或いは愛憎
或いは愛憎
俺が元々何者だったかなんてのは今更知り得ないだろうし、そこまで興味もない。
ただここにあるのは世に厄を振りまく喜びと、何かに対する憎悪だけだ。
その日は普段から薄暗い街が、雨に打たれて更に暗く濁っていた気がする。
俺はいつものように街中を駆け回り、薄汚れた配管を伝ってどこかの路地裏に出ると、中身の詰まったゴミ袋が並んでいるのを見つけた。鼠にとってこれ以上の馳走はない。
雨音を背に、引き裂いた袋から引っ張り出した中身を吟味する。
まずまずの収穫だな。
その時、一際大きな雷鳴が轟いた。
はっとして空を見上げると、火球が落ちてくるのが見えた。いや、ありゃ人だ。殆ど同時に俺のすぐ横に、ささやきとつぶやきも現れたからな。
通りすがりってやつだ。こんな現れ方するやつはそう見ないが。
地面と骨肉がぶつかる音がして、火球、もとい、通りすがりの女は動かなくなった。
お可哀想に、と案内の必要がなくなったことを察した双子が踵を返す。
だが、俺はこの通りすがりにまだ息があることに気づいた。死んじゃいない。
それと同時になにか酷い嫌悪感と、存在しないはずの幸福な記憶が蘇るような気がした。無論、気だけだ。
「お前をすくってやる」
咄嗟に契約の言葉が出た。
これはこの鼠の身体でも行える、禍電街の店長としての能力のようなものだ。
これでこの女は俺の下僕となった。正確に言えば店員だが。
「帰るぞ、天の火」
真っ白い死蝋となった身体を引きずるように女が身を起こす。
「………」
その姿になんとも言い難い懐かしさを感じたが、そんなに良いものでもない気がする。