2022/6/1613:30 - 17:10

OS-15 移動系列のデータマイニングと機械学習

(JSAI2022のHP)https://www.ai-gakkai.or.jp/jsai2022/os#os-15

(プログラム1)https://confit.atlas.jp/guide/event/jsai2022/session/3G01-04/category

(プログラム2) https://confit.atlas.jp/guide/event/jsai2022/session/3G05-09/category

招待講演(16:30 〜 17:10, 最後の発表)

スマートライフに向けて:ユーザ移動データからの地域知マイニング

馬 強 (京都大学)

キーワード:ユーザ移動データ、ユーザモデリング、地域モデリング

我々は持続可能な社会の実現を支える社会情報基盤について研究開発を行っている.本講演では,スマートライフやビジネス活動を支援するための地域知マイニング技術について紹介する.特に,ジオタグ付きユーザ作成コンテンツと移動軌跡データを用いたユーザモデリング,地域モデリング、ユーザと地域の関係モデリングについて紹介する.

研究発表(13:30 〜 16:30)

運転データからの認知機能推定 (13:30 〜 13:50)

〇基村 竜晟1、田中 貴紘2、吉原 佑器2、藤掛 和広3、金森 等2、岡田 将吾1 (1. 北陸先端科学技術大学院大学、2. 名古屋大学、3. 中京大学)

キーワード:自動車、認知機能、運転支援システム、マルチモーダル

近年,認知機能の低下による高齢ドライバーの交通事故は深刻な問題となっている.個人の認知機能に合わせてドライバーをサポートする運転支援システムはこの問題に対する一つの解決策であり,適切なフィードバックを提供することで,交通事故を未然に防ぐことが期待できる.このようなシステムを実現するために,本論文では運転データからドライバーの認知機能を推定する回帰モデルを提案する.予測モデルの中で,運転している道路の種類を考慮し,様々な長さの運転行動を捉えることによって,ドライバーの認知機能を高い精度で予測することができた.実験の結果,提案手法ではTrail Making Test BとUseful Field of Viewテストのスコアを,それぞれ0.747と0.634の相関係数で予測できた.さらに,本論文では認知機能の予測に重要なセンサや運転行動の分析を行い,道路の種類を考慮した特徴量が予測精度を向上させたことを明らかにした.


Preliminary Investigation of Using Crowd-sourced Photos with Wi-Fi Signals for Predicting Indoor Location Class (13:50 〜 14:10)

〇Teerawat Kumrai1, Takuya Maekawa1, Kazuya Ohara2, Yizhe Zhang1, Joseph Korpela1, Tomoki Murakami 3, Hirantha Abeysekera3 (1. Graduate School of Information Science and Technology, Osaka University, 2. NTT Communications Science Laboratories, 3. NTT Access Network Service Systems Laboratories)

キーワード:Wi-Fi RSS information, indoor location class prediction, convolutional variational autoencoder

Due to the recent evolution and proliferation of smartphones and the social network service (SNS), there are a huge amount of images taken by smartphones at various places that have been uploaded to SNS. Furthermore, various sensors in smartphones such as camera and Wi-Fi modules enable us to easily generate a camera image associated with the sensory information that represents the context in which the image was taken. Therefore, this work investigates a method for using the benefits of camera images associated with Wi-Fi signal strength information to predict indoor location class for shopping complexes. Our method first estimates the store at which a camera image was taken by analyzing the image and web images of branch stores of store chains. Then, the floor plan is used to determine the 2D coordinates of the images taken at branch stores. A transformation function, that maps Wi-Fi signals onto the 2D coordinates, is then constructed using Wi-Fi signals of the branch store images and their estimated 2D coordinates. The function is adopted to predict the indoor location class of images associated with Wi-Fi signals. Moreover, our transformation function has novel features for addressing the non-linearity of the Wi-Fi space, generating virtual Wi-Fi scans on the floor, and training on unlabeled Wi-Fi signals.

地理空間情報とIC定期券データを用いた教師あり学習による駅商圏の異方的推定 (14:10 〜 14:30)

〇兒玉 庸平1、朱山 裕宜1、宮崎 祐丞1、竹内 孝2 (1. 西日本旅客鉄道株式会社、2. 京都大学)

キーワード:地理空間情報、データマイニング、交通

鉄道事業者は新駅設置時の需要推定や駅改良の効果測定に際して,駅勢圏(駅周辺エリアで居住・就業する人がどの駅を利用しているかを示す商圏の一種)の推定を実施する.従来は駅中心ら半径数km以内を駅勢圏とし,国勢調査などの統計データを用いて鉄道利用者数を推定する手法が用いられるが,異方性を考慮しないため,実際の駅勢圏に即しておらず予測と実態との間に大きな乖離が生じている.近年,IC定期券サービスや経路検索サービスの登場により大規模な空間データの取得が可能となり,より空間的に細かい粒度で精度の高い駅勢圏の推定が期待される.本研究では,郵便番号ごとのIC定期券登録数から駅勢圏を定義し,郵便番号ごとの各駅のIC定期登録数を予測する問題として駅勢圏推定を定式化する.さらに対象エリア内の郵便番号から近隣駅までの所要時間,駅同士の地理的関係性などの地理空間情報を用いた教師あり学習によって駅勢圏の推定法を提案する.従来手法と比較し,提案法による新駅需要の推定誤差が削減されたことを示す.

群集誘導戦略最適化に向けた多目的深層強化学習に関する研究 (14:50 〜 15:10)

〇西田 遼1,2、谷垣 勇輝2、大西 正輝2、橋本 浩一1 (1. 東北大学、2. 産業技術総合研究所)

キーワード:深層強化学習、多目的最適化、群集制御

本研究では,リアルタイム対応可能かつ複数指標を考慮した,群集の誘導戦略の最適化に向けて,多目的深層強化学習 (Multi Objective Deep Reinforcement Learning; MODRL) を改良することを目的とする.一般的にMODRL は,Outer-loop method とInner-loop method に分類される.前者は,スカラー化関数により複数の目的関数を単一の目的へと変換する.そして,スカラー化関数の重みの更新と単目的最適化を繰り返すことで,最適解集合であるパレートフロントを求める.しかし,この方法では,単目的最適化に計算コストがかかると,重みの更新回数に比例して全体の計算コストも大きくなってしまう.一方,後者のInner-loop method は,複数の方策を一度に学習するように設計された手法である.本研究では,Inner-loop method の代表的な手法であるPareto-DQN を対象に,行動選択基準の違いによるパレート解の近似について検証する.実験では,ベンチマーク問題を用いて提案手法の評価を行い,最後に群集の誘導戦略の最適化への適用について議論する.

野生コウモリの出巣時における移動パターン計測及びグレンジャー因果を用いた群行動メカニズムに関する基礎的検討 (15:10 〜 15:30)

〇牛尾 和嵯1、藤岡 慧明1、藤井 慶輔2、波部 斉3、川嶋 宏彰4、飛龍 志津子1 (1. 同志社大学、2. 名古屋大学、3. 近畿大学、4. 兵庫県立大学)

キーワード:野生コウモリ、機械学習

コウモリは自身が発した超音波の反響を処理することで周囲環境を認識する反響定位を行う.また多くの種のコウモリが集団で生息し,ねぐらからいくつもの個体が連なって出巣する集団飛行も観察されるが,夜間での計測の難しさなどからコウモリの群行動メカニズムに関する研究はほとんど行われていない.そこで本研究は,高感度ビデオカメラを用いて出巣するユビナガコウモリの飛行軌跡を3次元的に計測し,出巣の行動パターンを調べた.またコウモリは,他個体との衝突を回避しながらも,効率的な集団での出巣を可能にしていると考えられる.そこで,グレンジャー因果関係を集団移動軌跡において計算可能な手法を適用することで(Fujii et al., NeurlPS’21),出巣時のコウモリの群行動を分析した.その結果,前方を飛行する個体は,他個体から「分離」または「接近」するように飛行していることが分かった.これはすなわち,音声を用いて環境把握するコウモリは,視覚的には捉えることのできない後方個体からの影響も受けていることを示唆しており,視覚動物を中心とする集団行動のモデル動物とは違う,コウモリ独自の群行動メカニズムの存在が考えられる.

マルチエージェント深層強化学習を用いた協調的狩りにみられる行動方略の多様性 (15:30 〜 15:50)

〇筒井 和詩1、武田 一哉1、藤井 慶輔1,2,3 (1. 名古屋大学、2. 理化学研究所、3. JSTさきがけ)

キーワード:マルチエージェント、深層強化学習、協力

協調的な狩りは自然界に広くみられる協力の形であるが、その捕食の組織化のレベルには種によって違いがあることが知られている。 しかし、このような多様性を包括的に捉える試みは少なく、協力的な捕食の形態がどのように進化し、維持されてきたかは十分に理解されていない。 本研究では、深層強化学習に基づくマルチエージェント・シミュレーションを用いてこの問題に取り組んだ。 ここでは、これまでの自然観察から捕食形態との関連が示唆されている要因を変化させた際の行動方略の変化を調べ、捕食者よりも獲物のほうが移動能力が高く単独での捕捉が困難であり、かつ獲物を捕まえた際に食料(報酬)を共有する、という二つの要因が組み合わさった条件において個体間で役割分担のみられる最高レベルの組織化が現れることがわかった。この結果は、これまで高度な認知能力が必要かもしれないと考えられてきた洗練された捕食形態が比較的単純な認知および学習の仕組みから進化しうることを示唆するとともに、捕食の形態とその生物の置かれた環境との密接な結びつきを強調している。

反実仮想シミュレーションを用いた野球におけるチーム打撃戦略の効果検証 (15:50 〜 16:10)

〇中原 啓1、武田 一哉1、藤井 慶輔1,2,3 (1. 名古屋大学、2. 理化学研究所、3. JSTさきがけ)

キーワード:スポーツ、機械学習、反実仮想

近年、測定技術の向上に伴い、野球の応用的なデータ分析が広く行われるようになった。グラウンド上のあらゆるプレーが定量的に評価され、個人やチームの戦略に大きな影響を及ぼしている。個人の打撃貢献を表す指標としてwOBAという指標がよく知られているが、wOBAは走者状況や点差などの試合状況を考慮しない。しかしながら、実際の試合において試合状況を考慮して複数の打撃戦略を使い分けることは一般的であり、その効果は未知である。これは、打者の戦略を第三者が取得できず、効果の推定が困難であるためだと考えられる。そこで本研究では、反実仮想シミュレーションによる効果推定方法を新たに提案する。これを実現するため、打撃戦略の変更にあたって妥当な打撃能力変換を行う深層学習モデルを提案する。本手法によって、実際の試合データでは難しかった、様々な戦略の効果推定が可能となる。検証の結果、打撃戦略のスイッチングコストを無視できる場合、戦略の使い分けが得点を増加させることが明らかになった。また、スイッチングコストを考慮する場合、得点が増加するための条件は限定的であることが明らかになった。

軌道予測に基づいた味方の得点機会を創出するサッカー選手の評価 (16:10 〜 16:30)

寺西 真聖1、筒井 和詩1、武田 一哉1、〇藤井 慶輔1,2,3 (1. 名古屋大学、2. 理化学研究所、3. JSTさきがけ)

キーワード:スポーツ、移動系列、マルチエージェント

サッカーは22人の選手とボールが複雑に相互作用する競技である。サッカーの攻撃選手の定量的評価については、ボール保持状態に関する研究が多く、数は少ないがボール非保持状態に関する研究も行われている(例えば[1] Spearman et al. 2018)。しかし、ボールを保持せず、受け取らない攻撃選手の評価が難しく、典型的な(あるいは予測された)動きと比べて、どのように動いたことが得点機会の創出に寄与するかを明らかにすることが難しい。本研究では、軌道予測により生成された基準となる動きを実際の動きと比較して、オフボールの得点機会を創出する選手を評価する。提案手法では、まず正確に選手間の関係性をモデル化し長期軌道予測が可能な、グラフ変分再帰型ニューラルネットワークを用いて軌道予測を行う。次に、ボール非保持状態を評価する既存手法[1]の実データの値と軌道予測の値の差に基づき、基準となる予測された動きと比べて、どのように動いたことが得点機会の創出に寄与したかを評価する。検証では、Jリーグの全18チームとの得点との関連やある1試合の例を用いて、提案手法の評価が直観に合うことを示す。

オーガナイザ

藤井 慶輔(名古屋大学大学院情報学研究科)

竹内 孝(京都大学大学院情報学研究科)

沖 拓弥(東京工業大学環境・社会理工学院)

西田 遼(東北大学大学院情報科学研究科)

田部井 靖生(理化学研究所革新知能統合研究センター)

前川 卓也(大阪大学大学院情報科学研究科)

本OS: 移動系列のデータマイニングと機械学習について

計測技術の発展によって、様々な生物や人工物の移動の記録が可能になりました。これを背景に、多岐にわたる社会や科学分野への貢献、例えば、小型GPSを装着した野生の動物の行動データから動物の生態の理解、車両の移動データから様々なリソース配分の効率化、カメラから得られたスポーツ選手の行動データからスキルの評価などが期待されています。このように移動系列を解析する手法の重要性が高まっていますが、対象を越えて移動系列が持つ普遍的性質を扱う方法や、その性質を用いて高度な予測を行う人工知能技術は存在せず、従来の研究は対象毎に個別の領域で研究が行われるに留まっています。そこで、本OSでは、解析手法の1つであるデータマイニングや機械学習技術を軸足とし、対象間に共通する問題やその上で更に個別の議論を行うことで、各領域や共通の問題の解決を行っていきます。

 本OSは、工学、コンピュータ科学、生物学、神経科学、スポーツ科学などを専門にする研究者が、記録されたヒト、動物、自動車などの軌跡・活動・行動データの解析方法について機械学習など人工知能分野の技術を用いた議論する場となることを期待しています。さらに単に手法や個別の領域の議論だけでなく、より大きな視点から、データ取得・公開や、政策などの意思決定、応用領域での活用、さらには領域をまたいだ議論の土台としたいと考えています。

 本OSのオーガナイザには、科研費学術変革領域A「サイバー・フィジカル空間を融合した階層的生物ナビゲーション(階層的生物ナビ学)」への参画者も含まれており、ヒトや車両などの公開データだけでなく、様々な生物行動の貴重な計測データの研究も募集しています。関心のあるテーマとして、生物・人工物の軌跡・活動・行動データに関する以下の例がありますが、これらを超えた領域からの参加を期待しています。複数の領域で議論することにより、それぞれの領域の強みを知り、また関連問題への関心の提起や、自身の領域の未解決問題の発見などの、様々な発展を期待しています。


キーワード

  • 時空間データ

  • データマイニング

  • 機械学習

  • 生物モデル

  • 軌跡・活動・行動データの情報処理