プログラミング実習余話

このブログは2018年2月にメモを整理して纏めた備忘録です.その一部を順不同で公開します.

情報処理実習での学生とのやりとり

田舎の薬剤師に必要ですか

鹿児島出身の女子学生が研究室にやってきて,「私は卒業後,郷里の田舎で薬剤師をするのですが,プログラムを作る能力が必要でしょうか」といった.日常的にプログラムを作るようなことはないと思うが,情報格差の大きい田舎だからこそ,医薬品情報を収集するのにパソコン端末が必要であることを説いて納得してもらったことがある. 今どうしているか知りたいものである.

数学的に成り立たない

プログラミングするためには,基本的な約束事を知る必要がある.ところが,たまにどうしても約束事を受け入れてくれない学生がいる.たとえば,

N = N + 1

という構文がある.その意味は,Nという変数に1を足した数値をNと置き直す,実行する度に1ずつ増えていくカウンター,すなわち N ← N + 1である.ところが,「数学的に成り立たない」と言って納得しない学生がいた.

苦肉の策

プログラミングの試験の際,九九算の実行結果を提示して,プログラムを作ることを要求した.皆,二重ループを利用したプログラムを書いて解答していたなかに,一人だけ以下のような文を9個列べて解答した学生がいた.プログラミング言語は何でもよいと書いたが,繰り返し文を使用せよとは書かなかった.

print"1 2 3 4 5 6 7 8 9"

print"2 4 6 8 10 12 14 16 18"

print"3 6 9 12 15 18 21 24 27"

以下略

正解と実行結果は以下の通り

見栄っぱり

最小二乗法のプログラムを実行する際,「プログラムのタイトル,番号,氏名を表示した後,画面が切り替わり,データ数,次にデータ入力を促すようにしなさい」と指示したら,オープニングページに凝る女子学生がいた.中味よりも外見が大事という考えなのだろうか,女性心の微妙さを再確認することとなった.

親が見学に来た

昭和60年代に,薬品製造工学実習の中で,教員や学生のパソコンをかき集めてプログラミング実習を実施した際,学生の父親が突然訪ねてきた.息子がパソコンを買いたいと言っているが,本当に必要なのかという疑問であった.「百聞は一見に如かず」で納得してもらえた.兄弟で薬学部に在籍していたので,ニ学年にわたり役に立ったはずである.

性格判断

学生は各自それなりに自尊心があるので,欠点を指摘するのはきわめて難しい.下手をすると○×ハラになってしまう.ところが,プログラムを作らせるとパソコンが欠点を指摘してくれる.サンプルプログラムを入力させ,実行させるとパソコンが誤りを指摘してくれる.1(イチ)と I(アイ)と間違えたり,折角打ち込んだプログラムを消してしまったり,保存せずにパワースイッチを切ってしまったりしてしまう.

予習

我々の指導の仕方が悪かったのかもしれないが,予習してくる学生はほとんどいない.私大では予習のためにホームページを公開したが効果はなかった.FORTRANの時代,プログラムやデーやをカードにパンチしていた頃は,打ち間違えたらカード1枚すてなければならないため,予習しないなどあり得なかった.プログラムを書くコーディング用紙が学内売店で売っていた.関連ヴログ

BASICですか?

数年に一人くらい,「なぜBASIC言語を使うのか」質問する学生がいた.当時の家庭用パソコンに標準的に入っていて,大学以外でも学習できるメリットがあった.ある時,C言語をかじったことがあるという学生がBASIC言語は低級だと言わんばかりのことを言うので,C言語でプログラムを作ってもよいといってやった.しかし,九九算程度なら作れても,グラフィック処理で壁にぶつかり,止めてしまった.試験ではプログラミング言語は何でもよいと言ってもBASIC言語以外で解答した学生はいなかった.

男子復権

反応速度測定結果をデータ処理する際,直線の当てはめに自作プログラム(最小二乗法)を使用するように指示した.当初,どうなることかと危惧したが,学生同士で教え合いながら全員提出期限までに合った(と聞いている).その際,日頃は地味で目立たない存在である男子学生(パソコン好き)が大活躍したという思わぬ副産物が得られた.

注)直線になるはずなのに,測定誤差のためばらつきが生じる.そのような場合.最小二乗法プログラムを使用する.詳細省略

○文字を拡大して(私大)

学生は椅子に座ってパソコンに向かっている.教員は立って肩越しに画面を覗き込む.歳を取ると画面の小さい文字は見難い.

「文字のサイズを大きくして」

「先生見えんと?」

「歳だからね」

「近づいてもいいけどセクハラに・・」

○先生見たでしょう?(私大)

肥満度計算プログラム「BMIは [体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される値」を作らせた時の話

「BMIのプログラムできた?」

「先生,見たでしょう」

体格のよい女子学生が正直に自分の値を入力していた.

○先生,わからーん(私大)

「先生,どうしてよいかわからん」

フローチャートを見て一通り説明した後,

「こんなことができるなら,ここには来てませんよ」.

「うーん」

○先生は頭のよかー(私大)

65歳で国立大学法人を定年退職し,新設私大で情報処理実習を担当した.国立大でやっていた実習内容ををそのまま実施してみた.

九九算の課題で,段が変わっても同じ内容しか表示しない.お手上げで助けを求めてきた.

ij = i*j(iとjの掛け算)とすべきところ, ij = 1*j(iではなく1)となっていることは経験から直ぐに分かったが,誤りを見付けることも学習のひとつであるので,i, ,j の積(ij)と一緒に i, jを書き出すようにプログラムを変更して実行させた.間違いに気付き「先生,頭のよかー」と褒めてくれた.

さらに続けて「先生何歳ですか?」と聞かれた.「そろそろ定年(70歳)」と応えると,「うそー,じーちゃんと年がかわらんのに」と言われた.若い教員に較べるとかなり年をとった教員がプログラミングができるとは思わなかったらしい.

○先生できたー!(私大)

苦労しながらプログラムができた時の学生の反応を紙に書くのは難しい.その時の表情を見たら,プログラミング教育に疑問を持ってる人でも考え方を変えるのは必至である.親に見せるために携帯で写真を撮る学生もいた.暗記することだけが勉強でないことが初めて分かったといってくれた学生もいた.

○パスワードを入れなきゃ(私大)

「先生,入れたけど動かん!」

よく見たらpasswordと入力していた.

120点満点(私大)

先生,採点は100点満点ですか?

質問の意味が分からんけど?

先生によっては120点満点で50〜60点で合格とのことであった.

○親切があだになった(私大)

国立大学で授業時間を延長して成功したため,私立大学へ異動した後,情報処理演習を1日の最後に設定してもらい,授業時間を過ぎても演習を継続できるようにした.ところが,そのことが裏目に出た.時間が来たら未完成のまま帰る学生が多いので,尋ねてみたら「バイトが入っています」.何も言えなかった.

説明を聞くようにパソコン画面をロック

○ワード,エクセル,パワーポイントは必要(数年前)

大学の理事会や幹事会では,全学委員会で策定中の「教育改革案」が当該委員長から中間報告されることがある.その中で,情報教育についても報告があった.内容的に新しいものはなかったので,小学校でもプログラミングを必修化しようという時代に現状の情報教育は古いのではないかと質問をした.ところが,「今の学生はスマホ等の文字入力はできるが,キーボードは打てないので,ワープロ等の課題は必要」との答えがかえってきた.これに対しては疑問視する意見がでた.義務教育で習得したITの知識は大学入試でリセットされるという現実が見え隠れした.

○パソコンを購入しても無駄(数年前)

大学に入学するとパソコンを購入させるところが多くなった.ある大学で,卒業時に在学中のパソコンの活用度を尋ねたところ,情報教育以外はほとんど使用しなかったという結果だったという話を聞いた.そのことを現役の先生に話したら,実習レポートをパソコンで作らせるとコピーが出回るので,手書きにしているという.パソコンを就活のエントリーで利用する頃には性能的に古くなっているということになる.

○コロナ渦のパソコン教育(現在)

一昔前のことしか知らない者には想像できない苦労があるようだ.福岡の新設薬学部の先生によると,情報処理室パソコンのキーボード,マウスは使い捨てビニール手袋を付けて利用させているとのことである.国立大学の場合も同様で,端末機は3台に1台に座席制限しているとHPに書かれている.対面講義を開始した大学では,以前のように全学生を一つの講義室に詰め込むことはできないので,半数の学生は隣の講義室でライブ映像を視聴させ,講義回数が増えないように工夫しているとのことである.学生は,対面教育の代わりに,連日オンライン教育漬けになっているため,ITの必要性を改めて説明する必要はないらしい.

設置端末を利用する場合,キーボード,マウスに触れる際には,使い捨てや衛生上清潔な手袋を持参利用(徳島大学ホームページより)

(2020.10.4)