追放された吸血鬼は貧乏魔女に拾われる
闇夜に覆われた森の中を、一人の少女がふらふらと歩いていた。
「国を追い出されちゃうし血も吸えないし最悪だよぉ」
ボクは吸血鬼のシエラ。貴族の両親のもとで生まれて、順風満帆な生活を送っていたんだけど、数日前王様に対して侮辱を行ったとして吸血鬼の国エルディアから追い出されちゃったんだ。
しょうがないじゃん!!あんな醜悪なデブが急に顔を近づけてきたら「キモっ」て言っちゃうじゃん!
かなり小声で言ったつもりだったんだけど地獄耳の王様には聞こえたらしく激怒して、ボクを国外追放してしまったんだ。
「それはそれとしてお腹空いたなぁ」
周りを見渡してみるけどここら辺には動物はおろか、木の実すら無く、木々から漏れる月の光だけがあった。
ボクの体は数日間ずっと歩いていたことによる疲労、陽の光によるダメージ、血液不足でもうボロボロだった。
しばらく歩いていたが、既に限界を超えていた身体は、もう動かなくなってきていた。
「あぁ、もう、ダメかも」
ボクは木にもたれかかることすら出来ず、そのまま倒れ込んだ。
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ボクが目を覚まして、真っ先にボクの目に飛び込んだのは森の木々ではなく天井だった。
「あれ?」
ここは何処だろうか。辺りを見渡すと、文字や図が書いてある紙や様々な形をしたガラス瓶が床に大量に散らばっていた。
すると突然、扉が開いて人が入ってきた。
「目を覚ましたの?」
黒い髪をなびかせながら入ってきたのは、つばの広い大きな三角帽子を被って黒いローブを纏った女性だった。
「あなた、身体の調子は大丈夫?」
「は、はいっなんとか」
「良かった、人間の薬が吸血鬼にも効いて」
「あ、あの、なんで吸血鬼のボクを助けてくれたんですか?」
ボク達吸血鬼は人間にとって恐ろしい存在であるのに、なぜボクのことを助けたのか気になって質問をした。
「それは、ワタシが貧乏だからよ」
「どういうことですか?」
「この家は見ての通りかなり散らかっているの。そこであなたにはこの部屋の掃除や、ワタシの世話などをしてメイドになって欲しいの。」
「メイドを雇うなら人間の方がいいんじゃないですか?それに、吸血鬼のボクが怖くないんですか?」
「人間のメイドを雇うにも奴隷を買うにしても大金がいるし、食事代もかかる。あなたなら食事代はかからなそうだし何よりワタシはキミに興味があるの。ここ数百年エルディアが鎖国まがいなことをしているせいで吸血鬼に関するまともな資料がほとんど無いのよ。」
「そう、なんですか」
たしかにエルディアの外に出たことがある吸血鬼を今まで見たことが無かった。エルディアから出ることは犯罪で、かなり厳しく取り締まっているからだ。昔のことなのであまり記録に残っていないが噂によると、吸血鬼と人間の混血の子供を産まないようにする為につくられたものなんだとか。
「それで、ワタシのメイドになってくれる?」
「・・・なります!」
ボクは家事なんてやった事が無かったけど、死にかけのボクを助けてくれた恩義もあるし、ボクを生かしてくれるなら家事でもなんでも全力でしようと心に誓った。
が、その時。
ぐうぅぅぅう
「ふふっ、それじゃあ吸血しても良いわよ。ワタシは初めてだから、お手柔らかに頼むね」
「い、いただきますっ」
ボクはお腹の音を聞かれてしまったことによる羞恥で顔を赤らめながら、近づいてきた彼女の首筋にカプリと噛み付いた。
「んんぅぅぅぅっ、これは、何だかむず痒くなるね」
ボクの喉は彼女の声が聞こえなくなるほど久しぶりの血液に歓喜し、あまりの興奮にボクは我を失った。・・・彼女に肩を押されるまでは。
「今日はここまで、吸われすぎるとワタシが倒れてしまうからね」
「あっ」
急に押されたことで首筋から口が離れ、口寂しく思いボクは少し声を出してしまった。
ボクは恩人に対してなんてことをしてしまったのだろう。
「ご、ごめんなさいっ・・・」
「そんな顔しないで、明日もまたあげるから。ね?」
彼女は我を忘れて血を吸い続けたボクの事を許してくれたし、生活を提供してくれた。ボクも彼女に恩返しをしないと!
「魔女様、ボクはシエラです! 家事 頑張ります!」
「ワタシの名前はノエルよ。シエラちゃんよろしくね」
「よろしくお願いします!」
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数年後
ぷはぁっ
ボクは彼女の血を吸う度に彼女の顔を見るようにしている。それは建前としては彼女が苦しそうにしていないかの確認だが、本当は彼女のほんのりと上気した顔が見たいからだ。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
彼女の寝起きの仕草、吸血鬼のボクにも優しくしてくれる心、ボクに体を預けている時の姿、全てがボクを満たしていく。
いつの日かボクは、彼女に恋をしていたのだ。
でもボクは彼女にそれを伝えないだろう。ボクは吸血鬼、彼女は人間、そしてボクも彼女も同性だからだ。それにもし伝えてしまったら、この関係が終わってしまうかもしれないから。
でも、でももし彼女がボクに好意を持っていて、ボクの気持ちに彼女が答えてくれたなら・・・
そんなことを考えていると何だか気恥ずかしくなって、ボクはもう一度彼女の首筋に顔を埋めた。