基礎・教養教育センター 高嶋渉
一回限りだと単純なデータでも,長期的に記録すると面白い様子がみえてくることがあります.さらに,クラスで協力するなどしてその数を増やせば立派な研究データになります.運動部活動に所属している生徒にとっては,子どもから大人になる過程でアスリートとして求められる自己管理の面白さや大切さに気付くきっかけにもなるかもしれません.
毎日(あるいは決まった曜日など)できるだけ高頻度で健康や運動パフォーマンス,体調関連のデータを測定したり記録したりして蓄積していきます(例:スマホで計測される歩数,体調,睡眠時間,食事の量や内容,部活や体育の授業の有無と内容,など).加えて,学校行事,季節変化,毎日の気候変化(気温,日照,降水量など),など複数の要因を記録していきます.データは,「エクセル」でパソコンに毎日(あるいは週単位で)保存していきます.健康科学やスポーツ科学分野でのデータの蓄積,分析に適した入力シートの作成方法など,エクセルの基本的な操作についても学び,分析や考察に向けた準備を行っていきます.
また,データはできるだけ「正確」であることが当然必要ですが,スマホなど身近にあるもので測ることができるデータは正確でない場合もあります.測定の方法だけではなく原理についても知ること,さらに測定された値の精度などを確認することで,自分たちが用いる方法の限界についても把握し,さらには「できるだけ正確に測る工夫」を探ることも探究の一つと考えられます.
定期的に記録される身体活動量データ,健康関連データあるいは運動パフォーマンスデータ等の時系列の「縦断データ」をグラフに示し見える化することで,生徒自身の変化を確認させるだけでなく分析の手がかりになると思われます.また,統計処理を可能にし,考察の根拠を示すためにもある程度の人数の生徒で協力してデータを蓄積していくことも望ましいといえます.
ある程度の人数のデータが収集できれば,集団をグループに分けての横断的なデータ比較も可能ですが,実際にはそれだけの人数のデータを集めるのは難しいと思います.公開されているデータ(日本,都道府県,年代別,スポーツ種目別の平均値など)を生徒に調査してもらい,比較検討を進めるのもよいかもしれません.また,複数のデータを記録していれば,データ間の関係性(相関関係など)の分析を進めることもできます.
データ収集の初期段階では,データ収集方法の精度確認や横断的なデータ比較を中心に学習を展開し,データがある程度の期間蓄積された段階で縦断的な分析に取り掛かるのが良いと思われます.
「縦断的な健康データ」の例
データを横断的に比較したり,縦断的に観察したりすることに加え,複数のデータ間の関係性について考えるよう促すことが生徒の考察を深めることになると思われます.
データの時系列的な変化や,グループ分けした集団間,あるいは他の集団との違いがみられた場合や,複数のデータ間の関係性が明らかになった場合はその理由について意見を出し合い,考察を深める時間を設けるのがよいと思われます.
また,統計的な差が認められなかった場合,データ間の関係性が認められなかった場合も(実際にはこのケースが多いと思われます),その理由について検討することで,考察やまとめとして十分な内容となります.