節約なのだから、いっそ自分でホールを設計しようかと発言して周りをはらはらさせていましたらとても尊敬する画家の(友人でもある)エムナマエさんが「ホールなら深尾に頼んだらいい」と首都大学東京の深尾精一教授に声をかけてくれました。
深尾先生はエムナマエさんの小学校中学校の親友です。深尾先生がアドバイザーとして参加するという ホールにとっては奇跡のような幸運に恵まれました。深尾先生を中心として、佐久に本社のある竹花工業の小林秀司さん棟梁の中澤亮二さん、電気屋さんの中澤正治さんというきわめて優秀な仕事師たちが集って、低予算でなんとか日本で初めての朗読用のホールを最高のホールにしてやろうという気概に燃えて、来る日も来る日も予算を忘れて熱中して下さったのです。
そんなところにはまた日本で有数の音響関係、スタジオ制作のプロフェッショナルが覗きにくるもので、彼らもまた仕事師達の熱意にほだされていつのまにかホール作りに参加しているという、夢のような楽しい日々が展開しました。出来た建物は確かに高価な建材を使っているわけではありませんがまさに自然の恵み、自然の木々を使って、最高の腕と智恵を結集したすばらしい朗読空間、音響空間になっています。またデザインも一度身を置いたら忘れられない、もう一度必ず訪れたくなる本物のホールの品格をたたえています。
2010年5月1日から5日までの杮落としの週を迎え、とにかくスタート、これからは生れたばかりのヒヨコのような朗読館をゆっくり大事に育てていきたいと思っています。
<人物>
1973年、津田塾大学国際関係学科卒業後NHKに入局。37年間、一貫して現場でアナウンサーを勤める。
2010年6月定年退職。NHK総合テレビ「スタジオ102」のキャスター担当に始まり、「NHKニュースワイド」「おはようジャーナル」「くらしのジャーナル」などでキャスターやリポーターをつとめ、テレビラジオで活躍。
1987年ごろからの10年間は精神障害者の社会復帰の問題やハンセン病の回復者の状況など、社会派の番組を次々に世に問い、「世の中の空気を変えた」といわれる番組は数多い。後年はラジオ第一放送「ラジオ文芸館」や「ラジオ深夜便」で朗読番組の制作・朗読をライフワークとし、その延長で退職後、軽井沢に私費で建てた「軽井沢朗読館」の館長を勤め、朗読や音声表現の楽しさを広め伝える活動を全国でおこなっている。2013年1月より軽井沢町立図書館館長。
2013年9月19日はパリの日本文化会館で、22日はフランス、ボーク―ル市のジョルジュブラッサンス会館で自作の書き下ろし「アンドレの翼」の朗読会をフランス人と一緒に行い大好評を博す。2014年10月17日から11月3日まではフランスから女優のブァンダ・ベヌさんを招き、一緒に「アンドレの翼」の日本凱旋公演を各地で行う。
その他の取り組みは「朗読で元気をつなぐプロジェクト」。NPO法人キャンサーリボンズと共に、がん患者さんはもちろん、慢性的な病気をお持ちの方を元気づけたいという思いで2013年より患者さん主体の朗読ワークショップを2016年にかけて全国で開催、朗読の心理的向上効果に関して学会発表を合わせておこなう。
また2011年から2016年にかけて信州各地の図書館で行った「信州朗読駅伝」は図書館と文学作品と地域の特産物をうまく行かした楽しいイベントとして大成功。全く新しい信州発信の取り組みとして全国的に注目を浴び次なる展開を計画中。著書「再婚トランプ」(朝日新聞社)は1998年TBSの昼の連続ドラマ「再婚トランプ」の原作となった。日本文藝家協会会員。
朗読番組「軽井沢 朗読散歩」(FM軽井沢)放送中!
各週(土)夜9:00~9:30 再放送は翌週(土)夜9:00~9:30
詳細は番組紹介のページにて!
http://fm-karuizawa.co.jp/introduction.html
<著書>
『再婚トランプー恋と夫と子供たち』(1992年・朝日新聞出版)
『二度目の結婚物語』(1996年・朝日新聞出版):1998年放送のTBS系愛の劇場『再婚トランプ』の原作
『朗読画集 銀河鉄道の夜』(2004年・NHK出版、付属CDの朗読)
『軽井沢朗読館だより』(2017年・アーツアンドクラフツ)
『朗読ワークショップ』(2021年・アーツアンドクラフツ)
名 称:一般社団法人 軽井沢朗読館
代表者:青木 裕子
住 所:長野県北佐久郡軽井沢町長倉6056
電 話:0267-46-0036