街の一角には空き地がある。
少し離れた所からでも視認できる鳥居の向こうには曼珠沙華の花が不気味な程に密集して生えており、それに囲まれるように古い祠がぽつんと立っている。
気安くそれに触れてはならない。その先が極楽浄土に続いているわけがないのだから。
ビル同士の隙間を通る風が、曼殊沙華の群生を揺らす。
葉と花弁が擦れる音が微かに響く。
一応、周囲の街灯は視界に入るものの、灯りの光は空き地の中央に咲く花畑には届かず、鬱蒼とした暗闇が佇んでいた。
そんな所に、やつはきた!!
「……」
「ガラくーん、お邪魔するよ」
やつはお気楽そうな声を上げた後、靴ひもを固く結んだぶかぶかのスニーカーで土を踏み、花畑につっこんでいく。
そして、物々しい祠を見つけた。
「あった」
「これはうちの店員から。いつもお花を分けて貰ってるから渡してくれって。置いておくね」
物々しさを全て無視して田舎揚げの箱を置く。
葉っぱから出る湿った空気が、ほぼ油に毒された。
「よし」
歴史ある祠とミスマッチ甚だしいお供え物の様子を満足そうに見つめた後、やつはしゃがんで、鬱蒼と咲く曼殊沙華の塊にじりじりと近づいていく。
ぶち、
ぶち、ぶち、
そして、曼殊沙華を抜いていくのだった。
生き生き育ったものから抜かれていった。
こんなために育ったわけじゃないのに、かなしい出来事である。
………。
そんなアルジィの姿を少し離れたところからじっと見ている者が…。
「………」
花を摘むのに夢中になっているアルジィの背後を通り抜けると、祠に供えられた箱に飛びついてすぐさまその中身を貪りはじめた。
1d50 本数 (1D50) > 17
今まさに背後で起こっている唐揚げの惨劇などつゆ知らずといった様子で、つやつやの曼殊沙華を17本、根元近くから千切っていく。
「うん、こんなものかな。今日も綺麗なお花が摘めた!」
そうして、満足げな笑みを浮かべて膝を伸ばすと、祠のほうをくるりと振り返った。
そこには田舎揚げを口いっぱいに詰めた女が!
「………」モッチャモッチャモッチャモッチャ…
「ドゥワ¨──ッ!?!?!」
モチモチとよく噛んで食べている白い女の登場にきたない叫び声をあげておったまげた。それはもうすごくおったまげた。おったまげすぎて背中から地面に転げた。
転げた拍子で、丸まった体が毬みたく前後に揺れた。
「あめちゃん、いつの間にここへきたの! 驚いちゃったな…」
「……?」
特に返事はないが、ひっくり返るアルジィが面白かったのだろうか興味深そうに見つめている。
そして、そのままゆっくり近寄ると、手に持った揚げ物をアルジィの口元に押し付けた。
「え、ほげっ、待、ムグゥ」
白いおなごから、自分が持ってきた唐揚げのリリースを受ける。
このおなご、ちいさいがパワータイプである。
すごいパワー相手では貧弱な毛玉は成すすべもないので、流通経路が巡りに巡った差し入れを口に含んでもぐもぐした。
「…… ……ありがとう」
よく噛んでお礼を言ったのち、口の中に残った小骨をプププと吐き出した。
「ご機嫌よう、あめちゃん。その唐揚げは伽藍堂あてに持ってきたものだから好きに食べてね」
なんだかもううやむやな気もするけれど、留守番がいたのならご挨拶がてら言伝を残すことにした。
たとえ既に大半が食べられているとしても!
「ワタシはいつもどおり、お花を摘みにきたんだよ。伽藍堂のお花は真っ赤で鮮やかで今日も綺麗だから……ああでも、そろそろお暇するつもり。 長居するとガラくんに怒られちゃいそうだからね」
コートの土をぱたぱたと叩きながら、自分の説明をする。
それを聞いた天の火はうんうん頷く。
わかったのかわかってないのか、天の火は祠の前に座り込むと再び揚げ物を口に入れる作業に戻った。
と、その背後の祠から甲高い怒号が飛んできた。
「コラーッ!!それは俺への捧げ物だろうが!何勝手に食ってんだ!」
祠から飛び出してきた鼠はキィキィと喚いている。
「………」バツが悪そうに揚げ物の入った箱を置く
「よしよし…… ってもうほとんど無いじゃん!」
箱を覗き込んだ鼠が落胆の声を上げた。
叱られた天の火は心做しかしゅんとしているようにも見える。
「全く、油断も隙もない。もうやるんじゃないぞ」
食い物に夢中すぎて、曼珠沙華を摘みに来ていた訪問者には気づいていないようだ。
「あれ? ガラくんの声?」
土を払うのに夢中で、あろうことか伽藍堂の主の登場を見逃してしまった毛玉は、甲高い声の発信源を求めてきょろきょろと見回す。
「祠のほうかな、それとも、あめちゃんの近く? おおーい」
遠くを見たり、近くを見たり、せわしなく足をその場で踏み直したりを繰り返していた。
そんなアルジィの姿を天の火が指さして店主に伝えようとする。
「ん? なんだ、うるさいと思ったら豊穣もいたのか」
「おい!足をバタバタするな!潰れるだろ!」
「ええ、そこ? どこ?」
「ここ、ここ!」
天の火が鼠のいる方向を指さす。
指をさしてくれているのはわかる!
どこからともなく声が聞こえるのはわかる!
でも、それ以上がわからん! 暗いから!
ここだ、という声に、はやる気持ちを抑えられず、毛玉は当てもなく一歩を踏み出した。
ブギュ
「ヂ」
「……」
「……」
憐れ、鼠はその断末魔を最期に動かなくなった。
「……? 声がしなくなっちゃった」
「…………」
「あんまりにも気がつかないから、呆れて帰っちゃったかな」
天の火はしゃがんで死骸を見ている。
「あめちゃん、またガラくんに会ったら気づかなくてごめんねとも言って欲しいな。お願いね」
「……」頷く
足の裏の圧死体にも気づかないまま、まとめた曼殊沙華の花を抱えると、毛玉のやつはぺたぺたと元来た道を戻っていった。
「また摘みにくるよ」
そのうえ、呑気に手を振り返していた。罰当たりである。
「………」
その背中を見送った天の火は、死骸をつまみ上げて祠から地下に帰っていくのだった。
本日のお呪い
1、歩く度に足裏からプキュプキュ音がする。
2、あらゆる動物からあからさまに嫌われる。
3、喋った言葉がすべてハム語になる。
期間は1d6日
1d3 みとけよみとけよ (1D3) > 1
1d6 日 (1D6) > 2
2日間、謹んでプキュらせていただきます。
本日の侵入者:アルジィ(GB)