招待講演

招待講演

招待講演1:高雄啓三先生(富山大学) 15:00~16:20

題目:「マウスにおけるゲノム編集と行動解析を起点とした『こころ』の研究」

概要:「こころ」は脳が司る機能のひとつとされている。この機能のために脳はさまざまな情報を受容して処理するが、その最終の出力は個体の行動という形で発現する。現代の科学をもってしても「こころ」を直接的に研究することは困難である。しかし、その物理的な基盤である脳とその最終的な発現である行動を対象とすることで科学的に研究を行うことができ、その手法は実験心理学として発展してきた。すべての遺伝子の 80% 以上は脳・神経系で発現しているとされ、脳で発現する遺伝子の機能を調べるためには脳活動の最終的な出力である行動を調べることが必要である。実験動物のマウスは遺伝子の操作が可能であり、マウスの遺伝子の 99% はヒトに対応する遺伝子があることなどから個体レベルでの遺伝子機能解析に適している。これまでに演者らは、各種遺伝子改変マウスに対してバッテリー化した行動テストを行うことで、 遺伝子・脳・行動の関係を調べてきた。その中で精神疾患様の行動異常を示すマウスを同定し、そのマウスの脳を解析することによって遺伝子と精神疾患の関係、さらには新たな治療法や診断法を開発する上でのターゲットとなりうる中間表現型を明らかにすることを目標として研究を行ってきた。本講演では、マウスを活用した精神疾患研究を行うにあたって、ゲノム編集技術による遺伝子改変マウスの作出から行動表現型解析にいたるまでの基本手法と実例を概説するとともに、それらの研究を他研究者と共同で進める際に気を付けること、得られた結果を解釈する際の注意点などについても議論する。


招待講演2:福森聡先生(香川大学) 16:30~17:50

題目:「異分野融合 = True if (理解 == True or 敬意 == True) : False」

概要:突然ですが、「異なる文化の交流において、互いの文化への理解と敬意は大事だと思いますか?」そう尋ねられたら、なんとお答えになりますか。誰もが「はい、大事です」と答えるはずです。 では、学術の世界ではどうでしょう? 学術を世界に例えてみると、同じく「はい」です。学術が世界だとすれば、学術分野は国であり文化とみなせます。すると、学術分野同士の交流とは異文化交流と同じであり、異分野融合においても理解と敬意は大事だといえます。心理学は本来、異分野との交流の可能性を多く持つ学問であり、驚くかもしれませんが、工学や産業分野との接点は特に多くあります。その理由は、現代の世の中のモノやシステムが人を中心に作られることにあります。また将来に目を向けてみても、例えば、コンピュータと人の関係は今後ますます密接かつ複雑になることは確実です。だからこそ、心理学分野を中心とした異分野融合への要請は、学術だけでなく社会からも増加するでしょう。社会的要請に学術界は答えるべきですが、現在のところ心理学と他分野との連携が簡単ではないことも事実です。異分野融合において大事にすべき事柄はいくつかありますが、本講演では異分野融合を異分野交流として捉え、互いの分野への理解と敬意とは何か、異分野融合にむけて今私達ができることは何か、この2点を中心に考えてみます。講演の題材としてヒューマンインタフェース(以下,HI)分野の研究を中心にいくつかの事例を取り上げます。HIは、知覚や心のはたらきに関する心理学の知見を利用して、人と機械、人とコンピュータの相互の情報のやりとりを研究するため、異分野の集まったような学問です。そのため、心理学を基盤とした他分野との異分野融合を考えるためのよい題材となるはずです。会場の皆様も一緒に異分野融合について考えてみましょう。