公開シンポジウム

幼保小の円滑な

接続と連携を

目指して

当日の会場(山口学芸大学)

大野先生ご発表

堂山先生ご発表

シンポジウムの趣旨

本学会がこれまで探求を重ねてきたペスタロッチー、フレーベルは両者とも大人(保護者・教育者) に対して初等教育や就学前教育において子どもの「発達」をどう保障するかを論じた先駆的人物である。ペスタロッチーの「居間の教育」ならびにフレーベルの「教育的家庭」という言葉は、教育という営みは(子どもと大人がそれぞれ共有する)生活世界を基盤とするという前提があることを示している。その前提から、大人の側が「子どもが捉える生活世界」をいかに理解し、かつ大人の側が見ている「生活世界」へどのように誘うか、という課題も浮かびあがってくる。そうした課題に対して、ペスタロッチーやフレーベルは学校や幼稚園と家庭とを重ね合わせるようにみとってきた。また、両者とも発達の連続性に対して考慮が必要であることを主張している。 このような思考基盤は、現代における学校段階間の接続という課題に対しても一定の示唆を与えるものである。

保育・幼児教育と小学校教育との接続はこれまでも議論され、多くの理論・実践の枠組みが提示されてきた。日本においては 1989(平成元)年改訂幼稚園教育要領・1990(平成 2)年改訂保育所 保育指針における保育内容 5 領域「健康」・「人間関係」・「環境」・「言葉」・「表現」の設定、同年改訂小学校学習指導要領における生活科新設に際し子どもの育ちの連続性を保障する教育活動 の展開が議論されるようになった。2007(平成 19)年改正学校教育法第 22 条に「幼稚園は、義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして、幼児を保育し、幼児の健やかな成長のために適当な環境を与えて、その心身の発達を助長することを目的とする」と掲げられ、幼稚園が生涯にわ たる教育の基礎を培う役割を担うものであることが明文化された。2008(平成 20)年改訂の幼稚園教育要領、保育所保育指針、小学校学習指導要領ではそれぞれ「円滑な接続」、「積極的な連携」を図るよう示された。直近では2017(平成29)年の幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領において「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が明確化されるとともに、各校種の学習指導要領において学校段階間の円滑な接続を重視して教育課程を編成することが求められた。こうした経緯により、それぞれの現場では連携や接続にむけて取り組んでいる。

しかし、文部科学省初等中等教育局「令和元年度幼児教育実態調査」によれば、市町村における幼稚園等の教育と小学校教育との接続にむけた状況について幼稚園・保育所・幼保連携型認定こども園において「連携の予定・計画がまだない」という回答が 6.7%、「連携・接続に着手したいが、まだ検討中である」という回答が 5.8%である。多数を占める回答は幼小連携・接続にむけて何らかの取り組みを行なっているものの、「年数回の授業、行事、研究会などの交流があるが、接続を見通した教育課程の編成・実施は行われていない」(全体の 50.6%)。教育現場では幼保小の円滑な接続を実現するために努力を重ねているが、その難しさはどこにあるのだろうか。

本シンポジウムでは、保育・幼児教育と小学校教育との円滑な接続と連携にむけて、就学前施設での取り組み及び小学校での取り組みについて現状と課題について報告・提案を行う。その際、子どもの居場所としての就学前施設・学校という設定のほか、そもそもの生活の場である「家庭」や「地域」に対し、どのように情報を発信しているかについても触れる。就学前教育と小学校教育との連携にいかに取り組んできたか、また今後の展望について話題を提供し、議論を深めたい。

話題提供① 認定こども園園長の立場から

(ふくがわこども園園長 大野 教正)

公立園と公立小学校の接続カリキュラムについては着手されているが、私立の各園とはなされてこなかった。ここ数年各方面へ働き掛けてきたこともあり、ようやく就学前施設と小学校との間に接続のための情報交換が成立しつつある。

本シンポジウムでは、これまでの園での取り組みについて園での教育がめざすもの、「何を接続していくのか」という園側の展望、現状と課題について、就学前施設における小学校教員の研修時のエピソードを踏まつつ話題提供を行う。

話題提供② 小学校教務主任の立場から

(周南市立福川小学校教諭 堂山 和英)

ふくがわこども園との教職員間での情報交換を通じて、就学前施設での子どもの生活や教職員の日々の実践と、小学校教員の「小学校の教育はこうあるべき」という思い込みとの落差を痛感した。

他方で、小学校の生活科はその成立時から「遊びを通して」という方向性が示されていることも意識し、この数年就学前施設と小学校との接続に取り組んできた。各園のアプローチカリキュラムはあることを踏まえつつ、まず「幼児期と児童期を通して育てたい子ども像」を共有することからスタートカリキュラムの構築に着手している。これまでの取り組みを踏まえ、就学前施設と小学校との接続・連携において小学校側の現状と課題、展望について話題提供を行う。