【試訳】セルゲイ・クリョーヒン『ミスター・デザイナー』(1999, Поп-Механика ‎– PMC 98003, CD, Russia)解説 オレグ・テプツォフ(山本桜子訳)



『ミスター・デザイナー』Господин оформитель1988/ソ連/108min/カラー/レンフィルム監督:オレグ・テプツォフ 脚本:ユーリー・アラボフ 撮影:アナトーリー・ラプショフ 編集:サミュエル・E・ビートリー 音楽:セルゲイ・クリョーヒン 出演:ヴィクトル・アヴィーロフ、アンナ・デミヤネンコ、ミハイル・コザコフ

セルゲイ・クリョーヒン(Sergey Kuryokhin, 1954-1996)の映画音楽アルバムCD『ミスター・デザイナー』(Господин оформитель, 英題Mister Designer, アーテイスト名義Pop-Mekhanika, 1999) に掲載されている監督オレグ・テプツォフ(Oleg Teptsov, 1954-)の解説の試訳。同アルバムは『ミスター・デザイナー』(Господин оформитель, 1988)と「Посвящённый」(英題The Initiated, 1989)の二本のサントラを所収。試訳は英語版解説からの山本桜子によるまた訳に拠る。[ ]内は山本による注。後日改めて詳しい注を付す。
2020年6月24日異端審問: フィルム=ノワール研究所

セルゲイ・クリョーヒンを紹介されたのは1986年夏だった。当時まだ実際に会ったことはなく、彼の名前を私は知らず、私の名も彼にとってはなんのことやらだった。我々は芸術広場[The Arts Square. サンクトペテルブルグにある]で待ち合わせ、ものの五分も経たぬうちに協働を決めた。
次の日クリョーヒンは『ミスター・デザイナー Ⅰ』の素材映像を観てくれた。そうこうして我々はクリョーヒンがレコーディング・スタジオに持参したサントラの各曲について議論する。ロックグループ「キノ」[KINO, 1982-90]メンバーのカスパリアン[Yuri Kasparyan, 1963- ]、ティコミロフ[Igor Tikhomirov, 1961- ]、グリヤノフ[Georgy Guryanov, 1961-2013]、アフリカの名で知られるセルゲイ・ブガエフ[Afrika, 本名Sergei Bugaev, 1966- ]も現れた。レコーディングに際してクリョーヒンは小さなベルを鳴らす役を務め、出番がないときはほとんど寝ていた。残りの者はその間に、優に映画二本分はあるスコアを八時間で録音した。
続く二日間で私はサントラを編集し終え、お偉いさんたちにプレゼンした。驚いたことにこの映画はゴスキノ[Goskino=ソ連邦国家映画委員会]の好評を博し、我々はフルスクリーン版『ミスター・デザイナー Ⅱ』[上映研究#1で扱った108分版]の資金をもらえることになった。そこでセルゲイは思い立った――全部の曲を作り直しちまおう。我々はそのとおりにし、またしても素晴らしいものができた。
一年後、私の二作目 「The Initiated」の撮影が終わったとき、クリョーヒン以外の音楽家と組むつもりなど私には毛頭なかった。セルゲイはただちにいくつかのテーマを作曲した。それらは実際、映像のシークエンスにすんなり合致した。私は幸せだった。これからたくさんの映画を一緒につくれると確信した。しかし、そうはならなかった。
いま、最も印象に残る映画音楽を問われたら、心に浮かぶのはショスタコヴィッチ[Dmitri Shostakovich, 1906-75]、シュニトケ [Alfred Schnittke, 1934-98]、ニーノ・ロータ[Nino Rota, 1911-79]、そしてセルゲイ・クリョーヒン。悲しいことに、これらの名前はもはやすべて歴史上のものである。
オレグ・テプツォフ