医師養成課程で行われているOSCE ~公的化の経験を踏まえて~
医師養成課程では、共用試験として2005年より臨床実習前に客観的臨床能力試験(OSCE)が実施され、2020年より臨床実習後にOSCEが実施されている。特に臨床実習前OSCEは2021年医師法の一部改正があり、共用試験に合格した医学生は臨床実習において指導医の監督の下で処方箋交付を除く医業を行うことが可能となった(医師法第十七条の二)。同時に、共用試験合格を医師国家試験の受験資格要件となった(医師法第十一条)。これら共用試験の実施主体は、全国82医科大学と29歯科大学が会員の2002年に設立された公益社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構(CATO)である。臨床実習前OSCEは各々の診察手技の判定であり、臨床実習後OSCEは統合的臨床能力の判定を行っている。今回は、公的化された臨床実習前OSCEと公的化を予定されている臨床実習後OSCEについて講演を行う。
臨床実習前後の評価のあり方 ~統一すべきポイントの本質~
指定規則の改定により「臨床実習前後の評価」が必須となったが、その具体的な方法については、規定されておらず、養成校によって統一されていないのが現状である。医学部等にならって客観的臨床能力試験(OSCE)の実施が話題にあがるが、その内容や実施方法も様々である。臨床実習前後の評価が求められた本来の意味を考えた時、何を、どこまで統一するべきなのかについては、十分な議論が必要である。各養成校が教育方法を工夫し取り組んでいる中で、「臨床実習前の評価」では、それまでの開講科目に対する単位認定との関係が、「臨床実習後の評価」では、捉えたい臨床実習での経験が多岐に渡ることを踏まえることが必要である。大がかりな統一試験においては、各養成校が一定のコスト負担をしなければならない。費用対効果の面を踏まえて、真に統一しなければならないポイントはどこにあるのか、議論のポイントについて提示させて頂きたい。
大学における臨床実習前後の評価 ~OSCE活用の現状と課題~
2018年に改正された「理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則」において、臨床実習の中に「臨床実習前の評価及び臨床実習後の評価を含む」と明記された。ここには、養成施設の教育プログラムの一環として学生評価をしっかりと行うようにという意図があるように感じる。
茨城県立医療大学理学療法学科では、2004年度より臨床実習前OSCE(Objective Structured Clinical Examination)を導入し、2005年度より臨床実習後OSCEを開始した。導入の背景として、従来の臨床実習の学生評価では、臨床実習指導者による評価を重視する傾向にあったが、大学の教育プログラムである臨床実習において、その学生評価は大学が責任をもって行うべきという臨床実習の方針転換があった。OSCE導入以降、学科内でOSCEの在り方を見直しながら、現在まで継続して実施している。その現状と現在抱えている課題について報告し、今後の臨床実習前・後の評価の在り方について、検討していきたい。
臨床実習前後における多面的な評価と教育 ~3年制理学療法士養成校での工夫~
臨床実習前には認知領域を評価するための知識確認試験と、情意領域・精神運動領域を評価するOSCEが必要であると考える。しかしながら、臨床実習で必要とされる能力を網羅的に評価することは難しく、少なくとも本校で実施している試験では、それらの代表値を測っているに過ぎない。そのため、単に試験ができた・できなかったという結果だけでは十分とは言えず、特にOSCEにおいては、単なるセリフや手技の模倣にとどまらず、それらの意味や意義に対する理解度を確認することが重要となる。一方、臨床実習後には学習成果を測定する目的で、臨床実習前と同様の条件でOSCEを行い、学生の成長度を把握するとともに、OSCEだけでは捉えきれない経験値をルーブリックやチェックリストを用いて可視化することが望ましいと考えられる。本学では、このような評価を補完するために、1年次から接遇を含む演習を各科目に組み込んで単位取得によって一定水準を担保するほか、OSCEの動画撮影を行い、その映像に基づいた評価やフィードバックを実施するといった、限られた教育期間を有効に活用する3年制養成校ならではの工夫を行っている。
臨床実習前後の評価の在り方を考える ~実習生の質の保証と実習施設のニーズを踏まえて~
理学療法士養成校(以下、養成校)における臨床実習前評価は、各校独自の基準で実施されており、実習生の質の担保や患者保護に疑問が残る状況にある。この現状では、養成校や地域によって実習生の能力にバラツキが生じ、国民の安全を十分に守れない可能性がある。
実習施設側からは、統一基準がないため実習生の知識・技術レベルが不明確で、都度確認が必要という課題がある。実習施設が求めるのは、疾患ごとの詳細な知識よりも、基本的(教科書的)なスキルや態度の評価であり、実習でしか学べない状況学習の重要性が強調されるべきと考える。さらに、実習後評価では、経験の汎化能力の確認が重要で、特定の技術評価に偏るべきではないと考えている。理学療法の臨床実習前評価は、医学モデルに準じた詳細な評価ではなく、基本的なスキル項目を設定し、全国統一基準で実施されることが望ましいと考える。
本シンポジウムでは、前述したような臨床実習前評価の統一基準の必要性や、実習施設が求める評価の在り方について提言をさせていただき、実習前後の評価について参加者の皆様と一緒に考えることが出来ればと思う。