「自己組織化」というキーワードは、分野をまたいだ研究として現在もよく使われています。本研究室も「自己組織化学研究室」という名称にしているのですが、言葉の定義があいまいですと言葉が独り歩きしがちです。そこで私たちが考えている「自己組織化」を提示することで、多くの方々に研究内容をご理解していただくことを目的として解説することにしました。もちろん私たちの考えに異論をお持ちの方がいらっしゃるかと思いますので、ご指摘いただけますと幸いです。
(文責:MY, YK, TF, SN)
私達の研究室では、自己組織化する化学反応系について研究しています。自己組織化には様々な現象がありますが、例えば、虎の体表模様で見られる黄色と黒の「周期的なパターン」が代表例でしょう。
ところで、「自己」とは一体何を指すのでしょうか?物質AとBが共存する可逆的な反応系A⇔Bでは、AとBの濃度が平衡になるよう進行します。ところが周期的にAとBを繰り返すパターンが生じる場合、濃度は平衡ではなく、平衡から離れた「非平衡状態」になります。それは外部から強制的にパターンを形成するのではなく、反応系自身がAとBを繰り返す仕掛けを内在し、自発的にパターン形成することを意味します。
つまり自己組織化とは、自分自身で組織化する現象を指します。ではその反対の現象、つまり外部から強制的にパターンを作る現象は何と呼べばよいでしょうか?対義語辞典によると、自己の対義語は、「他者」や「他人」とあります。また、他者を援用して自分に向き合う場合、「他己」という表記もあるようです。阪神タイガースのユニフォームである黒と黄色のストライプ模様は、自己組織化ではなく、他者が作ったデザインということでしょう。
振動現象を研究していると、カオス(Chaos: 読みはケイオス)という言葉で表現する現象に遭遇します。Wikipediaによると、カオスとは「ギリシア神話における原初の神である。」との説明がある一方、世間では、複雑すぎて理解できない場面に遭遇すると、「まさにカオスだ!」と雑に扱われることがあります。この場合のカオスは、混沌や無秩序という意味で使われることが多いようです。ちなみにカオスの反対語はコスモスだそうです。またAIP(米国物理学協会)の国際学術論文にChaosという雑誌があります。
さてサイエンスには専門用語に対してきちんとした定義や理論があります。私達の調べたところでは、理論的にはロジスティック方程式やローレンツ方程式があります。またカオスか否か(単なる無秩序)の判定には「フーリエ変換型サロゲート法」があります。
では「まさにカオスだ!」といえる実験系はあるのでしょうか?こちらも調べたところでは、二重振り子がその代表例で、それ以外には半導体レーザーで生じる光カオスがあります。ところが実験系の制御の難しさのために、実際の実験系、特に化学反応系で、カオスか否か、判別しにくいというのが正直なところです。このような場合、私達はChaotic(カオス的な)という言葉を論文で使います。面白いことにWeb of Scienceでキーワード検索したところ、Chaosで24648件検索されたに対して、Chaoticで25994件も検索されました(Googleで「まさにカオス」で検索すると4370000 件出てきました。)。つまりサイエンスの世界では「この現象はまさにカオスだ!」と言い切れない現象が多いようです。