「本気で大学院に行く気があるのかね。」大学4年生になる直前、ゼミの指導教授の池間誠先生に問いただされた。ゼミに入るための面接試験で大学院に行きたいと言ったのに、バレーボールとマージャン三昧の生活を送っていたのだから、先生の疑いも当然だった。

「えー、あのー、できれば…」としどろもどろの返事に、「来週から大学院生と集中的に勉強会をするから、毎週発表するように」とおっしゃって、マクロ経済学の英語の教科書を差し出した。

それから必死に勉強した甲斐あって大学院に合格。先生から「これからはプロの研究者の自覚を持って研究に取り組んで欲しい」と身の引き締まる言葉をいただた。

先生は酒豪で、ゼミの後も、居酒屋で酔っぱらいながら真夜中まで議論が続いた。その後、ご自宅まで押しかけて奥様に大変なご迷惑をおかけしたことも度々あった。カナダに留学する際、先生から「君は酒が飲めるからどこでも立派にやっていける」とお墨付きをもらった。

カナダでの博士論文の指導教授も大のビール好きで、池間先生との居酒屋での特訓（？）が奏功した。不肖の弟子への先生一流の激励であったと思うが、今もこの教えを忠実に実践している。いまだ池間先生には到底およばないのだが。

石川城太(一橋大学経済学研究科)　交遊抄「居酒屋の特訓」日本経済新聞2014年3月3日朝刊掲載