2025年9月4日(木) 東京理科大学 神楽坂キャンパス C 会場(223教室)
第1セッション(9:10-10:30) 座長: 小貫 啓史(東京大学)
R^{13}への区分線形埋め込みを用いたrank 3の格子の高速同一性判定法
○富安 亮子(九州大学)
本研究では、ランク3格子のモジュライ空間を連続かつpiecewise linearに13次元ユークリッド空間へ埋め込む2つの方法を提案する。これにより、格子パラメータ同士の比較は、13次元ベクトルの比較に還元され、格子パラメータが誤差による摂動を含む場合でも短時間で同一性を判定できる。本研究の動機は、結晶構造をはじめとする周期構造に関するデータベースの高速検索、重複構造検出、構造生成などに関わる高スループット科学計算である。1つめの埋め込みはConwayのvonormおよびconormの新しい応用になる、2つめはRyshkov C-type簡約理論の定義のmodulo 3への自然な拡張による。特に後者では、格子パラメータの未知の摂動に最大限緩い仮定を置いた状況で、同一性を示す格子基底変換の候補を有限個に絞り込めることを、modulo 3のVoronoiベクトルを用いた数学の議論で証明できる。
◎楕円曲線の直積を定義域とする高次数同種写像計算の効率化
○吉住 崚(九州大学)
同種写像暗号とは同種写像問題と呼ばれる問題の困難性に基づいた耐量子計算機暗号の候補の一つである. 同種写像暗号の分野において, 近年Kaniの補題の利用により2次元の同種写像の重要性が増している. これら2次元の同種写像を計算する方法の一つとして, 代数的テータ関数を利用する方法が知られており, その効率的なアルゴリズムの構成も研究されている. また, Kaniの補題から生じる2次元の同種写像は定義域と終域が楕円曲線の直積であり, そのような同種写像は効率性の観点から素数次数の同種写像の列に分解されて計算される. したがって, この分解された同種写像列の一つ目の同種写像の定義域は楕円曲線の直積である. 本発表では, この一つ目の同種写像の効率化の結果について述べる. 具体的には, 効率化するための公式を導出, その公式に基づいたアルゴリズムを提案, 計算機代数システムSageMathによる実装を行なった. また, 既存手法と提案手法の実行時間を比較することにより, 本結果が既存手法よりも効率化されたことを確認した.
◎多重次数付けされた連立代数方程式の求解について
○中村 周平(茨城大学)
連立代数方程式を解く問題は素朴な問題であり, 幅広い分野で現れる. 特に暗号では, 連立代数方程式問題の困難性に安全性の根拠をおく多変数多項式暗号が, 耐量子計算機暗号の候補として活発に調べられている. 本講演では, 有限個の解を持つ有限体上の連立代数方程式問題において, 定義多項式が多重次数付けされている場合について取り扱う. このとき, 多重次数付けMacaulay行列を用いてグレブナー基底計算や解の探索を行うXL (eXtended Linearization) などの求解アルゴリズムは, 目的の対象を出力するために入力パラメータを考える必要がある. 本講演では, このような入力パラメータのいくつかに対してある母関数による特徴付けを行う.
On Diffie-Hellman key exchange algorithm based on a real quadratic analogue of ideal class group action of CM elliptic curves
○木村 巌(富山大学学術研究部理学系)
2006年に,Darmon-Dasguptaはp進的手法を用いて,楕円単数の実2次体類似を提案した.そのために彼らは,古典的な虚数乗法論の実2次体類似もあわせて導入した.本講演では,Darmon-Dasguptaによる虚数乗法論の実2次体類似に基づいた群作用鍵共有アルゴリズムへの応用を議論する.
第2セッション(10:50-12:10) 座長: 青木 美穂(島根大学)
◎超特別な種数5一般化Howe超楕円曲線の存在性と数え上げについて
○大橋 亮(東京大学), 工藤 桃成(福岡工業大学)
超特別曲線は数論や代数幾何学における重要な研究対象の一つだが、種数g>3の超特別曲線が有限個の標数を除いて存在するか否かは未解決である。最近になり種数g=4の場合には、超特別になりやすい曲線のクラスに限定して小標数で同型類個数を決定する先行研究がいくつか報告されている。特に、大橋-工藤-原下(2023)は超特別な種数4一般化Howe超楕円曲線の同型類個数を標数p<200の範囲で決定した。また、自己同型群に更なる制約を加えた場合については大橋-工藤(2024)がより効率的な数え上げアルゴリズムを提案しており、その実行結果を基にすれば超特別な種数4一般化Howe超楕円曲線は(自己同型群に多少の制約を加えても)任意の標数p>17で存在すると期待できる。本講演では、種数g=5の場合における、上記のアルゴリズムの変種を検討する。主結果として、自己同型群に制約を加えた超特別な種数5一般化Howe超楕円曲線の同型類個数を、標数p<1000の範囲で決定することに成功した。この結果は種数4の場合と異なり、残念ながら無限個の標数においてそのような曲線が存在しない可能性を示唆している。
○ は登壇者・◎ は若手優秀講演賞対象
日本応用数理学会「数論アルゴリズムとその応用」(JANT)